第壱幕
夢を見た
友人や姉、恋人と共に闇を払う夢
刹那、向かい合う闇が
こちらに向かって刀を振るった
「うぁーーっ!!」
うなされて不意に起きると、汗でベトベトになったって張り付いた寝間着を緩めながら窓を開けて庭の色づいた紅葉を眺めながら秋の夜風に当る。
やっと落ち着いた
良かった、誰にも聞かれてないみたいだな…
すると携帯が突然震えた
誰だよ?こんな夜更けに!?
苛つきながら画面を見ると「楪祖母様」と出ていた
面倒だけど、出ないと後で何を言われるか分かったものじゃない
「はい…もしもし?」
「おぉ紫蘭ちゃん、元気かのう!?
そう言えば最近、近所にコンビニエンスストアなるものが出来てなっ、一回行ってみたんだがアレはぱないのぅ」
「楪祖母様!?今何時か知ってますか?」
「3時じゃよ?あら、紫蘭の部屋には時計ないかの?
いかんよ?ちゃんと規則正しい生活をせんとね?
見てみ?妾は何時までも若々しいだろ!?、心も体もな」
「祖母様、普通の生活をしている人間は今の時間寝ています
それに楪祖母様が若々しいのは…」
「おっと、それ以上は禁句じゃ…
それはさておき、来週ついに紫蘭ちゃんと蘭ちゃんが18になるのう、学校もそろそろ卒業じゃぁー
だから、皆で祝いたいんじゃがなぁー?
紫蘭ちゃんや蘭ちゃんや沙羅ちゃん
それぞれ後の連れにも久しぶりに会いたいしのぉ、後は我ら華道一族巫家、生け花パーチーもかんがえておるっ」
本当にこの人は…
自分の祖母なのか疑いたくなるようなテンションだ
「解りました、その日は開けておきます
後、先月末に御会いしたばかりですよね?
俺と蘭、それに蝦根や桔梗さん、沙羅姉様、言い切れない位の人間を集めてましたよね?
それに俺や蘭はちゃんで呼ばれる歳じゃないです」
「最近は冷たいのぉー、女の子みたいで可愛い見た目からは想像もつかんなぁ
反抗期は終わったろうに…
アレか?今流行りのクールビューティーか?
困った紫蘭ちゃんじゃの、まぁ後は「此方側」の話も…
いや寧ろそっちが本命じゃ!!沙羅ちゃんは以外はまだじゃからなっ!!」
急に声のトーンを真面目にしても今更、遅い気もする
人の容姿も突っついてまったく…
「後で皐さんや欅にも伝えつおくからのぉー
お姫様の様に綺麗にお粧しした紫蘭ちゃん達を見れるのを楽しみにしとるよっ?
紫蘭ちゃんっ」
と
一方的に電話を切られた
まるで台風みたいな人だな、いつも…
でも、少し気も晴れたしそういう意味では有難かったかな?
何か飲んで寝ようと思ってリビングに向かうと同じ様な考えに至ったのか沙羅姉さんがいた
「あら、眠り姫どうしたの?お寝坊な貴方が珍しくこんな時間に?」
からかいながらも目を丸くして、相当ビックリしてるな
「いや、楪祖母様からちょっと電話があってさ…
姉さん?幾らまだ皆寝てるからって寝間着をはだけ過ぎじゃない?
母さんが見たら何言われるか…」
着物を肩にかけて胸が半分出てる、蝦根とか見たら喜ぶんだろうなー
「良いのよっ!!こっちのが楽だし、ねぇ?お姉ちゃんが良いことして上げようか!?
あんたは見た目みたいに女子なんだから?
本当は妹なんでしょっ?弟じゃなくて」
無視して冷蔵庫からお茶を取り出したら、俺の長い髪を引っ張ってからかわれた
それから寝なおして、いつものように学校にそして終わったら父様から花を習う
いつも通り一日の予定が全部終わった頃を見計らって世話係兼友人の蝦根から電話が鳴った
「紫蘭、どうだぁ?調子は?」
相も変わらずチャラいな …
「普通だよー?
特に珍しい事もないしって言うか、毎日電話するなら一階から俺の部屋にあがってこいよ?」
「いやいや、一応、格式高い巫家次期当主の御部屋に用もないのに行けないだろー
言っても俺は世話係だからなぁー
幾らガキの頃からの友人だって欅さんや皐さん言ってもなぁー、周りの使用人には良い顔しないしよー?
寂しいか?」
寂しくないと言えば嘘になる、実際友人と言えるのは蝦根を含めてそんなにいないしな
「まぁ、迷惑かかるなら仕方ないよ。
で、何か用?」
「さっき聞いたけど、来週のパーティーらしいじゃん?
お姫様は着物どうする?襲とかは?後は簪も刺すだろ?無駄に髪長いし、女の沙羅さんより」
「あぁ、蝦に任すよ?センス良いし、後は空木さんと相談して姉さんと襲が被らなかったらオッケー
多分、蘭はスーツだし、襲の色は任すよ?
後さ、お姫様じゃねーよ?毎日学校でも言われてるから家では聞きたくないよ…」
溜め息を漏らすと
「オッケー、解った。
兄ちゃんと相談しておくよ?
でもさ、姫?
なんたって名家のボンでその辺の女子が霞む位の美貌で女子が羨む細身に身長小っさいもんなー
しかも腰より長い髪はの髪は綺麗に結わえて、見た目、完全に女子だからなー
しかも声も女声で超美人のっ」
なぁ?蝦?控えよう?
