19:いっしょがいい
「なぜだ。いままで出合った女たちは、この悩殺プロポーションにノックアウトされてきたのに…………!」
その人たちは脳内構造がソーマと同じだからです。
ぷしゅんっ!
空気がぬける音がソーマからした。そして、あっという間にもとの子どもの大きさにもどってしまった。Tシャツをワンピース見たいを着た女の子ができた。
「とりあえずソーマが着れそうな服とか買ってくるから、明日またあらためていきましょ」
「ほんとか…………? ウソじゃないだろうな…………?」
「た・だ・し、おとなしぃく、まっとくこと。じゃないとつれていかない」
チャイルドシート問題は、弥一郎さんにきいてみるつもりだ。エコーは雑貨屋さんだけど、買取もすこしばかりしている。店内におけない物は、裏の倉庫に収納している。私の記憶が正しければ、春先くらいに買取したチャイルドシートがあるはずだ。
「うむ、わしはおとなしぃーくまつくらい、楽勝だ! 約束だぞ? 明日は必ず、わしもつれてけ!」
しずんだ顔を一転さすて、にぱりと笑顔をうかべるソーマ。
「じゃあ私はいくわ。鍋に玉子丼が用意してあるから、ご飯よそって食べてちょうだい。あと冷蔵庫にお煮しめあるから、それも食べていいわよ」
「ユカリは食べんのか?」
「買い物に時間かかりそうだから食べないでいくわ」
実際にはないのに、ソーマの頭にへたれた獣耳がみえた。親とはなれてかなしいような、そんな気持ちを体全部をつかってつたえてくる。
「そうか。いっしょに食べんのか。てっきり、いっしょに食べるとばかりおもっていたぞ」
「私より“年上”なんだから、ひとりでご飯くらい食べれるでしょ?」
「……ユカリと食べたい。ひとりは、イヤだ」
くぃとズボンがひっぱられる。
「夕方はやく帰ってくるから」
「ユカリィー」
「あのね、時間ないの。まだまだやることあるこ」
「だめ、か?」
「っ!」
ただでさえ顔がいいソーマ。へたに媚びる子どもよりも、そのおねだりは破壊力があった。
いいの?
ここまで一生懸命にお願いしてるんだよ?
ほら、かなしい顔してるよ?
この子のお願い、そんなふうに却下したからだよ?
「うううう」
「いっしょに食べたい。おとなしくするから、ユカリ、ユカリ、ご飯、ごはん……いっしょがいいのだ」
ピッシャァァン! 暗雲立ちこめる空から、私にむかって雷が落ちた。目を焼くような光と、いままでに感じたことがない衝撃。
無意識に、私は早口気味にいった。
「食べたらすぐにでるからね。ちょいとぐらいなら、食べていってあげるわよ」
「ほんとか!」
近年まれにみるすばやさで、ご飯をよそぎお昼の配膳をすませる私。挙動不審な私をソーマは口をカパリとあけておどろいた。
「な、なによ。いっしょに食べるんでしょ。意見をかんたんにひるがえす女はお嫌いかしら」
とっても、シャクだけど。今回だけ、だけど。ソーマにつき合ってあげましょう。
「そこのスプーンつかっていいわよ。さめるから、さっさと食べるわよ!」
と、いい終わる前に、ソーマは私のほうへかけ足で走ってくる。
「ん、ご飯はいっしょに食べてこそだ!」
ソーマが一番やる「わしはさすがだろう!」な、自慢気な表情。
「さっきみたいにしずんだ顔より、ソーマはそうやって笑ってたほうがソーマっぽいわね」そう声にだしてやるつもりはない。私は、ソーマにみえないようにして笑った。
2013.06.29
一部修正しています。