7:ワガママ
ひたすら首をふってイヤイヤをくりかえす男の子。いっこうにはなれてくれない。
しょうがない、つれて帰るしかないか。それから病院につれていけばいい。
片手で男の子を抱え、もう一方でそこらで雨に濡れている電灯を拾う。
「びょういんは、だめだ! いかないぞ!」
「わかったから、わかったから落ちついて。しょうがないから私の家につれていくわ」
「ほんとだな!?」
「体あたためて、着替えて、それから病院よ」
「いやだ! わしはびょういんにはいかないぞ!」
「はいはい、とにかくおとなしくしてなさいよ」
なんだか心配するのもバカらしくなってきたわ。
頭から足までびっしょりな私たち。下着なんてぐしゃぐしゃになってしまってる。くわえて、この男の子だ。ひっついてはなれないから不愉快感はどんどん上昇中だ。
「くそ、あたまがぐらぐら、するぞ」
「おとなしくしといてよ。すぐに家だから」
「さ、さむいぃ」
ずびびぃーっ。
このガキ、人の服で鼻水ふいたな?
「クソガキめ」
「うるさい。はやくあるけ。わしは、さ、さむいのだ! ぎゃんっ!」
ピィピィわめくから、おもわず手がでちゃったじゃない。
「しりをたたくな! わしは、びょうにんだぞ!」
「病人なんて難しい言葉、よく知ってるわね」
「おまえよりはあたまはいいんだ! ぎゅむっ!」
まだわめくか。
頭をぐいと肩におしつけた。
しばらくはむごむごと文句をたれていたけれど、だんだんおとなしくなってくる。
「なら病人らしく、おとなしく、しずかに、抱かれてなさい」
男の子はそれっきりしゃべらなくなった。
家に帰ってすぐに、男の子をバスタオルでくるんでふいてやった。
髪の毛があまりにもひどい。
長さは不ぞろいで、一番長いのは床をひきずっている。でも、全体の印象はショートカットが少しのびた感じ。前髪の一房が、てれんと肩すぎまでたれている。無理矢理エクステで長髪にしたみたい。
虐待とかかな。病院はいやだっていうし、ばれたくないとか。
押し入れにあった電気ヒーターをだしてやる。スイッチを回し、男の子の前においた。
「そこの前でまってなさい」
「ひとりにするのか?」
さびしげな声に、つい「ならついてきなよ」といってしまいそうになる。それをぐっと我慢し、
「着替え用意してくるだけよ。それとお風呂の用意。すぐに戻るから」
「しょうがないからまっててやる」
男の子は、どこまでも上から目線だった。