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ヴェルストロスの騎士  作者: Sk
第一部 帝国編
12/16

第十巻 王都包囲

諸々の事情でかなり、更新が遅れました。

逃げ延びてきた兵士たちから聞いた言葉は、リヴァーやレグニスを落胆させるほどの攻撃力を持っていた。

「ユーリー、ハエランが敗れたって!?」

リヴァーは、思わずそう大声を上げていた。

その声に驚いた周囲の人々に対して、リヴァーは少し声を低めた。

「既に、部隊は壊滅だ。残っているのは、東軍の残存兵力と無傷の西軍だ。これじゃあ、どう足掻いても勝ち目なんてないに決まってる…」

リヴァーは、リヴァーらしからぬ発言をしていた。

すると、レグニスはなんとも言えない表情をしながら近づいてきていた。

「今お前が思ってることは俺もわかる。だが、お前が倒れたら終わりだ。本当に終わっちまうぞ」

レグニスは、そう答えていた。

そうだ、俺はヴェルストロスの騎士だ。

最後まで、名に恥じぬ戦いをしようじゃないか。

「リヴァー、俺たちが出る。グレイル様やみんなを頼んだぞ」

レグニスは、リヴァーの肩に手を置きながらそう声に出していた。

「戻ってこいよ、レグニス」

リヴァーは、そう言うしかなかった。


五カ国が戦いを一世紀に渡って続けているのに具体的な理由はない。もはや、それは日常の出来事でもあったのだった。そして、戦争に依存している経済政策に乖離することさえできぬままに人々は戦いへとその身を投じている。

