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糸に巻かれて巻き込まれ

「な、なんなんだよアレ!?」

「空から……空から降ってきた!?」

「ウチの、家の屋根に糸が!?」

 空から落ちてきた奇妙な繭玉。学校のグラウンドすら埋めてしまいそうなそれの周りで半狂乱の声が上がる。

 腰を抜かしてへたり込む者や這い逃げる者の出る中、一矢は律を抱きしめながら白銀色の繭から目を離せずにいた。

 繭の裂け目から覗く青い光の塊もまるでこちらを凝視しているようで、他にぶれることなく注がれ続けている。

「な、なんなの……? なんなのアレ? あんなのが、あんなのが隕石なの!?」

「おれに、分かるわけないだろ……?」

 腕の中から上がる震え声。それに一矢はどうにか絞り出したかすれ声で答える。

 だが墜落の衝撃と巨体の威容に体は固まっているものの、一矢には繭の内側からこちらを見ているものが邪悪なものには感じられなかった。

 こちらを見据えるまなざしにも似た光。生きた意思を感じる幼いそれから感じる既視感。

 かつて幼い弟から向けられていた、そして生前の母とそれに並ぶ父の目に映る自身が見せていたもの。

 その連想から、一矢は繭玉の求めるものを察する。そして理解した瞬間、その体を縛る強張りがほどけていた。

 息を吐き、律を抱いたまま立ち上がる一矢。

「か、一矢!? 何するの!?」

 だが律が驚きの声を上げた瞬間。繭玉から注がれていた光がぐるりと上を向く。

 上向く光に釣られるように顔を上げる一矢。

 その視線の先で再び赤い光が輝く。

「まさか!? また!?」

 息をのんだ一矢の予測通りにみるみるとサイズを増す赤い光。

 紅蓮の球は炎の尾を引いて一直線に海へと向かう。

 そのまま燃え盛るものに穿たれる海面。

 轟音。そしてまたも激震する大気。

「ひゃ!?」

「ぐ、う!?」

 身構える一矢と律。

 割れた水面から白い柱が立ち上がり、押し上げられた海水は水柱を中心にドーナツ状に拡散。

 その高く押し上げられた波は防波堤を殴り、滑り込んだ水が道路を濡らす。

 陸に乗り上げた海水の大半が引き、静まる水面。

 だがそれもつかの間、隕石の落着点が赤く発光。またも轟音とともに水面が爆ぜる。

 高く、高く立ち昇る水柱。それを内側から消し払って現れる赤い塊。

「もえ……てる?」

「それに、浮いてる……ひとりでに浮いてる!?」

 海上に浮かびあがる炎をまとう隕石。

 いや、炎はただ表面を包んでいるものではない。

 核となっている石の亀裂。その奥から湧き出て全体を覆っているのだ。

 その炎がひと際赤く輝くと、それに続いて石が割れ広がる。

 内側から押し広げられるように割れる岩石。

 燃え盛る紅蓮に繋がったそれは、再び引き寄せられて組み上がっていく。

「な、なんなのアレ!? 隕石が別のモノに変わってく!?」

 海上に浮かぶ隕石の変化に律が慄き震える。

