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ヴェルストロスの騎士  作者: Sk
第一部 帝国編
10/16

第八巻 死闘

描写がかなり、残酷なので注意してください。

マグニフィコの指令によって一挙に猛獣と化したヴェルストロスの仲間たちは一斉にフォーレインに対して牙を向いた。

そしてフォーレインは剣を仲間に振りかざした。

鮮やかな鮮血が流れると同時に、その体が痙攣したかと思うと地面に崩れ落ちる。

これが、人を殺すという感触なのか?

フォーレインはもはや誰も答えてくれる人を失った中でそう独り言を呟いていた。

そんな罪悪感には目もくれずに次々と押し寄せてくる騎影に押し寄せられてフォーレインは国境隊基地の外部である森林地帯へと向かっていった。

「絶対に逃すな、見つけたものには恩賞を賜るぞ!」

その一言で騎士たちは歓喜し喜び勇んでフォーレインの身柄を確保しようと奮戦し始めた。

フォーレインは馬を必死こいて走らせ、森の奥深くへと入り込んでいた。

今となってはどこに敵がいるかもわからない、孤軍奮闘が続いており神経を消耗していた。

初めて人を斬った感触がこの場に及んで鮮明に思い出された。国のためでもなく、人のためでもない。自分のために自分が生き残るために振りかざした一撃。

その瞬間、フォーレインは気分が悪くなり吐いた。

苦さと喉を焼くような痛みが押し寄せていてもなお、フォーレインは周りへの警戒を怠らなかった。

フォーレインにとって唯一の勝機は、王都へと近づくことである。そうすれば、マグニフィコのことを告発しこの時間はことなきを得ることになる。

だが、その突破口も敵兵(味方)によって塞がれてしまっていた。

フォーレインは目を凝らしていた。森では木々が生い茂っており、視界は良好ではなかった。

そこに勝機があるとフォーレインは踏んでいた。

そして、そこである騎士と遭遇を果たしてしまった。

その騎士が大声をあげて、居場所を伝えようとした瞬間にフォーレインは剣を取り出してその騎士の喉元に向けて一撃を放った。

しかし、その一撃はその騎士が放った一撃によって塞がれた。

「なぜ、お前たちがマグニフィコの味方をしている?こんなことをしても無駄だ。リヴァーたちに討たれるのが見えているぞ!」

しかし、その言葉には驚くべき報復で返された。

「今頃、リヴァーたちもすでに死んでいるだろうよ!」

そうして一撃を喰らわせた。

フォーレインは、バランスを崩し剣は大きく空を斬った。

「これで、終わりだ!」

騎士は勝利を宣告しフォーレインに剣を振り翳した。

その瞬間に、フォーレインは左手で剣を刺していた柄を取り出し敵の前に振りかざした。

柄を騎士の剣が食い込み行動の自由を奪った。

その隙を有効活用すべく、フォーレインはその驚いた顔面に突きを食らわせた。

剣先から花が咲いたかのような鮮血が飛び散りその騎士もまた命を失った。

フォーレインは息を整えていた。

生前、騎士の言っていた言葉に違和感を覚えていたのだった。

一体どういうことだ…?

そんな思案を深く考える間もなく、フォーレインの元に何人もの騎士たちが押し寄せてきていた。

さっきの戦いの後を駆けつけてきたのだろう。

「来い、楯突くなら俺はお前たちだろうとも斬るぞ…」

フォーレインは剣を構えていた。

三人の騎士が一斉に斬りかかっていた。

そのガラ空きの胴めがけてフォーレインは強い一撃を喰らわせた。

馬のかける速さに比例して一撃、二撃と胴に駆け抜けるようにして剣を振る。

順番に血の噴水を作り、死体となって地面に倒れる。

しかし、フォーレインもところどころで鎧が砕けちり切り傷も増えていた。

とりあえず、突っ切るしかない。

フォーレインはそう選択して、馬の手綱を引き王都の方角へと舵を切った。

森林を駆け抜ける中で細い木々たちが体に当たりさらに多くの傷跡を生み出していく。

しかし、その疾走も終わりを告げた。

本来ならば、橋がかけられていた場所には橋がかけられておらず下には15mにも及ぶ崖とその下に流れる濁流が流れていた。

「まずいな…」

フォーレインは、後退しようとして後ろを振り向いた。

しかし、その前にはマグニフィコたちがいた。

「諦めろ、フォーレイン。お前の命は俺の命令でどうにでもなる」

マグニフィコは続けた。

「お前に選択させてやる。俺に殺されるか、お前自身で死を選ぶかだ!」

マグニフィコはそういって問いた。

フォーレインは頭をフル回転していた。

このまま下手に動けば間違いなく死ぬ。それは全身がそう答えていた。

そして、四人も斬ったことで体力の消耗も激しい。

マグニフィコを、渾身の一撃で怯ませて逃げるしかない。

そうして、フォーレインは答えた。

「マグニフィコ、最後くらいは俺にやらせてくれ」

フォーレインは演技で悲しみを表現して見ていた。

そして、剣を首に当てようとした瞬間に剣筋を変えた。

フォーレインは一撃をマグニフィコに向かって勢いよく振りかざしていた。

これでここから脱出できる!

