29:チケット
一通り見たい番組をみたソーマは、さっさと屋根裏部屋へいってしまった。
翌日。
私とソーマはショッピングセンターへやってきた。昨日いったとことは別のところで、そこよりも十分ほど遠いところにある。このショッピングセンターはファミリー向けにできていて、駐車場も広く店内も子どもが遊べるコーナーも充実している。けど、規模は昨日のに比べると小さい。
ソーマはおとなしくチャイルドシートに座ってくれている。ダダをごねるかとおもったけれど、顔をしかめるだけにとどめてくれたので、一安心した。
「おお! 店が大きいぞ! すごいぞ! すごいぞ!」
チャイルドシートのシートベルトをはずした途端に、ソーマは車を飛び降りて近場にあったクレープ屋さんへ一目散に走っていく。メニューのパネルにしがみつき、ぐいと顔を近づけてムムゥとうなり声をあげる。
「チョコか、ベリーか、それかフルーツか……いやキャラメルプリンも捨てがたい」
「買うか! まだお昼前よ!?」
「甘いものは別腹という名言を知らなんだか」
「朝から食パン一斤食べた人間が言うセリフか…………!」
クレープ屋さんの店長さんが「売り切れはないからお母さんと買い物してきな」と、笑いながらソーマにメニューのパンフレットを渡してくれる。
ソーマは、
「ユカリは母親ではないぞ。わしはユカリに養われているだけにすぎん。居候だ、居候」
カカカッと大口で豪快に笑う。
「すみません、ちょっと妄想壁のある子なんで気にしないでください」
「いやぁ、元気なぼっちゃんですね」
「これしか取り柄のない子なので」
「そんなこたぁないでしょう。そうだ」
店長さんが小さなチケットをソーマにくれた。
「ここの三階で、いま人形展やってんだ。よかったらお母さんと見にいきな。で、このチケットにスタンプ押してくれる。そうしたら、限定のクレープを提供してるんでな」
「ほんとか! 限定品だと……っ」
「元気のいいぼっちゃんだからな。トクベツにやろう」
うわあ、ちょっと顔は強面だけどいい人だ。
「ほら、だからお母さんを困らせるんじゃねぇぞ」
「うむ。承知した!」
ぺこぺこと私は何度も頭を下げる。
ほんとうに申し訳ない。くそぅ、ソーマめ。私に母親役をさせるなんて。
「よし、買うものをさっさと買って人形展にいくぞ。そして帰りに限定クレープを……」
「はいはい。わかったから落ち着きをもってちょうだいね」
自称、私より年上。
これは、絶対に、信じたくはない。
「まずは、わしの日用品。次に寝具。あと本屋にいきたいのと、ちと文具もほしい」
「またたくさん買うのねぇ」
全部買うのにいくらかかるのか、ソーマはまったく考えてないだろう。
「う? ユカリ?」
「なんでもないわよー」
もうコイツのはちゃめちゃにもなれてきたわ。
「さっさと買い物してしまうわよ」
「おおーっ」