第十三巻 新王誕生
マグニフィコ、即位。
グレイル様…グレイル様…
アマンダは、グレイルの名を心の中で連呼していた。
王宮にある寝室には、多くの騎士たちが裸でいた。
アマンダは国問わず騎士たちの"相手"をしていた。
既に純情は捧げてしまっていた。
裸で寝室にまたがる中でアマンダは、痛む臀部をさすりながら連行されていったグレイルの行方を案じていた。
そして、寝室のドアが開き騎士が入ってきていた。
アマンダ…無事だろうか…
グレイルは暗い牢獄でそんなことを考えていた。
捕まって既に1週間の間、グレイルは陽の光を浴びることなく監禁されていた。
公には死亡とされていた。それもこれも全て、マグニフィコによる策略だった。
そんなこんなで、グレイルやリヴァーを始めとした旧騎士軍は反逆者としてのレッテルを貼られていた。
マグニフィコによって、情報を漏洩することによる横領問題をでっち上げられていた。
そんなこんなで、リヴァーやレグニスも監禁されてごうもんをうけてい拷問を受けているのだろうか?
痛みすぎて感覚もない体を見ながら、グレイルはそんなことを考えていた。
もはや、自分たちは敗北者どころではない。
汚名を着せられた、卑屈な反逆者とされた。
グレイルは、思わず泣きたくなっていた。
まだ、16歳の少年は未来が暗闇に染まっているのではないのかと言う漠然とした不安が、急速に脳内に膨れ上がっていった。
いつまで、こんな生活を続ければいいんだ?
グレイルは、そう思っていた。
「救国の英雄、万歳!」
マグニフィコのことを人々はそう呼ぶようになっていた。
しかし、マグニフィコもまた影のある英雄ではあった。
王都カサターンの王宮である、ノイエ•リーベルダスにおいてマグニフィコは敗軍の王として会議に参加していた。
領土を決められるのである。
いくら、慈悲がかかるとは言え一般的に見てヴェルストロスの立場は崩落したかに見えた。
しかし、マグニフィコは思わず笑みを浮かべていた。
完璧だ…ここは、負けを認めてやろう…
マグニフィコは、会議につくなりそう考えていた。
その会議には、皇帝代行としてルキア、マーグ、サーフィスといった名だたる騎士たちが出揃っていた。
「それでは会議を始める…」
最年長であるルキアが、その言葉を発していた。
マーグ改めブリュングランは、ヴェルストロス北方地方の支配権を求めた。
ルキア改めクーヴェカルは、ヴェルストロス南部地方の支配権を求めた。
サーフィス改めライヒテーゼは、ヴェルストロス西部地方の支配権を求めた。
その支配権の要求に対して、マグニフィコは苦渋の判断をするかのような表情で承諾を果たした。
この会議は12月会議と呼ばれ、ヴェルストロスの強国の印象を完全に打ち砕かれた。
こうして、ヴェルストロスの没落により勢力比率は変化を果たした。
ヴェルストロス14、ブリュングラン28、クーヴェカル23、トリニティ16、ライヒテーゼ19になっていた。
故に言う、三国騒乱時代の始まりを告げていた。
ヴェルストロスは、王都のみは残され北部を支配するまでに勢力を落としていた。
そんな王宮の最中で、ささやかな儀式が行われていた。
マグニフィコの戴冠式であった。
マグニフィコは、その王冠をかぶっていた。
その重みは、いかなる時にあっても自身にとっては特別な意味を持っていた。
そして、その王冠と共に一つの剣を賜っていた。
ヴェイル•カサターン。片刃の剣であり、皇帝となるための資格を表す国剣であった。
ヴェルストロス初代皇帝、ヴェイル•ヴァン•ジーリアスの名を持つ剣をマグニフィコは、もち鞘から引き抜いた。
白く煌めく見事に研ぎ澄まされてきた刃は、窓から差し込む陽の光を反射していた。
「ペイン陛下、万歳!」
傘下の一人がそういったことを皮切りとして、ありとあらゆる人々が自身の名前を連呼していた。
そうだ、俺は皇帝になった…なれたんだよ…父上。
マグニフィコは、瞳に涙を浮かべながらそう考えていた。
西暦1198年、1月。
第9代皇帝として、マグニフィコは即位した。
そして、世界は小規模な戦いを続け…4年の月日が流れた。




