6:きたない男の子
大きさは中型犬より少し小さいくらい。そんな大きさ。半分以上が道にはみだしている。
なぜだかそのかたまりが気になった。
私は、おそるおそるそれに手を伸ばした。
薄汚れた布はずっしり重い。けっこうな厚さで、たぶんカーテンとかかな。
それのはしをつかんでゆっくりひいた。
「雨のせいで重いわね。よっ、と!」
ぐるり。
中身がむこう側にころがった。
はじめに見えたのは、砂利がからまった赤茶げた糸みたいなの。
ぐるり。
つぎに見えたのは、その糸がだんだん増えて束になっているもの。
ぐるり、ぐるり。
最後は一思いにひっぱった。
「ひ、ひいぃっ」
おとこ、のこ。
赤茶色の髪の男の子が、くるまっていた。
「に、人形よね。まさか、ほんとは、人間でした、なんてオチじゃないわよ、ね」
真っ白をとおりすぎて青くなっている頬をつついてみた。
やわらかい。
「人間!? 男の子!?」
いそいで生きているか確認した。
呼吸はちゃんとしていた。けど冷たすぎる。体冷たくて温もりがまったくない。
「ぼく! しっかりしなさい! おきて! 寝てないでおきなさい!」
顔にはりついた髪と砂利をぬぐってやる。頭をもちあげて抱えあげると、体がすごく軽い。すりきれた長袖のシャツからのぞく手首は細くて弱々し。よくみれば裸足だ。
「うぅ」
か細い声がきこえた。
なんとか目をあけてもらわないと!
「ぼく、ぼく。しっかりして。だいじょうぶだから。ほら、おきなさい」
「ぅあ、あ゛」
大きく背中をのけぞらせた男の子。苦しげな表情が、私を嫌な気持ちにさせる。
ふるふるとまつ毛はふるえた。ゆっくりまぶたが開く。
鋭くとがった目をしていた。髪と同じ色の瞳はそこらをさまよって、それから私を見た。
「だ、だいじょうぶ?」
男の子は、口をパクパクと何度か動かすだけで返事をした。
「病院。そうだ、病院につれていかなきゃ」
電灯はそこらへんにほうり投げたままだけど、また後でとりにくればいい。
電灯よりは命を大切にしないと。いまこの子を助けられるのは、私だけだ。
「いまつれてくから」
男の子は力弱く首を横にふった。
「バカいわないの! 死んじゃうわよ!」
私たち大人はまだいい。少々ぬれても風邪はひかない。ひいてもそんなにひどいものじゃない。
けど子どもはちがう。
ちょっとした気温の変化で風邪をひくし、へたにこじらせたりなんてしたら、あっさり死んでしまったりする。
「ま……まて」
男の子がいった。
「まて……た、のむ、から」
のどが悪くなってるみたいで、声がかすれてる。それでも少しずつは声がはっきりしてきた。
「しゃべらないで、さあいくよ」
「だ、から……まてと、いって、いる!」
こんどはしっかりと声がでた。かわりにゼイゼイと肩でいきをしだしたけれど。
「おんな、びょういん、は、だめだ」
男の子は、
「つれていったら、わしはないてやる……!」
私の首すじに顔をうめて、それっきりしゃべらなくなった。