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ある日のお寿司

作者:

お題:すめし、寿司太郎、手巻き寿司、魔、星、飴

という中で書いてみました。

「お母さん!あれ!あれなに!?」

 拓哉が夕暮れの空を見上げて叫んだ。

 見上げると流れ星が消える瞬間だった。

「あれはね、流れ星っていうの。見えてる間に3回お願いをするとそのお願いが叶うのよ」

「ほんと!?また流れてこないかなぁ」

「拓哉は何をお願いするの?」

「うーんとね・・・、お寿司がいっぱい食べたい!」

 少し心がずきっとした。母子家庭のうちには寿司をおなかいっぱい食べさせてあげられるほどの金銭的余裕はなかった。もうこの子の父親と離婚してから3年ほど経つ。この子は生活に満足してくれているのだろうか。

「わかった。今日はお寿司にしようか!」

「やったー!」

「おうちでお寿司やるんだよ」

「おうちでできるのー?」

「じゃあスーパー寄っていこうか。お荷物持ってくれるかなー?」

「はーい!ボク持つよ!」

 満面に笑みを浮かべた息子の顔を眺めている時ほど幸せな時はない。

 

 丁度スーパーではマグロが安かった。あとはきゅうりと卵でもあれば手巻き寿司を作れるし、レトルトのちらし寿司があればちらし寿司も作れる。

 荷物は軽い方を一つ持ってもらった。心の優しい子だ。


 家に着く拓哉は洗った手を拭きながら訊ねてきた。

「お寿司はどうやって作るの?」

「今日はね、ちらし寿司っていうお寿司と手巻き寿司を作るのよ。ちらし寿司はこの"寿司太郎"っていう具をご飯に混ぜるの。手巻き寿司は海苔で具とご飯を巻いて作るのよ」」

「やったー!お寿司!お寿司!」

 純粋に喜んでくれているこの子の顔にどれだけ助けられているだろう。

「なにか手伝う?」

「じゃあ寿司太郎とご飯を混ぜてくれる?しゃもじでご飯を切るように混ぜるとうまくできるよ」

「わかった!」

 私は本当にこの子に助けられて生きている。私の子なのにどうしてこんなに良い子に育ったのか不思議でもある。


 あの頃私は若かった。魔が差したとも言える。あんな男にひっかかって、引きずり回された挙げ句に妊娠までさせられるなんて。しかし、今は拓哉が居て本当に良かったと思っている。あんな男のDNAだが立派に、素直に育ってくれている。家計はさすがに苦しいし、仕事も忙しく忙殺される日々が続いているが、この子のおかげで心も折れずなんとかやっていけているのだ。


「お母さん!できたよ!」

「うまく混ざってるかなー?」

 酢飯と具材はうまく混ざっていた。頭をなでる。

「よーし。あとはお母さんがやるから飴でも舐めて待っててね」

「はーい!」


 息子とのたまの奮発した夕食。二人でも団らんだ。明日からはまた質素な食卓が待っているが、この子はきっと文句一つ言わず我慢してくれるだろう。いつか我慢のない生活ができることを星に祈るばかりだ。


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