そんな戦乱の最中で人々は、戦いを憎みながらも、戦いを辞めようとは思わないのである…


レグニス率いる西軍は、北軍と南軍が消息を絶った場所へと急行した。

そこには、同胞の無惨な死体が転がっていた。

ここまで、やられるのか?マーグ•ヴェヴァンめ…

レグニスは周りに気を使うことなく大きな舌打ちを鳴らしていた。

周りの騎士たちは当然として、レグニスがここまで感情を露わにするのは珍しかった。

そんな感情の起伏が激しい中でも、彼らは戦わなければならない。

なんのための戦いなのかを問い詰めながら…


「敵影あり…数は3万…」

ヴェルストロス、南軍と北軍を打ち破り勝利の余韻を噛み締めていた彼らだったが、その報告を聞いた途端にその表情からは喜びが消えていた。

「どこの騎士隊だ?」

マーグも、半ば信じられないという形でいた。

強国の王都に三陣営が混在するとは、考えたことがなかった。

すると、その騎士は国旗からクーヴェカルとライヒテーゼであることが分かっていた。

「国家間の同盟が、成立していたとは…」

あくまでも、よくある軍事同盟の互いだろう。

しかし、対局を見る目があるな。

マーグは、そう感嘆するしかなかった。

「まぁ、俺には策がある…戦いだけは避けたい」

マーグは、そう答えていた。


「まさか、先客がいるなんて…」

ライヒテーゼ•クーヴェカル遠征部隊副隊長、マイロ•サーフィスはそう口に出していた。

サーフィスは、今年で25歳だった。

その隣では隊長であるルキアが静かに事の流れを考えていた。

ヴェルストロス攻略に先んじてと、俺たちも来た。

もちろん、それをする決定打になったのは一人の男による密告だった。

マグニフィコ•ヴァン•ペイン。ヴェルストロスにおける、重要人物であった。

そのことにより、ルキアは遠征部隊隊長にまでのし上がり、同盟を作るきっかけになったサーフィスもまた副隊長にまで地位を上げていた。

「俺たちは、互いに駒か…何らかの策略に呑まれたか?」

ルキアは、静かにそう述べていた。

しかし、出会ってしまった以上、目的のための壁になるのなら容赦はしない。

「ここで、立ち止まっているようじゃ無理だからな…」

ルキアは、半ば自分に言い聞かせるようにそう口に出していた。

そして、ルキアは剣を取り出して目の前の敵を叩くことにした。

しかし、その直前に敵軍の兵士が自分たちの前に出ていた。

若い騎士であり、敵部隊の連絡係と思った。

この状況に対してルキアは取り敢えず、剣を納めた。

「貴様たちの部隊は、どこ所属だ?」

ルキアを他所に、サーフィスがそう口走っていた。

「我々はブリュングランです、我々には貴官の部隊と交戦する必要はないという判断をいたしました」

その騎士は言った。

その隣ではルキアが、その騎士に対して自身と同類のような感触を覚えていた。

少なくともこいつは、俺と同じ死戦を潜り抜けている。

そのことがルキアに言葉を発させた。

「お前は、マーグ•ヴェヴァンじゃないのか?」

ルキアは、そう端的に述べていた。

「マーグ•ヴェヴァン?あのブリュングランの誇る騎士が、こんなに若いですかね?」

サーフィスは、目の前の騎士と照らし合わせながらそう述べざるを得なかった。

「その通り、俺はマーグ•ヴェヴァンだ。貴官たちとは、戦いたくない」

マーグは、そう言った。

「貴官らも、マグニフィコなる者の情報から動員されたか?」

ルキアも、マーグの言うことに合点したのかそれに応じた。

「流石だ、血塗れ騎士(マッダーナイツ)…隣のちんちくりんとは話が違う」

マーグは、思わず普通のノリで話を進めていた。

顔を赤くしたサーフィスが何か言おうとしたが、それをルキアは片手で制止させた。

「それでだ、我々は貴官たちと取り敢えずの共同戦前を作ればいいのか」

ルキアは、そう言った。

「そうだ、俺たちには共通の敵がいる。ヴェルストロスを占拠すればお互いに良い話だ。

…おそらくだが、それ以降は互いに興味ない話だろう?」

マーグは、そう言ってのけた。

実際問題、ここにいるのは戦いに能のある者が集まっていた。

そして、ルキアはその言葉に対して半ば苦笑すると片手を差し出した。

「交渉は成立だ、早くに仕留めるぞ」

ルキアは、そう言った。

その言葉に対して、マーグも右腕を差し出した。

後に、97年同盟と呼ばれる最初の三国同盟が完成を果たした。

そして、サーフィスとも握手を繰り返した。

「年下で、生意気だな…せいぜい23だろ?」

サーフィスは、賞賛と嫉妬が入り混じった表情でそう述べていた。

その言葉に対してマーグは、苦笑いを浮かべた。

「俺は27だぜ?意外と年は食ってるほうだ…」


「前方に敵影、数は4万!」

レグニスはその報告を聞いた途端に剣を鞘から抜いていた。

「臨戦体制に入れ!何としても王都に入れさせるな!」

レグニスの指令は、電光石火の速さで全軍に行き届いていた。

しかし、数からは圧倒的にこちら側が不利なのには変わらなかった。

しかし、知略を用いた戦いをするには時間がない。

そこで、レグニスは総力戦に舵を切っていた。

もはや、ヴェルストロス軍は軍としての秩序を失いつつあった。

来るべき崩壊が目前に迫り、自身たちが旗のもとで戦っていた国家は既に失われると直感していた。

それでも騎士たちは、王都に残る大切な人たちを守るために剣を取り戦うしかなかった。

そして、今自分たちの前にはかの有名なマーグ•ヴェヴァンと、ルキア•ヴァン•フリードが迫っていた。

しかし、騎士たちは負ける未来を見ない。

彼らの行先は全て、剣のみが定めていた。


「押しきれ!」

マーグ、ルキアの一声と共にブリュングラン、クーヴェカル、ライヒテーゼ混合軍とヴェルストロス軍は激突した。

互いに馬を駆り、辺り一面には土煙が立ち込めていた。そして、視界が悪い中でも騎士たちは剣を振りかざし辺り一面を流血に染めていた。

そんな惨たらしい戦局の中でも恐れない騎士たちの姿を見てレグニスは感銘した。

しかし、負けるわけにはいかなかった。

「いけ!いけ!時間を稼げ!」

レグニスは、剣を振りかざし味方を鼓舞しようと試みていた。


「レグニスらがブリュングラン、クーヴェカル、ライヒテーゼの部隊と衝突だって?」

リヴァーは思わず気が滅入りそうになっていた。

王都に肉薄された戦いは過去に数度あるものの、ここまで肉薄されることは歴史上稀に見るものだった。

まさか、陛下が亡くなって数週間でここまで世界は変わるものか…

リヴァーは世の行く末を思んじて思わずため息を吐いた。

しかし、その最中でもリヴァーは諦めるわけにはいかなかった。

フォーレイン様やマグニフィコ様が戻るまでは、何としても守り抜かなければ…

そして、リヴァーは王都にいる人々を避難させようと試みていた。

その命令を下そうとした瞬間、目の前に味方の騎士たちが立ち塞がった。

「そこを通せ」

リヴァーは、そう答えていた。

しかし、騎士たちは剣を抜いていた。

「レッドクリフ騎士長、そしてグレイル様…あなたたちの身柄を監禁する…」

騎士たちはそう言った。

「誰の差金だ?こんなことして何にもならないぞ!」

リヴァーは、説得を試みていた。

「誰かとは言えませんが…これはそのお方の大きな作戦のうちの一つなのです」

その騎士はそう答えていた。

「それに、成功させれば報酬をくれてやるとも言われました…それでは大人しくしてください」

その騎士たちは、もはや傭兵と言っても過言ではないような面構えにあった。

そうして、騎士たちは自身たちの方へと刻一刻と足を運んでいた。

敵しかいないのか…

リヴァーはそう思うしかなかった。

ヴェルストロスの運命は?

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