 その間にも隕石の変化は進んでいく。

 頭と胸それに腹と三節に別れた胴体。二節目の胸からは三対六本の脚が生えている。

 三本の角が伸びた頭にはギチギチと動く鋭い岩でできた顎があった。

 その目と全身の関節。そして前羽を作る岩殻の陰からは輝く紅蓮が噴き出している。

 姿を表した全長50メートル程の巨大甲虫。

 岩と炎とで出来上がったそれは海面すれすれの高さから地上を、こちらを睨む。

 揺らめく紅。

 何もかもを焼き尽くし、侵略せんとする凶暴さを宿した光。

 それに一矢は抱きしめた律と共に身を強張らせる。

 瞬間、不意に風が渦巻く。

「なんだ!?」

「今度はなに!?」

 吹き荒れる旋風の根元に目をやる二人。

 そこでは繭玉が解けて竜巻のように渦巻立ち昇っていた。

 太陽の光を照り返し、様々な彩りを見せる糸の渦。

 天を衝かんばかりに立ち上る糸の量は膨大で、山の如きそれの渦は暴力的ですらある。

 渦を巻くままに、高く高く伸びあがる煌めく糸竜巻。

 その根元。流れる糸のカーテンの向こうで、細身の人影が組み上がっていく。

 竜巻の内に透けて見える棒を組んだようなシルエット。

 骨格だ。

 流れる糸の中心にあるのは人類のそれに似た巨大な骨格だ。

 全高は40メートルほどはあるだろうか。それは徐々に渦巻く糸を巻き取っているかのようにその太さを増していく。

 やがて糸の渦は軸として作ったシルエットにすべてより集められ、生み出された巨体が日の光の中に露わになる。

 コンクリートに舗装された地面を踏み締める二本の足。

 だがそれは人間のそれではなく、鳥類か、あるいは恐竜の足を思わせる関節構造を持っていた。

 筋繊維剥き出しにも見える両足を束ねる腰。

 その上に乗った上半身は人類を模したものであり、足と同じく皮膚らしきものが見られないこと以外は戯画化した逞しい男のそれを立体化したモノそのものだ。

 だが首の上に乗った頭部は人間とはまるで似つかない。

 長い頭髪らしきものこそなびいてはいるものの、青い瞳を持つその顔はむしろ虫に近い印象を受ける。

 左右上下複雑に展開した顎からは重い吐息が漏れ、青く輝く双眸が瞬きに明滅する。

「きょ、巨人……?」

 律の口から零れる呟き。

 それに続いて繭玉から生まれた、あるいは変異した巨人は、海を見据えたまままるで息を整えているかのように肩を上下させる。

 キィシャアァアアーーーーーーッ!!

 海の方から聞こえる耳障りな高音。それに糸の巨人はびくりと肩を震わせ、腕を前に出して構える。

 だがその構えは戦う構えにしてはひどくお粗末なものであった。

 腰は引けて背後の坂に激突。腕の陰に隠した体は背中を丸めて縮こまってしまっている。

 相手を倒そうとする気概も、生き残ろうとする石もまるで感じられない。

 ただ怯える心のままに身を守る弱い姿勢だ。

 その弱々しい構えに、一矢は目の前にある巨体が自身の手のひらに収まるほどに小さく見えてしまっていた。

 キシャァアアーーーーーー!!

