24:おかえりなさい
ソーマを拾ったごみ捨て場をまがれば、家の前に白いかたまりがみえた。車を一度とめて、目をこらす。
白いかたまりとおもったのは、私の日傘だった。はしのレースの形がおもしろいから、すぐに自分のだとわかった。たたんで玄関においていたはずのそれ。なんでこんなとこに……あれ、ソーマ?
徐行運転ですすめば、日傘の下にイヤでも頭に残ってる赤茶がみえる。
「なにしてるのよ」
日傘をかかえて地べたに座っているソーマ。お尻には、お風呂場のプラスチックのイスがある。首にタオルをまいて、一リットルの麦茶をかかえていた。
「遅いからまっていたのだ。感謝するがいい」
「いつから! こんな暑いとこに長くいたら熱射病になるじゃない!」
「なぜ怒る。熱射病対策はばっちりなのに。この麦茶、たっぷりの砂糖にちょびりと塩がはいっていてな。ちなみにこれが二本目だ」
「まずい麦茶つくって……まだ本調子じゃなかったわよね」
「ユカリをまつくらい楽勝だっ」
パッと立ち上がりくるりと日傘を肩でまわすソーマ。
麦茶のに三分の一をいっきに飲む。日傘をたたんで器用にイスと麦茶のペットボトルをかかえ、ててっと急ぎ足で家にはいっていった。
私は車庫に車をなおして、後ろのドアをあける。どっさりとある荷物たち。こいつらをひとりで運ぶのか。骨がおれるわ。
食料品をさきに運ぶことにする。エコバッグじゃおさまりきらなかったので、ぜんぶを段ボールにつめた。
「おい」
家にもどったはずのソーマが後ろにいた。
「その大荷物はなんだ」
「食料品よ。ソーマ、よく食べるじゃない」
「むむ、たしかにわしはたくさん食べる。すまないな。でだ、なにを買った?」
「いろいろねー」
口ではあやまってるけど、そこに悪気はゼロだ。このやろう。
「重そうだな。どれどれ、ちょっとまて」
ソーマは、右手を二回グーパーさせる。そして、トンと段ボールを指先でたたいた。
たたいてすぐだった。あんなに重かった段ボールから、急に重さがなくなった。ほんとにいきなりだったから、私はふらりと後ろにのけぞった。危うくしりもちをつきかけたのを、根性でふんばって回避した。
「なにしたの!」
「なあに、重さを一時的になくしただけだ」
からからと笑い、ソーマはいまやった一連の動作を残りの荷物にやっていく。
「買い物はすべてまかせてしまったからな。これくらいはさせてくれ。よし、あとその米袋はわしにまかせるがいい。台所に運んでおくぞ」
十キロのお米を頭にかかげて、ソーマはなんでもない顔で家に走っていった。玄関手間で唐突にとまり、くるっと私にふりかえる。
「忘れておった」
ソーマはにぱりと笑った。
「おかえりなさい、だ!」
それから、大きな声そういった。