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1-8 LU3004年154の日その5(ミア・クイック1-邂逅-)



そこは白い部屋だった。

辺り一面、真白な小さな部屋。

中に置かれているのはベット1つと小さな花が植えられた鉢が1つ。

そこに一人の少女がいた。

流れるような黒髪にはっと目を奪う程美しい白い肌の上に白いワンピースを着込んでおり、その顔は少女と大人の女性の境界に丁度たったような幼さと女らしさの双方を感じ取れる容姿をしている。

手足には逃亡を防ぐ為の拘束具が付けられており、拘束具には鎖が繋がれている。

それは彼女がこの部屋に囚われた虜囚である事を表していた。

アークライは写真で見ていた彼女との違いを感じ驚かされる。

容姿が違うという訳ではない。

ただ、実際に彼女を見て感じられる雰囲気がその違いを出しているのだろうか?

彼女は神々しくあった、それでいて、優しく暖かな雰囲気を放つ女性であった。

聖女のようであり、それでいて、どこにでもいる普通の娘でもあるようだった。

その姿にアークライは目を奪われた。

ミア・クイックの半生はアークライも資料でそれなりに知識を入れている。

両親は殺害され、預けられた老夫婦には売り飛ばされれる形で奴隷商に得られ、挙句の果ては白い部屋で様々な人体実験に参加させられている。

そんな幸福とは言えない生活をずっと暮らしてきた筈だ・・・そんな人間がどうすればこんな雰囲気持つことが出来るのか?

アークライは戦慄した。

ミアはアークライを見て少し驚きに目を見開いた後、首を振り少し考えるようし口を開く。


「誰?」


感じさせた雰囲気と同じく、柔らかく、親しみの持ちやすい声だった。


「あんたの救出を依頼された者だ、時間が無い、今その拘束具を壊すから少し離れてくれ。」


そう言われて、ミアは顎に手当てて少し考えるような仕草を取った。

アークライはミアの顔を見る。

目の下にうすらと隈があり、全体的に顔に活気がない。

疲労困憊なのが目に見て取れた。

アークライは、この少女を連れてどう脱出するか…そう考えながら、ニャルラのトリガーに手をかける。

そうしてニャルラの刃先を鎖に当てた時、彼女は口を開いた。


「そうですか…、でも――――――」


ミアは強くアークライの瞳を見つめて言葉を紡ぐ。


「―――――そういうのいらないので帰ってください。」


割かし辛辣な響きを持って、その言葉は彼女の口から放たれた


「はっ?」


彼女から口から発せられた言葉があまりに理解不能だった。

予想だにしなかった反応にアークライはたじろぐ。

逃がしてやると言われて、まさかいらないと言われる事態までは想定してはいなかった。


「元々、わたし1人で逃げ出す算段でいました。別にあなたの手を借りなくてもわたしは逃げる事が出来ます。ですから、無駄な手間でしたね。」

「いや、無理だろ…俺がここまで来るのにどれだけの前準備をしたと思ってる。」

「それはあなたが無能なだけだと思います。」


ビシリと断言するミア。


「あのなぁ、お前…。」


先程感じた雰囲気はどこにいったのか、中々に酷い毒舌家だとアークライは思う。


「ですので、あなたは不要です。」


追い払うように手を払い、目を細めるミア。

アークライは頭をかきながら、


「でも、俺も依頼を受けてきていてね、君を連れて帰らないといけない。」

「それはあなたの事情であって、わたしの事情ではないです。押し付けがましい男の人って嫌われますよ?」

「だがなぁー、ここは俺と協力した方が脱出は簡単になると思わない?」

「いえ、邪魔です。」


そう即答するミアを見て、「取り付く暇も無いな」と苦笑しながら、さてどう説得しようかとアークライは考える。

まず、何故自分が拒絶されているのかだ?

ふと、自分が付けているマスクを思い出す。


「俺、いろいろ、変な疑い持たれてる?例えば、俺は君を助けにきたと見せかけて、何か変な事しようとさらいにきた人間だとか…。」

「そういう疑問を持たない人がいると思います?マスクを付けて武器を持って入ってきて…顔も見せない男をどう信用しろっていうんですか?」

「一応、俺は君を捉えてた研究施設の人間では無いんだけどなー。」

「それをあなたが証明する方法は?」

「うん…無いな。」

「それを信用するのは無理じゃありません?」

「そうだな。」

「あなたがわたしの立場だったら信用出来ます?」

「―――――無理だな。」

「ではそういう事です。」


普通に論破された。

交渉屋形無しだなとアークライは自嘲する。

元々アークライ自身、弁が立つタイプの交渉屋では無い。

勿論、弁を扱う事もあるが、それは相当量の前準備をしてからの話だ。

基本的には武力交渉、悪く言えば力づくの交渉に乗り切る事が多かった。

とはいえ、彼女の口説き文句はいくつか考えていたのだが、それをこの部屋に入って彼女に目を奪われた瞬間にそれが頭から霧散してしまっていた。

なぜかはわからない…ただ、それ程までに彼女はアークライにとって衝撃を与えたのだ。

頭が仕事の頭に戻った頃には既に手遅れだった。

ならば、どうするか?

答えは簡単だ。せめて、誠実である必要がある。

アークライはマスクを外した。

そして、マスクでくしゃくしゃになった髪を手櫛で簡単に整える


「まあ、こんな格好だったから要らない警戒をさせたのは詫びるよ。仕切り直しに自己紹介する。俺は名前をアークライ、アークライ・ケイネスという。」


そう言うアークライにミアは戸惑うようにして、


「わたしは…ミア・クイックです。」


そう、名乗った。


「帝国の下層区で交渉屋って仕事を営んでる。いわゆる何でも屋だと思ってもらって間違いない。依頼主に関しては、仕事の契約上話せないので勘弁してくれ。でも少なくとも君を悪くするような人物では無いと思うよ。」

「そうなんですか…。」

「そんなわけで依頼されて、俺は君をここから連れだしに来た。」

「なるほど、話は理解しました。」


意外とすんなり聞き入れられ、アークライは少し安堵する。

これならば説得も可能かもしれない…。


「ですが、もう一度、言います…帰れ、ボケ。」


そして、その安堵が気のせいだった事を思い知った。



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