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25:そして台所は……

 このときの私の顔は、それは見物だったにちがいない。

 純粋にびっくりした。ここ最近まったくきかなかった言葉だったから、一瞬なにをいわれたかわからなかった。だから、このときの表情は「きょとんとした」ものだろう。

「そんなに目ん玉をひらくと落ちるぞ」

 ソーマに心配されるくらいの表情らしい。

「だいじょうぶか? つかれたのか?」

「いや。ちがうよ。ちょっとびっくりしただけ。おかえりなんて久々にいわれたから」

「そうか。ならユカリは毎日びっくりすることになるな」

 ソーマは一旦お米を下に置く。

「わしがいるあいだは、毎日いってやるんだからな。ききあきるくらい『おかえり』といってやろう」

「そっか」

 私の口からは、そんなそっけない言葉しかでてこなかった。

 大量の荷物を片した私たち。ソーマにコンビニで買った特大シューを渡してやった。ソーマはとびはねてよろこんだ。だから自分用の特大シューもあげてみる。こんどは、両手にそれぞれを握ってプルプルとふるえて、全身をつかってよろこびだした。ソーマは二つとも大切に冷蔵庫になおしにいく。風呂上がりに食べるらしい。かわいらしい足音が、夕方のわが家をかけまわる。

「ほら、こっちにきて。ソーマの服あわせるから」

 友香が選んでくれた服は、それは種類が多かった。Tシャツが三枚に長ズボンと半ズボンが二枚ずつ。薄手のパーカーが二枚。キャップが一つ。長袖のシャツが二つ。パジャマが三組。

「わしが着るには子どもじみとる」

「いまは子どもなんでしょ?」

「それはそうだが……」

 色は原色が多い。デフォルメされたクマのプリントTシャツとにらめっこをするソーマ。「なかなかイラッとする顔だな、貴様」クマにケンカ売るんじゃないの。

「一通り着てみてね。私はご飯作るから」

 サイズが会わなかったりあまりにもソーマが気に入らないのは、近いうちに交換しにいくから。私の言葉に、ソーマはいそいそと試着しはじめた。

 台所は、ひどい有り様になっている。いつも以上の買い物で、食料品の置き場がない。正直なところ、こんなに買いこむつもりはなかった。ただソーマの食欲を考えると、これだけ買わなきゃすぐに底をつきそうな気がする。しかたがないかなあ、けど冗談抜きで買いすぎたわ。

 野菜が入りきらなかった。それらは新聞を敷いた段ボールに入れて、すみの涼しいとこになおす。

「とりあえず今日買った分で様子見かな」

 パンパンになった冷蔵庫。棚に並んだフルーツ缶に野菜缶。

 どれくらいで食べつくすかな…………わが家の食料問題は、どうやら悩みの種になりそうだ。



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