表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
数多神語り  作者: kusina
3/5

第参幕

体の感覚がなくなり意識が完全に闇に消える

(いつまで…そうしているつもりだ?…)

頭に声が響くのとは違い目の前から声が聞こえる

(目を覚ませ?…)

此処はいったい?

さっきまで戦っていたはずじゃ?

(目を覚ませ?…後継者よ?…)

「此処は?」

辺りを見回すと赤黒い布が空間を埋め尽くす様に吊るされ

中心には赤黒いタートルネックネックに黒の細身のパンツを履いた気だるそうなロン毛の目付きの鋭い男が金の椅子に座り頬杖をついて此方を眺めていた


「目が覚めたか…」

誰だ?それに此処は?

「此処は幻想界…我の部屋だ…人間を招くのは久方振りだな…」

成る程って事は目の前に居るのは…

ゆっくり立ち上がった俺を上から下まで値踏みするように見詰めると

「ほぅ…人にしては瑰麗かいれいだな…

楪と欅め…姉弟ではなく姉妹ではないか…」

と虚空を見詰めて呟いた

「えっと…俺は男ですよ?「謄蛇」?先程は御力を貸し与えて頂き有り難う御座いました。

心より御礼申し上げます」

先刻の御礼を言い 深々と頭を下げる

「良い…頭を上げろ…知っているさ…

冗談だ…姫の様な男だと聞いている…」

謄蛇は息を吐き笑うと両手を組み椅子から身を乗り出す

「どうして貴方の部屋へ私を招いたのですか?」

素直な疑問をぶつけると

「あぁ…些か問題があってな?…あの蜘蛛はまだ完全には消えてはいない…少し身体を貸さないか?…欅は知っての通り我等を呼ばなくてな?…退屈しのぎに…戦いたい…」

無理だ…

一部を纏った「霊装」であれだけの負担だ…

謄蛇を完全にこの身に降ろせば下手をすれば負荷に耐えれず魂ごと焼き切れて消滅する…

此方の考えを悟ったのか

「それは…耐えてみせろ?…本気ではやらないさ…まぁ3割も出せば焼き払えるだろう?…

耐えきったなら…お前の式になるのもやぶさかではない…」

確かに12神将は父様から引き継ぐ予定だった…

けど、それは色々な修行や鍛錬を行って20歳になってからの話だ

「残念だが…拒否権は無い…断れば従者共々…お前はあの蜘蛛に喰われる…

諦めて喰われるか?…戦って耐えきるか?…

さぁ…お前の力を見せてみろ?…」

そう告げると立ち上がり俺の手を引き椅子に無理矢理押し込んだ…













辺りは黒い霧に包まれ闇に染まる…

その霧は一点に集まりだすと足元からゆっくりと女の形に戻っていく…

「あぁ~ビックリしたぁ、一回死んじゃうなんね?凄いなぁこの子はぁ?」

倒れている紫蘭に近付くと屈んで興味深く顔を見る

「これって報告した方が良いのかなぁ?