「素出してる蘭さんとは違って猫被っていつも笑顔で澄ましてりゃ、「紫姫様」って言われるだろうよ?
知ってるか?男子にもファンが沢山いるらしいぜ?」
うんざりする、勝手に親衛隊やらファンクラブやら…
芸能人でもないのに
「他に面白い事ないのかね?暇な人達だよ…まぁ良いや、後数ヶ月の辛抱だし、ところでさ蝦は「アレ」見た?」
帰り道に嫌なモノを見た…まだ、平気だけど放って置けばきっと…
「あぁ「アレ」ねぇ…どうだろうな?
沙羅さんに言えば何とかしてくれるんじゃない?後は欅さんとか?
なんなら兄ちゃんにも言っとくか?
まぁ俺等の力じゃまだ無理だろ?
早まるなよ?」
蝦は急に軽口から真剣な声色になる
解ってる、まだ早い…けど恐らくそんなに猶予はないはずだ…「アレ」は 多分、もう2日も持たない
「ねぇ?今から行きたいって言ったら怒る?」
少しでも、可能性があるなら自分に出来る事があるなら…
「は?まだ早いって言ったろ?
それにそろそろ日が完全に落ちる、解ってるよな?まだ俺等は「あっち側」じゃないんだぜ?
幾ら擬き(もどき)が出来て、お前の素養が高くても危険すぎる」
蝦の声に怒気がこもる
「だったら、蝦根は来なくても大丈夫、多分「アレ」なら俺一人でも出来る、反対されても行くよ…出来る事があるなら」
「解ったよ…そうなったお前は聞かないから付き合うよ?その代わり危なくなったらすぐ帰るからなら?」
諦めたように蝦根は溜め息混じりに言った
「有り難う、俺はそんな蝦根の事が大好きだよ?女の子なら彼女になる位に」
からかいながら言うと
「姫は男だから遠慮するわ…、じゃぁ30分後に玄関でお待ちしてますから準備が出来たら来てくださいませ?紫姫様?」
といつもの軽口に戻って電話を切った
使用人に蝦根と一緒に学校の友人と食事に行くから夕食は要らないと告げると
「若様にも、卒業間近にして遂に斎以外の御友人が出来たのですね?」
と感動されご友人を見たいので送ると言われたが断った
何だろ?凄い傷ついた…
まぁ良いけど
一応、目立たないように黒のパンツ、白のゆるいシャツに長めの黒いジャケットを羽織った
念のため、髪どめじゃなくて、簪にしよう
髪をまとめて簪を指して階段を降りていくと玄関で待っている蝦根も同じ様な格好で昔からいる使用人にまるでペアルックのアベックの様だと言われたけど…
余り意味がわからなかった
蝦は複雑な顔をしていたけど…
「さぁ、行きましょう?若?」
外面の蝦に
「あぁ、急ごう?蝦根」
と同じく外面使用で微笑み
「では、いって参ります」
と見送る使用人達に軽く頭を下げて屋敷をを出た
屋敷が見えなくなり使用人達も完全に見えなくなり人混みに出た頃
「で?何か言うことないか?」
蝦は不機嫌さを隠しもせずに俺を怒る
確かに来てくれたのは嬉しい
けど、姫呼ばわりされた仕返しをしよう
「ごめんなさい、私ワガママ言って…嫌いにならないで?蝦根君無しじゃぁ私っ」
大声でわざとらしく周りに聞こえるように大きく言ってへたり込んだ
「ちょっと…」
「うわぁ…彼女可哀想」
「まじかよ…」
周囲から段々どよめきが漏れてくる
「えっお前、わざとだろ!?」
蝦は周囲からの大バッシングに流石にオロオロしだした
さぁ、後一声だ
「酷いっ!?わざとなんて、私はただ謝りたくて…蝦根君の事が好きだから…ごめんなさいって許して欲しくて」
泣き真似をして目薬をさした
「おい…」
「普通、あんなに言わせる?」
「あんなに可愛い彼女なのにね…」
「最低…」
「あんなに泣かせて…」
ギャラリーも俺の迫真の演技に騙されて最高潮に蝦を追い詰める
「解ったよ、いいからもう勘弁してくれよ」
困りきった蝦に
「私のワガママ許してくれる?」
上目遣いで可愛く聞いてみた
「あぁ…だから、頼むからさ…」
うわぁー、絶対キモいと思ってるよ
「うんっ!!蝦根君、大好きっ!!早く行こっ!!」
笑顔で蝦の腕に絡まった
「ちっ…」
「良かったねー」
「彼氏ムカつく…」
周囲から蝦に殺意が向けられていた
あぁ面白かった
そのまま人気がなくなる通りに出るまで腕を組んで歩く、人気がないのを確認して腕を離した
「有り難う?蝦、許してくれて嬉しいよ?「姫」うーれーしーいー」
笑いながら蝦を見ると
「アレは卑怯だろっ!?悪かったよ、今後姫とは呼ばないからさ」
不満そうな蝦に
「いや、助かったのは本当だよ?いつも着いてきてくれて嬉しいし、ワガママにも何だかんだ言いながら付き合ってくれる
それに蝦根が俺の「世話係」になった時は本当に嬉しかった、気が置けない少ない友達と一緒にいれるしな」
恥ずかしいから後半は聞こえない様に言ってやる
「言いたいなら、隠さないでちゃんと言えよー?光栄だな、そんなに買って貰えるなんてなー、まぁ後でゆっくり聞くわぁー
さぁ、着いたぜ?」
帰り道に見た「アレ」がある場所へ着いた