 再び耳をつんざく岩と炎の虫の奇声。

 それを受けて、糸を纏めて出来た巨人は弾かれたように跳ぶ。

 重い音と共に広がる衝撃の波。

「ひっ!」

 一矢は息をのむ律をかばいながら、海方向の空を目で追う。

 飛び上がった縒り糸の巨人は宙を舞い、隕石の甲虫へ躍りかかる。

 だが迷いと怯えの透けて見えるその突撃は甲虫にあっさりとかわされてしまう。

 水面を割り、水柱を上げる巨体。

 海水をかき回して転がる巨人へ、燃える甲虫は六本の足で水を蹴散らしながら突進。その角で巨人の横腹を衝く。

 その一突きで恐竜脚の巨人はもんどりうって海中を転がる。

 しかも水をかき回す間に糸をより集めたその体はほぐれ崩れる。

 巨人は立ち上がりながら慌てて解けかけの巨体を再構築。だがそこへ隕石甲虫の追い撃ちが襲いかかる。

 体勢を立て直す間もなく角に打ち据えられ、水没する巨体。だが巨人は浅瀬を這いずって甲虫から逃げようとする。

 だが隕石甲虫がそれを許すはずもなく炎に繋がれた六肢を操ってもがく巨人を追いかける。

 立ち向かいはしたものの、ただ一方的になぶられ続ける巨人。

 その姿に、一矢はしゃがみ込む律から体を離して立ち上がる。

「お前はここに……いや、逃げろ!」

「一矢!? どうするの!?」

「いいから逃げろ! できるだけ遠くに!」

 引き留めようとする律の言葉。一矢はそれを重ねた避難を促す言葉ではねのけて駆け出す。

 激しく水柱の上がる海。それを目指して一矢は地面を蹴る足に力を込める。

「一矢ぁあッ!?」

 背中を引く名を呼ぶ声と、ぶつかりあう巨体から与えられる恐怖。それが踏み込む足を鈍らせる。

 だが繭の中から向けられていた青い瞳の幼い輝き。それが一矢の足から躊躇いを拭い取る。

 走る一矢の向かう先。

 水をはね上げるより糸の巨人の足に、甲虫の前肢が引っ掛かる。

 糸の隙間に絡んだ爪から炎が伝わり移る。

 すると巨人はまるで毒蛇に食いつかれたかのように慌てて爪を受けた足を振り回す。

 その拍子に爪の絡んだ部位が千切れ、解放された巨体は転がるように防波堤へ激突する。

 千切れた一房は瞬く間に燃え、跡形もなく消え失せてしまう。

 今度は糸のより合わせが甘かったことが幸いしたと言うべきか、あのまま掴まれていては瞬く間に焼き尽くされていただろう。

 足場を揺るがした振動に踏ん張っていた一矢は、どうにか甲虫から離れることのできた巨人のそばへ駆け寄る。

 防波堤を枕に水に浸かり、目を閉じて肩で息をする巨人。

 よく見ればその頭を支える首の付け根、人間で言うとちょうど鎖骨の中心に当たる部位にぽっかりと穴があいている。

 一矢の接近に気付いてか、青い目を隠すまぶたが持ち上がる。そして一矢の姿を認めて瞬き、まなじりが裂けんばかりに目を見開く。

 たじろぎ揺らぐ青い巨眼。明らかな動揺の色を浮かべたそれに、一矢は一歩踏み出して口を開く。

「ビビるくらいなら逃げろ! このままじゃお前無駄死にだろうがッ!?」

 一矢は巨人へ向かって叫び、逃げるように促す。

 その瞬間。ひと際大きな水音が爆発。それに顔を上げれば、炎の翅を噴き出して離水した巨大甲虫と眼が合う。

 凶暴なまでに輝く紅蓮。

 燃え上がる眼光が一矢へ向けて迫る。

「う!?」

 鋭い高熱に、一矢の体が蛇に睨まれたかのように固まる。

 なすすべもなくただゴミの様に砕かれ燃やされる。

 迫る紅蓮の光に散る己を一矢は視る。

 だがその直前に白い糸が制服を着た一矢の身を絡め取って引く。

「なあっ!?」

 巻き取る糸に引かれる一矢。宙を真一文字に走らされ、通り過ぎる炎を置き去りにする。

「ぐっ!?」

 一矢の体が柔らかなクッションに沈み、うめき声が狭い空間を満たす。

 光が壁面を、背中側から前方へ走り抜け、外の景色へ繋がる穴がふさがる。

「なんだ!? 何が起こったッ!?」

 いきなり取り込まれた狭い空間。それを動揺をあらわに見回す一矢。

 さらに襲いかかる横なぎの衝撃。そして立て続けの下から突き上げる振動。

「ぐぅ、ううッ!?」

 連続で襲いかかる振動にうめく一矢。綿を固めたような壁からほつれ出た糸を掴んでこらえるその腕に、壁から伸びた糸が絡みつく。

「なん!? だとぉッ!?」

 驚きに思わず声をあげる一矢にさらに絡みつく糸束。それは体を固定、保護するシートベルトなどといった生易しいレベルではなく、一矢をこのほのかに光る空間の一部とするかのようであった。

