9:ぺしぺしぺし
紅茶とココアを両手に、男の子がまつリビングにむかう。紅茶が私のだ。基本的に、私は一年中熱いものしか飲まない。冷たいのを飲むのは、外食くらいなのよね。
時間はもうすぐ十一時になる。雨は帰ってきたときほどひどくない。
男の子は、私のお気に入りのクッションを抱えて私をまっていた。
赤い折りたたみのテーブルをだしてやり、男の子側にココアをおく。男の子はそれにとびついた。
熱いのが苦手なのかな。
はふはふしながらココアを一生懸命に飲もうとしてる。
しゃべらなきゃ可愛いわあ。いやされるわあ。
口まわりについたココアをティッシュでふいてやる。
男の子は文句をいわずに素直にふかれる。
可愛いよ、小動物みたいで可愛いよ。
「いつまでそんな目でわしを見る。幼児趣味か」
「よし、撤回だ。可愛くないわ」
顔だけか、この可愛さは!
「それよりもだ」
「なあに?」
「ココアだけじゃたりなくて、だな」
ぷっくりとマシュマロほっぺたをふくらました男の子は、ペシペシペシとテーブルをたたきだした。
「腹がへった。女、砂糖はないか。わしは砂糖が食べたい」
「は?」
「腹がへってたまらん。それにいまはとにかく甘いものがほしい……!」
ほんとにお腹が空いてたまらないのかもしれない。
砂糖くらいいくらでもあるけど、「砂糖がほしい」って切羽つまりすぎでしょう。
私、この子に「砂糖しかくれなさそう」とかおもわれてるのかしら。
「たしかゼリーとクッキーがあるはずだけど、食べる?」
「食べる! あとココアがまだほしい!」
「どんだけ腹ペコよ」
「しょうがないだろ。ここ一ヶ月くらいはまともに食にありつけておらんのだ」
それは親にご飯をたべさせてもらってない、と解釈してもいいんだろうかな。
それがほんとなら、いち早く保護してもらったほうがいいんだけど。
明日男の子にばれないように警察に連絡するしかないかな。
私は男の子にクッキーとゼリーをだしてやりながら、計画をたてる。
「ふおぉぉ、久しぶりのご飯!」
うれしそうにかじりついた。
むぎゅっ。
はむっ。
かりかりかりかり、ごっくん。
「あっちぃ!」
そりゃいれたてのココアは熱くて当たり前だと思うよ。