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1:七月七日
すみずみまで書きもらしがないか確認した。鷹夫さんにも確認してもらい、私は印鑑にベットリと朱肉をつけて、自分の名前の横に捺した。
鷹夫さんは、私の顔を見ずにそれをそそくさと茶封筒にしまった。
「ほかに書くものある?」
「ない」
どこか申し訳ない返事。
「なら行くわね。ほかに私がすることはあるの? あるなら手短にしてくれないかな。用事があるの」
「いやいい。大丈夫だ、なにもない」
すりきれた赤いボストンバックを肩にかついで、三年間お世話になった家に背を向けた。
「縁、すまない」
ドアを閉める前に、かすれた声で鷹夫さんの声がした。私はふり返らない。
「そんな言葉を吐くくらいなら、プロポーズしてほしくなかったわよ」
七月七日。
結婚式をあげた日と同じ今日、私たちは離婚した。