 絶えずに襲いかかる振動の中、糸は次々と一矢の身を巻き取り固める。

 その巻き取りが進むにつれて一矢は自身を襲う感覚の変化を認識する。

「なんだ、なんなんだ……おれの眼が、外の景色を……?」

 塞がれた空間に上書きするように浮かぶ海とその周辺の景色。

 慣れ親しんだ町のそれでありながらどこか違う、まるで別の巨大な何かの視点で見るような風景。それに一矢は戸惑い身もだえする。

 また奇妙な感覚に襲われているのは視覚だけではない。全身の筋肉が強く、固く引きしまり、皮膚もまた分厚く強靭なものに硬質化しているようであった。

「う……ぐ、おれが、おれでないような……なんなんだよ、これは……!?」

 異様な変化に襲われる感覚。人では有り得ない変化に狭い空間の中で苦しみもだえる一矢。

 その重なり合う視界の隅。一矢は自身へのしかかろうと迫る燃える甲虫の姿を見つける。

「くぅるぅなぁあああああああああッ!!」

 それを認めるや否や、一矢は身をよじって振り返る。その勢いに乗って打ち出した肘は偶然巨大甲虫の胸甲に激突。重い激突音を残して海中へと燃える巨体を叩き落とす。

「な、に?」

 高く伸びる水柱。一矢は自分の起こしたそれを半ば信じられない思いで眺める。

 自分をアリのように踏み潰せるような化物。その巨体が自分の肘一発で海中に沈んだのだ。

 あり得ない。あり得るはずのない現象だ。ネズミが猫を投げ飛ばす以上に現実離れしている。

 半ば呆然としながら、一矢は重い手応えの残った自身の右腕を見る。

 だがそれは見なれた自分のものとはまるで違っていた。

「はあ!?」

 見えたモノに一矢は目を見開き、思わず声を上げていた。

 厳密に言えば、一矢自身の腕は糸でぐるぐる巻きになってはいたが無事に在った。しかしその上から包むように、白い腕の虚像が覆い被さっていた。

 鋭い流線型の白い装甲。

 その下には力を生み出す繊維が溢れんばかりに詰め込まれている。

 自分のものとはまるで違う奇妙な腕。だが装甲こそ纏っているものの、一矢はこの腕に見覚えがあった。

巨人あいつの、腕……?」

 呟きの通り、重なる腕はより強靭に頼もしく変容してはいるが、間違いなくより糸の巨人のそれだった。

 一矢がそう認識するや否や、水飛沫を巻き上げる炎の虫。

 水すらも消す炎を素体に被せた甲虫はその燃える目を輝かせてあごを鳴らす。

「う!? おおッ!?」

 迫るそれに一矢は身をよじって蹴りを叩きこむ。

 燃える虫をあごから穿つその脚も肉食恐竜の後ろ脚に分厚い外殻を被せたようなもので、遠目に見た巨人の体を支えていたものだった。

「足までアイツの……!? ということは、そんな! まさか……ッ!?」

 眼に映る映像。そして重なる感覚から自身の置かれた状況を推し量る一矢。

 思惑はともかく、より糸の巨人が一矢を取り込んで、肉体の主導権をいくらか譲り渡している形となっているようだ。

「マジかよ……クソッ!」

 ほぼ互角のサイズとなって見える隕石の甲虫を見据えて、一矢は毒づく。

「ドシロートになんもかんも丸投げとかメチャクチャじゃねえか!」

 だがそう言いながらも一矢は自分がこの巨人を放っておけなかっただろうとは思っていた。

「……ま、デカイだけのビビリよりはマシかもな……」

 一矢は小さく呟いて、口の端を持ち上げる。だが笑みに歪んだ頬には冷たい汗が伝う。

 巨人の中で強がる一矢。その視線の先で隕石虫はその体の節々から噴き出す炎を強める。

「ぐ!?」

 眼を焼く眩い紅。

 それは燃える巨虫を取り囲む水を瞬時に蒸発させる。

 否、確かに海水は消し飛んだが、これは蒸発ではない。水蒸気すら存在しなくなる程の熱量が発生したとしても、その熱の余波が海を沸かすはず。

 だが海水は湯気を上げることもなく、ただ赤の光に飲まれるように流れ消えていく。

