11:七夕物語
「天川は天の川のことだ。今日、七月七日は、こっちじゃ、あー、なんだ、たなはた? か? いや、ちがうな…………はなはた!」
「七夕よ、た、な、ば、た」
「わ、わかってるわ! だまって人の話はきくもんだぞ」
私の指摘が恥ずかしかった男の子は、えらそえに「んんっ」と咳払いをした。
「たなばた、うむうむ、七夕だ。
七夕の由来くらいはしってるだろう。やれ織姫だの彦星だの、の話だ」
彦星と織姫が年に一度会える、て話だよね。由来とか伝説はいろいろあるけれど、肝心なとこは「年に一度会える」ってとこだろう。
「あれの八割は、美化されている」
ひょいっと男の子はクッキーを口にほうりこんで、
「事実は、もっとあほらしくて酒の肴にもならん」
さめたココアをイッキ飲みした。
「おかわり!」
「まだ飲むの?」
「あと十杯は飲めるぞ!」
自慢にもならない自慢だよ。
しょうがないからいれてあげることにする。
年に一度橋がかかるとかは、七夕の「織姫と彦星が年に一度会える」からきてるんだろう。けどそれはただの昔話だ。現実にありえる話じゃあない。ちゃんと聞くと約束したけど、それを信じるかどうかは別の話だ。
食パンがあったから、それにたっぷりとイチゴジャムをぬったのをココアといっしょ持っていく。焼いてないからパリッとはしないけど、これはこれでけっこうおいしいんだよね。私の好物。
男の子はそのジャムパンにかじりついた。
気にいってくれて、なによりなにより。
「『もーチョー信じらんなーぁい! ダーリンとせっかくラブラブできるのにのぞき見とかぁー!』と織に――織はこっちでいう織姫のことだ――怒られてしまって……こう、げしっと。ここから少しはなれた林に落とされたわ。せっかく情事をでばがめして、それをネタにしばらく衣食住の面倒をみてもらおうと計画しとったのに…………台無しだ」