第五話
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ハッと自分が見惚れてたことに気が付く。周りを見渡すと、私と同じように水の国の王 アーグラー様に見惚れている。
皆、頬が紅潮し、目は潤いを帯びている。恋する女そのものだ。先ほど私をからかってきたイリスは、逆に目をギラギラと輝かせている。まるで獲物を狙う肉食獣だ。
ここで、私は視線を再びアーグラー様に移した。いつ見ても綺麗だ。こんなに綺麗だと、女の自分に自信がなくなってくる。まあ、はじめからたいした自信ではないのだが…
やっぱり似ているなぁ~。話す機会があったら、聞いてみようか?私のこと覚えていますか?と
たった一回あっただけで、ここまでくるなんて重い女だと思われるだろうか?
もし違っていても、私がアーグラー様の伴侶になる気がないことを知られてはいけない。多分、知られたらこの国から追い出されてしまうだろう。それだけは避けたい。残っていたほうが都合がいい。そもそも私が候補者として残っていても何ら影響がないのだ。候補者の中に私より綺麗な人は何人もいる。わざわざ(自分で認めるのも癪だが)こんな子供っぽい私に大人の男性は魅力を感じないだろう。
私としては、精一杯背伸びして大人ぶっているつもりなのだけれど…
と、ここでアーグラー様が目を開けた。
冷たい風が巻き起こったかのようだった。
私は自分の認識の甘さを実感した。
一瞬、寒気で体が震えた。
それほどに彼の青い瞳は冷え切り、その視線は氷の槍のようになって私の体を貫いた。
この人は違う。こんな冷たい目をする人じゃなかった。
これは運命のイタズラなのか。もし神がいたなら、今頃私を嘲笑しているだろう。
候補者たちも先ほどの熱は見る影もなき息をのんでいる。
そして、王はその口を開く……
「ようこそ、諸君。遠方から来た者もご苦労だった。
この度は、私の伴侶を決めるに当たって………
王が話し始めたが、途中からその話が頭に入ってこなかった。
別の人物に気を取られていたからだ。
従者であろうか、フードを深く被って、王様の斜め後ろに控える人物である。
フードのためか暗くなっていて、その顔をうかがい知ることはできないが、その人ことがどうしても気になった。
私に視線に気づいたのか、フードの男もこちらにほうへ顔を向ける。
いつまで、その状態でいたのだろうか、気づけばアーグラー様の話は終わっていた。
「それでは、王は部屋へ戻りますので、しばしお待ちを。」
執事長が言った。
しまっっっっったぁ~~
ぜんっぜん話聞いてなかった。これはやばいかもしれない。多分、アーグラー様には私が話を聞いていなかったことがバレているだろう。私も経験があるのだが、人の前で話す時、意外と聞く人がどんな様子で聞いているのかわかるものだ。
私は頭を抱えて、自分の失態を嘆いた。
だから、気がつかなかったのだ…
退出するアーグラー様がチラリと私を見て、笑ったことに…
******
「さて、王が退出なさったので今回の伴侶選びの詳細について説明いたします。」
執事長が話し始めた。あのフードの男はアーグラー様について行ったので、今回は集中して話が聞ける。
「詳細というにも、簡単なものです。今回の伴侶選びには1ヶ月の期間か設けられます。その間に我が王の真の名前を手に入れてください。その方を王の妃とさせて頂きます。」
ここで、イリスの取り巻きに一人が恐る恐る手を挙げる。
「いかがなさいましたか?」
「あの、真の名とは?殿下の名前は、アーグラー・ヴァルエス様ではないのです?」
「その名は、表向きの名であり、水の国の王としての名です。真の名とは、それとは別に今は亡き先代の王妃、現王の母君が名付けられた名前でございます。
王が幼少のころ呼ばれておりました名前ゆえ、この城の執事やメイドは知っております。
しかし、彼らに名を聞くのは無しとさせて頂きます。
今回は、我が王に自分の伴侶として相応しい方がみえたら、一人だけに真の名を与えるようにお伝えしてあります。」
なるほど、ふむふむ、王の伴侶になりたければ、自らに魅力で王様を落としてみせろということですな。私は、恩人にお礼を言いにきただけで、別に王様の伴侶になろうという気はないから、気が楽だ。
ただ、少し気になるのは、私の思い出の中の『彼』との関連性だ。
それから、もう一人…
あのフードの男のことも…
「他にはよろしいですか?
では、最後に一言。皆様、正々堂々と挑まれますようお願いします。我が王もそれをお望みです。皆様に家名に傷をつけぬように。
それでは、これから皆様を一人ずつ部屋へ案内します。それぞれ専属のメイドがつきますので、何かご用がありましたら、そちらの方にお願いいたします。」
これで、ひとまず解散となった。私は現在、ふかふかのベッドの上でゴロゴロしている。
ここでついさっき私専属のメイドが言った言葉を思い出す。
「明日から、一人ずつに王との時間がご用意されます。順番は、後ほどお伝えします。では、明日の朝また、うかがいますので今日は早くお休みになってきださい。」
王様と二人っきりで話すのか。
気まずいな…
こうして、私は意識を放棄し、眠りの世界へ身を沈めるのだった。
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水の国の宮殿の一室。薄暗いその部屋に二つの影があった。片方は豪華な服に身を包んでおり、もう片方はフードを被っている。
「さっきは、ご苦労だったな。」
「いえ、我が君のためなら。」
「かたいぞ 、アルビス。兄弟の様に育った仲じゃないか。」
「すいません、ーーー様。ところで、さきほど顔合わせで気になったことがあるのですが…」
「お前も気がついたか……
あの火の国の姫様は、明らかに俺の事を見ていたな。まあ、フードで顔を隠しているんだから、気になるのも当然か。
普通だったら、お前の美貌に夢中なのにな。」
「そう言われても全然嬉しくあらません。だいたいこの見た目は、ーーー様のものではありませんか。からかうのもいい加減にしてくださいよ。」
ため息をつくをフードの男が見やる。
(面白くなってきた…)
フード中にある瞳が一瞬青く光った。
「そういえば、お前あの殺気じみた空気を作るのはやりすぎだぞ。」
「すいません。つい気合いが入ってしまって…」
そして豪華な服に身を包んでいる方が、フードを被っている方に頭を下げるのだった。




