表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

8:悪魔の飲み物

 ほどなくしてお風呂がわいた。男の子の身ぐるみをひっぺがしてお風呂場に投げてやった。「このおにおんなーっ」って叫び声がしたけど、私はしーらないっと。

 あの様子ならひとりでお風呂は大丈夫かな。いちおう脱衣場には私が控えているし。

 男の子がお風呂にはいっているあいだに、私は自分の着替えをちゃっちゃかすます。

 洗濯機に私とあの子の服をぶちこんでスイッチをいれた。洗剤はすこし多めなのは、なんとなくだ。

「いつまでそこにいるんだ」

「だってぼくがおぼれたら大変でしょう」

 風船をわったような大声で、

「ひとりでふろくらいはいれるわ!」

 といわれてしまった。心配は心配だけど、しょうがない。これ以上さわがれるのは勘弁だわ。

 男の子がお風呂にはいってるあいだに、ホットミルクをつくってあげようか。

「あ、牛乳ない」

 冷蔵庫には豆乳と飲む乳酸菌しかなかった。

「豆乳? や、意外とホット乳酸菌も」

 いやまてよ、あったかい乳酸菌ははたしてだいじょうぶなのかな。乳酸菌は「菌」っていうくらいだから、生き物だよね。それを加熱したら……。

「想像するのはやめておこう」

 ぺたぺたと足音がした。だんだん近づいてくる。

「おい、あがったぞ」

「あがったんだね。て、髪の毛ちゃんとふきなさいよ。ただでさえ髪の毛ひきずってるのに。自分の歩いたあとは見た? ナメクジがとおったみたいになってるわよ」

「ふん。ほっとけばかわくだろ。問題ない」

「だれがそのぬれた廊下をふくのかな? ん?」

「ふいてくれるのか。よろしくたのむ」

「それが人に頼む態度か!」

 さっきの弱々しい姿はなくなった男の子。言葉をはっきりとしゃべれるくらいには回復したみたいで、一安心だ。

 でもこの態度はひとすぎる。いただけない。将来がどうなるやら。

「そんなことよりも! 豆乳はともかくあったかい乳酸菌は悪魔の飲み物だ! なぞの酸味にえもいわれぬあの後味! うう、わしは二度と飲みたくないぞ!」

 どうやら一度あったかい乳酸菌は飲んだことがあるみたいだ。悪魔の飲み物って比喩するんだからそうとうな味だとみえる。

 ふむ、

「なら乳酸菌にしようね」

「女! だからイヤだといってるだろう!」

 男の子に素早く飲む乳酸菌がはいった紙パックを奪われてしまった。こぼされては大変だから、すぐさま奪いかえす。

「ただの冗談よ」

 男の子は眉間にぐっとしわをよせる。

「ウソだ!」

「ほんとに冗談よ。第一、そんなおいしいかまずいかわからないもの、確認せずに飲ませるわけないじゃない」

「目が本気だった! わしは見たぞ! 絶対に本気だった!」

 だぶだぶのロングTシャツを握ってギャンギャンとほえまくる男の子。

 顔つきがかわいらしいから、ほほえましい。

 あれ、まって私。

 このさわがしさになれてきてない?

「さて、ぼく。ならココアなんていかが?」

「……しかたがない、そこまでいうなら飲んでやる」

 弱ったり、わめいだり、怒ったり、静かになったり。

「子どもって見ててあきないわね」

 男の子が「子どもじゃない、もう立派に成人しとるわ!」とキャンとほえた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