でもさぁ、持って帰るよりはこのままぁ~」

舌舐め釣りするとゆっくりと唇に手を近づける

完全に女郎蜘蛛の手が紫蘭の唇に付く前に恐ろしい気配を察知して女郎蜘蛛は後ろに飛び退く

「ふん…下世話な…蜘蛛だな…」

纏う雰囲気のまるで違う様子に彼女は冷や汗を

流す

「君はぁどこまでも楽しいねぇ~」

動揺を隠す様に挑発をしても全く落ち着かない

「さぁ…久方振りに遊ぶのだ…我を退屈させるなよ…」

綺麗で人形の様な顔がニヤリと笑うと同時に周囲に先程と比べ物にならない結界が瞬時に張られる…

地面はつぶさに形を変え…

火山の火口の様に火が吹き上がり溶岩が流れ始める

まるで空間を作り替えてしまったのか様に、その空間には彼と彼女以外は存在しなかった…

「君はぁいったい?」

明らかに先程の力を遥かに凌駕している

全力で挑んでも…いや、何処かに封印されているであろう自分の本体を取り戻したとしても勝てないかもしれない

そもそもこんな力があるなら初めから苦戦などしないはずだ…

もしかしたら、とんでもない物に自分は手を出してしまったのかも知れない…

長い黒髪は暗紅に変わり瞳は深紅に輝く…

身に付けられた、より鋭利な爪が着いた籠手、足元には先程は無った籠手と同じ様な具足、纏うのは鎖帷子ではなく長く裾の焦げたローブ

その全てが紅蓮に染まっている

放たれる重圧も何もかもが先程と程遠い…

今の状態に比べれば自分が焼かれた「霊装」など子供騙しも良いところだ

「つまらんな…燃え尽きろ…」

怯んだ自分を見て退屈そうに告げると地面から大量の火柱が吹き上がり迫ってくる

「もぅ最悪だよぉっ!!」

背中から蜘蛛の脚を生やし全身を包み遅いくる火柱を防ぐ

「それが精一杯か?…」

火柱の中から突然現れ、爪で脚をえぐり蹴り放たれる、躱しきれずに直撃した脚の一本は瞬く間に炭化し崩れていく

「ぐっ!!」

不味い…今度は再生など出来ない程の炎で完全に焼き付くされる…

「その程度か…興醒めだ…」

そう言い放ち瞬く間に二本目の脚を奪われ痛みに目を細めると

上空で両手を広げた姿が見える

先程、自分を焼いた火球よりも遥かに高温で巨大な物が幾つも生成されていく

「君はぁいったい?」

絶望的な状況下でいとも簡単に自分を葬る炎の主に問い掛けた

「我名は…謄蛇…獄炎の支配者にして…12天将、最大の刃だ…」

その名を聞いて膝が折れる

「12天将」最強の幻想界の住人達だ、しかも「獄炎の謄蛇」相手が悪すぎる、そんな者に自分が勝てる訳がない…

そんな存在を「式」として従えるの人間はあの伝説的な力を持つ一族しかいない…

その昔、自分達を消滅する一歩手前まで追いやった「あの一族」の末裔に知らずに喧嘩を売っていたのか…

「はぁ~、ツイて無いなぁ~」

溜め息をつき、自分の運の無さをを嘆く

もはや火球を躱す事さえしない

「出来たら会いたかったよ?「土蜘蛛」…」

残された脚で丸まり火球に飲み込みこまれながら祈るように彼女は彼の名前を呼んだ…












謄蛇

もう終わりかと退屈しのぎにもならなかったと諦めた時

「死ぬにはまだ早い」

結界に強制的に侵入され火球に飲み込まれる蜘蛛を引き上げられた

「ほう…面白い…西洋の魔物か…」

火球を止めて様子を伺う

「まだ死ぬなよ?」

突然現れた青白い小娘は蜘蛛を浮かべ此方を睨み付ける

「こっからは俺が相手だ、獄炎の蛇?」

我の結界に無理矢理侵入してきてボロボロの癖に良く吠える

「良いのか…この火球…その蜘蛛を抱えて防げはしまい?…」

不味い、そろそろ後継者の魂も限界か?

いや、それよりも媒介が持つまい…

「アンタも同じだろ?その器はもう限界だ

違うか?」

ほう?此方の状態も把握しているのか?

目敏い奴だ …

「悪いが…敵を易々と帰す程…我は甘くない…消えろ…」

残りの火球を全て魔物に撃ち込んでいく、しかし

何度直撃してもまるで手応えが無いな…

妖術の類いか?限界も近い…

やはり3割ではこんなものか?

「六合」ならば…この手の術を打ち破るのは得意なのだがな…

空間ごと焼き払えるなら別だが今の状態では、それも望めまい…

どうしたものか?

