第四話
コンコンとノックする音がした。すると、執事の男が入ってきた。
「失礼致します。皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。私は、執事長を務めさせて頂いておりますカーネルでございます。準備が整いましたので、広間に場所を移したいと思います。どうぞこちらへ…」
候補者は皆、執事についてゾロゾロと移動を始めた。
私たちが横を通る時、執事やメイドは動きを止め、私たちに頭をさげる。自分の国でも同じようなことがあったが、他国でやられるのは少し照れるものがある。
ここで、ふと目の前を進んいる執事長を見る。執事長は、50代半ばくらいという感じだが、背筋がピンと伸びており、まだまだ衰えを感じさせない。整えられたヒゲもあり、ダンディーだから、結構モテるんじゃ……
「どうかなさいましたか?」
「な、なんでもないでしゅ!!」
「ふふっ…さようでございますか」
クスクス笑う周りの候補者たち。しまった。露骨に観察しすぎた。しかも、噛んでしまった。うぅ~恥ずかしい。顔が赤くなっているのは百も承知だが、どうしようもない。
イリスがこちらを向いて、フンっと鼻で笑ってきたので、舌をだして、べぇーとやってやった。
しかし、恐るべし、執事長! 後ろからの視線に気づくなんて……執事長ともなれば、戦闘もこなせるかもしれない。うちの執事長なんかは戦闘能力皆無なので、情けなく思う。この間などは、貴族の5、6歳の子供たちに箒でボコボコにされていた。流石にやり過ぎだと思ったので、助けようをしたら…
「アリシア様。丁度良かった。」
うんうん、来てよかったと思うのもつかの間、
「子供たちに叩いてもらっていたのですが、もう少し強く叩いてとお願いしても全然強くしてくれないのです。アリシア様からお願いしてもらってもよろしいですか?」
40過ぎのおっさんに頬を上気させながら、そんなことを言われた……
こいつは駄目だと思ったので、たまたま近くにあった鉢植えを持ってきて、その変態の頭の上で離した…頭から赤い色の液体が出ていたが、赤い涙だと思う。赤い色の涙なんだからすごく感動したんだと勝手に納得することにした。喜んでもらって光栄だ。
考え事をしながら歩いていたので、前の人が急に止まったのに対応できず、ぶつかってしまった。前に人は、なのよアンタと軽く睨んできたので、すいませんと軽く言っておいた。
「それでは、皆様、ここが広間になっております。既に王はお待ちです。もうここから、王の伴侶選びが始まっているものとお考えください。」
執事長さんはそう言って広間の扉を開けた。
周りの候補者の顔が切り替わる。
私も気を引き締めなければならない。忘れてはならない。私がここに来た理由を……
私の命の恩人を探す事。まずは、あの時私の誕生日会にきていた人物を探すこと。一人は誰か分かっている。現水の国の国王だ。ここは、国の中心だ。彼が違っても、伴侶の選抜期間の内に探し出せるだろう。
顔はなんとなくだが覚えている。だが、3年も前のことだ。成長期であることを考えると、今私が見ても分からないかもしれない。だが、彼がまとっていた雰囲気は忘れたことがない。穏やかで、暖かくて…でもどこか寂しで…
助けられたのは私なのに、大丈夫だよ、私が一緒にいるからって言いたくなる…そんな感じだった。
ここまでくると女の勘というものに頼るしかないのだが、こんなチャンスはもう二度とないだろう。今は、見つからないなんて後ろ向きなことは考えない。私は全力で進むだけだ。
もう、周りの候補者は広間に入っていった。あとは、私だけ。
よし、と私は広間に足を踏み入れた。
目をぎゅっとつむっていたもの次第に解かれていき、そおっと目を開ける。
肩まで伸ばされたサファイアの様に輝く青髪。透き通るような白い肌。女性のように長いまつげ。目をつむっているその様子は、まるで精巧に作られた人形のようだった。
水の国 国王 アーグラー・ヴァルエス
こんなに美しい男性を見たのは初めてのはず、だった。
だが、その顔を見て気づいた。
私の思い出の中の人物と酷似していることに……




