4:処分方法
「そろそろ私はお邪魔しますね」
「もう帰っちゃうの」
コズエさんは、まだ話し足りないらしい。
「二人と話してたら、時間がたつのが早くてびっくりですよ。ほら、もう三時すぎ」
「あらあら、ほんとだねぇ」
「それに、ちょっと今日は質屋に行きたくて」
足元の赤いボストンバックを指差した。これは、私の誕生日に弥一郎さんがくれたものだ。愛用して長くなるけど、まだまだ現役で活躍してくれる。
「一ノ瀬さんに私があげたものとかを売りにいくんです。慰謝料もしっかりもらってるけど、なんだか一ノ瀬さんのものにしておくのがもったいなくて」
私が一ノ瀬さんからもらったものは全部置いてきた。慰謝料金額が決定したとき、一ノ瀬さんは顔が真っ青になっていた。彼だけじゃなく、浮気相手の人もそれは同じ。実際の金額より安く慰謝料を見積もっていたんだろうからね。
まあ、ご愁傷様よ。
そのときに、「私が一ノ瀬さんにあげたものはもっていきます。私がもらったものは置いていくから、別に問題はないでしょう?」
彼は、ただ首を縦にふるだけで返事をした。
「ブランド物もあるから、けっこうな額になるはずなんで。それでプチ旅行を計画したいんですよ」
「いいねぇ旅行。僕もよくお母さんと旅行をしたよ」
「お父さんはいっつも迷子! しまいには迷子札を持たせてね」
「違うよ、お母さんが迷子になってたんだよ」
「迷子になる人はね、みなそう言うのさ!」
照れた顔で弥一郎さんが「それはもう聞きあきたよ」とそっぽを向いてしまった。
うらやましいなあ。
私も、いつかこんなふうに鷹夫さんと年をとって……。
「縁ちゃん? どうかしたの?」
「や、なんでもないですよ!」
「そぉかい? 気をつけて帰るのよ」
「相談にはいつでものるからねぇ」
「じゃあ、また来週に」
一週の休みの間に、一ノ瀬さんをちゃんと愛してましたといえるようになろう。
いえるようにならなきゃいけないんだから。
浮気がわかってからのゴタゴタと、浮気相手とのゴタゴタを心配する必要はもうない。肩にのっていた漬物石みたいな重さはどこかにとんでいった。
今日で、私たちは赤の他人になった。なったんじゃなくて、戻ったというのかもしれない。彼と、「一ノ瀬鷹夫」という男性と出会う前に戻っただけ。
「実は、まだ、彼との愛を捨てれない、でしょう」
いやらしく私の心が笑う。
うるさいなあ。ちょっと黙っててよ。
そいつは細く笑い声をあげながら、胸の奥底にひっこんだ。