「さぁどうする?アンタもそろそろ限界だ」

肩で息をしながら良くも言ってくれる…

おのれ…

こうなれば、空間ごと焼き払う…

「落ち着きなさいっ!!」

一瞬で空間を冷やされ魔物共と溶岩や火柱が凍結する…

貯めかけた力を冷却しきるとは…あの姿、確か…

「「謄蛇」何をしているの っ!?父様から言われて来てみれば…これはっ!?」

やはり阿修羅(あすら)の姉の方と従者か…

「黙れ…我が主は…汝の父であって汝ではない…娘だからと…舐めた口をきくな…」

睨み付けると庇うように前に従者が立つ

「その父様から伝言よ!!「謄蛇?君が息子に力を貸して、式になろうとしてくれているのは、非常に嬉しい。

けれど、息子にはまだ器も…そして君を受け入れられるだけの媒介も持ち合わせてはいない。

ここは僕の顔に免じて矛を納めてくれないか?」だそうよっ!?」

何を勝ち誇っているのか?

まぁ良い退屈しのぎにもなった…

それに新しい主も中々に良い魂だ…

全て欅の計算通りなのが…気に入らないがな…

「良いだろう…元の主の顔に免じて矛を納めよう…今より我は…この者の式となろう…」

そう告げると娘と従者は目を見開いて驚いている…

「後は…勝手にすればいい…興醒めだ…」

そのまま我の部屋に戻ろうとすると同時に耐え切れなくなった媒介が弾ける

それを無視して部屋に戻った…











紫蘭

寝ぼけながら瞼を開けると自分と向かい合い、黒と紅の椅子に退屈そうに脚を組み座っている謄蛇が見える

「いつまで此処に居る気だ?…

起きないか?…我が主よ?…」

何だ?夢かー、謄蛇を従えるなんてそんなね

開けかけた瞼を閉じようとすると頬が千切れる程の痛みで一気に目が覚める

「いたいー」

涙目になりながら頬を抓る犯人を見上げる

「はははっ…漸く目覚めたか?…」

こんな顔で笑うんだ、何か以外だなぁ

まじまじと見詰めていると優しく頭を撫でながら話を続けた

「先の約束を守ろう…此より我は汝…巫紫蘭の式となろう…我が獄炎は汝の刃となり敵を滅ぼそう…」

と言い終わると頭から手を離し膝まずき頭を垂れる

「そんなっ!?良いですよっ!!まだ俺は貴方を式に出来るような器は無いですからっ!?」

慌てて椅子から立ち上がり謄蛇の横にしゃがむ

「良い…我が主よ?…何を言われようと…我は汝の式となる事に決めたのだ…」

「えっと…じゃぁ「友達」でっ!!まだ俺は力不足だからもしきちんと使役出来る力をつけたら、またその時に聞いてみます…

それじゃ駄目ですか?」

テンパりながら問い掛けると

「つくづく…面白いな…良い…今日から「友達」とやらになろう…力が必要なら…主の器に配慮した力を貸そう?…これなら文句あるい?…」

あんまり上手く伝わってないなぁー

でも、力を貸してくれるなら心強いし良いや

「有り難う御座います…謄蛇…」

「構えなくても良い…汝は我の主なのだからな…」

むー、やっぱり主なのか…

「じゃぁ謄蛇もね?これで一緒だし」

そう言うと立ち上がりまた頭を撫でながら

「了解した…で、紫蘭よ?…まだ帰らずとも良いのか?…」

「えっ!?」

「恐らく…4日は過ぎているな…安心しろ…蜘蛛は逃がしたが…従者共にお前は生きている…詳しい話は…あのいけ好かん姉にでも…聞け…」

そう告げられると目の前が一気に暗転する

「また会えるのを…楽しみにしている…「友」よ?…気兼ねなく呼ぶがいい…」

なんだ、ちゃんと分かってるんじゃん?

意識がはっきりすると同時に体に痛みが走る

「いたっ!!」

痛みに目を開けると不安そうに蝦が俺を見ていた

「ただいま?蝦?」

蝦の無事で嬉しそうな顔を見て安心しまた瞼を閉じた





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