しかし。それは杞憂に終わった。

マグニフィコが笑みを浮かべた。

「リヴァーの訓練があるとはいえ、まだ俺ほどではないな」

そうして、マグニフィコが剣を引きその渾身の一筋を跳ね返した。

そして、剣の柄をもって勢いよくフォーレインの横腹に目掛けて勢いよく振りかざした。

鎧とぶつかる鈍い音が響き、フォーレインは体を歪ませた。

腹に激痛が入り体のバランスが効かなくなって、落馬した。

フォーレインは痛む腹を抑えながら立ち上がった。

そして、マグニフィコもまた馬から飛び降り剣を引いた。

「最後のチャンスだ死ぬか、殺されるか!」

マグニフィコは怒声を浴びせた。

「俺はあなたを倒す!」

その瞬間、フォーレインは最初の一歩を強く踏み締めて相手に向かった。

そして、互いの剣がぶつかり合った。

たがいの視線が絡み合い、火花が散った。

そして、何合にもわたって斬り合った。

その構図はフォーレインがひたすら、マグニフィコの斬撃を受けるというものだった。

そして、10数合目でフォーレインの右肩にマグニフィコの剣先が食い込んだ。

フォーレインは声にならない激痛の叫びを挙げた。

そして、右手から剣がこぼれ落ちた。

「終わりだな」

マグニフィコは、勝利を確信した。

もう右手は使い物にならない…

フォーレインは敗北を悟った。

しかし、フォーレインはその敗北を一筋の希望で上書きした。

死ねない、俺はまだ死なない。

そんな謎の確信と共に、フォーレインは左手で剣を握った。

左手のため扱いにかかったものの、ないよりはマシだった。

「まだだ!」

フォーレインは左手で剣を大きく振りかざした。

咄嗟の行動で受け身を取り損ねたマグニフィコは寸前で回避したものの、顔面の鼻筋に大きな切り傷をつけられた。

フォーレインは、その一撃に納得がいっていなかった。

しかし、フォーレインは行動不能にすべく足に向けて振り下ろした。

殺して仕舞えば、真相は闇に消えてしまう。

しかし、フォーレインは攻撃できなかった。

マグニフィコが血まみれの顔でフォーレインの目の前に立った。

そして、感情が入りすぎた重い一撃を何度かフォーレインは食らわせられていた。

その中でもフォーレインは反撃のタイミングを窺っていた。

そして、ガラ空きになった瞬間に、剣を振りかざした。

しかし、その瞬間マグニフィコは横に跳んだ。

しまった、とフォーレインは言うが遅かった。

マグニフィコの重い一撃が振り翳された。

フォーレインは、なんとか致命傷を外すことには成功した。

だが、フォーレインは左手にとてつもないほどの激痛が走ることを感じていた。

フォーレインの左上腕下部から下が斬られていた。

フォーレインはもはやマグニフィコへの意識を集中させていなかった。

燃え上がるほどの激痛に身を委ねていた。

突如として切断された左腕を動かそうとすると、斬られた時に感じたのとは違う激痛が走り苦しげな表情を浮かべていた。

まずい、この状況はまずい。

フォーレインは左腕を中心に全身が激痛の波が押し寄せている中で、斬られた左腕を発見した。

まだ、腕を失っただけだ。まだ、俺はまだ負けてない。

そして、フォーレインは立ち上がり蹴りを喰らわせようとした。

しかし、マグニフィコは容赦なくフォーレインの右太ももに剣を突き刺した。

更なる激痛に身を捩らせる中でマグニフィコは首を刎ねようとした。

しかし、フォーレインは最後の力でそれを跳ね除けた。

右頬に深い傷を浴びせられ、フォーレインは視界が真っ赤に染まっていた。

そしてその攻撃を避けた代償として、平衡感覚を失ってしまった。

しまった…

脚を踏み外し、フォーレインは崖の底へと体勢を崩した。

「マグニフィコ!」

フォーレインは最後にそう叫んだ。

そして、崖の下へ重力に逆らうことはできずに落下を開始した。

俺は、俺は、こんなところでこんな場所で死ぬのか?

俺は…

そして、フォーレインは濁流へと着水を果たした。

水が大きく飛沫をあげる音が聞こえた。

「死んだか…フォーレインよ」

マグニフィコは、傷つけられた鼻筋を抑えながらそう呟いた。

これで、俺の作戦は敢行される。俺はこの国の皇帝になってやる!

そうした暗い喜びがマグニフィコに降り注ぐのと同時に心の奥底では、あるはずのない後悔がまだ渦巻いていた。

~1197年、11月22日。アーリの死から1週間経ったのちに、フォーレインもまた帰らぬ人となった。

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