15:夢じゃなかった
いつもと同じようにコーヒーメーカーにスイッチをいれ、リビングのカーテンをあける。
時間は朝の九時、すこし遅い目覚めになった。
昨日の激しい雨があったのは、ウソみたいな空が窓越しみえた。雲ひとつない空。私の気分とは大違いだ。くそ、なんてにくたらしい青空め!
「なにをしている。わしに早くミルクをいれてくれ」 赤いソファ(特等席)に座って、かわいらしい顔の男の子は、テレビのチャンネルを片手に不満をもらす。
ソーマ。それは、この自称「魔法使い」で「私より年上」らしい、この男の子の名前だ。
「魔法使いだとしんじてない? 昨日、あれだけのものを見せてやったのに。ユカリの頭ん中は、冬眠中らしいな」
いったい私はなにをみたんだ…………とりあえず、腹立ついい方をしたソーマの頭に、教育という拳を落としておく。予想外で「ピィ!」とないた男の子は、テレビのリモコンをついほうり投げてしまった。リモコンは弧を描き、きれいにソーマの頭に落ちた。
かわいそうに、リモコンには落ちる先さえ選択する権利はないんだよね。ソーマにばれないように、リモコンに黙祷をささげる。
昨日、私の記憶は虫食いでしか残っていない。すべて忘れてはいないが、微妙なかんじにしか頭に記憶されていない。
雨の中男の子を家につれ帰った。
お風呂をかしてやった。
ココアを入れてクッキーとゼリーをだしてやった。
それから。
それから……なんだっけ?
たしか、私は、昔話を聞いて――なにか光って――男の子が「わ――なはソーマ――ま――いだ」やっぱり、断片的にか脳みそは記憶してくれてない。
「ミルクは冷蔵庫にあるから勝手に飲んでいいわよ」
「ついでくれんのか」
「なんでつがなきゃいけないの?」
私が「好きなだけついでいいから、自分でするのっ」と小さな抗議をすると、ソーマはしぶしぶといった様子で台所に消えていった。片手にビールジョッキを持ってだ。
私が目をさましたのは、自分の部屋のベッドの上。昨日着替えたままの格好で、タオルケットを頭からかぶっていた。
まずはじめに、昨日拾った男の子「ソーマ」が、夢でないかたしかめることにした私は、ボサボサになった髪をなおすこともわすれて、リビングに急いだ。
いない。ヤツはいない。やっぱり、あれはちょっとした夢だったのよ。
「なんだ。なかなかに早い目覚めなんだな」
ボーン、と部屋の時計がご丁寧に九時を告げてくれたと同じく、夢でみ赤茶髪が台所から姿をあらわした。