 また消え行く海中を泳ぐ魚も、露になった浅瀬の底も、赤く燃えるモノに融かされ、削られるように消滅していく。

「まさかコイツ……この炎見たいなモンで食ってるっていうのか? なんでもかんでもお構い無しに!?」

 その現象を理解して、一矢は思わず息を飲む。

 瞬時に理解できたのは、巨人とリンクしてその知識を断片的に共有しているからかもしれない。

 眼の前で繰り広げられる異常な捕食行動。それに一矢は一歩後ずさって隕石虫から離れる。

 そこへ炎の巨虫はあごを動かしながら前進。離れた距離を詰める。

 一矢の脳裏に浮かぶ、巨人もろとも紅蓮に消える自身の姿。それは一矢の体から前進する力を奪う。

 踵で水を蹴り割りながら、一矢と巨人は後退り。またそれを追いかけて巨虫が距離を詰める。

 やがて踵が壁に触れ、後退できなくなる。

 その瞬間、紅蓮の中に浮かぶ甲虫のあごがギチギチと動き、赤い目がより強く輝く。

 一矢にはそれが、獲物を前にした舌舐めずりしての笑みに見えた。

 ジワリ、ジワリと。一歩一歩距離を詰めてくる隕石虫。それに一矢は眼を泳がせる。

 脱出口や反撃の糸口を探しているわけではない。ただ殺意に耐えられずに左、右と視線を逃がす。

 恐怖から視線を逃がした先。そこで見つけたものに一矢は眼を見開く。

 そこにいたのは一人の少女。一矢が愛しく思う律が不安げにこちらを見上げていた。

 ここで自分がやられたら次は誰がやられるのか。他でもない、近くで見守っている恋人だ。そしてこの空から落ちてきた化け物は父も、弟も燃やすように食ってしまうのだ。

 そこに思い当った瞬間、一矢の眼は正面の化け物を真っ直ぐに見据える。

「ビビってる場合じゃないよな……」

 そして引けている腰と、ガクガクと震える膝を殴って奮い立たせる。

「ビビってんじゃねえ! 奴が食いにくるってんならこっちから食い殺してやればいいッ!!」

 その叱咤が自分に向けたものか、それとも臆病な巨人へ向けた言葉か、放った一矢自身にも分からなかった。

 だがその気合を引き金に一矢の足に被る鳥足の虚像が水柱を蹴り上げて突進する。

 瞬く間に間合いが詰まり、密着。視界を埋め尽くす炎を噴き出す岩肌へ一矢は腕を伸ばして抱え込む。

 その間にも密着した前面を主にジリジリと痛みが噛みつく。

「お、ぐぅ! おおぉお、おおあああああああああああああッ!!」

 肉を焼け焦がすような痛み。一矢は涙の浮かぶそれを堪えながら、雄叫びをあげて掴んだ隕石を放り投げる。

 沖方向の空へ帰っていく隕石巨虫。

 一矢はそれを睨み狙いながら、一体化した巨人に腰を落とさせ、右腕を弓引くように構える。

「この体が! 糸の塊ならばッ!」

 叫びながら一矢は腕を捩じり捻るようにイメージ。

 そして深々と沈めた足を解放させる。溜めに溜めたバネに乗って跳躍。

「おぉらぁああッ!?!」

 一閃の気合。それに合わせて繰り出す捩じり上げた右腕。

 突き上げた右拳は捩じり上げたゴム紐の束を解き放ったかのように回転して伸び上がる。

 螺旋を描くそれは宙を舞う隕石虫を真っ直ぐに捉え、激突。

「つらぬけぇえええええええええッ!!」

 虫の纏う紅を抉り抜いた拳は、一矢の叫びに従ってドリルのごとく岩石の体を削っていく。

 その勢いのまま長く伸びた巨人の拳は隕石甲虫の中核を削り貫く。

 巨人が標的を体ごと突き抜けるのに続き、巨虫の体が爆散。石片を包む炎の尾を引きながら四方八方へ飛ぶ。

 飛び散る隕石の欠片をすり抜けて、一矢は巨人とともに海とその底にある地面へ膝を折って着地。

 飛沫となって舞い上がった海水が雨のように肌をたたくのを感じながら、一矢は巨人の瞳越しに難を逃れた町と、愛しい律の姿を見つめる。

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