第一巻 動乱の時代
壮大なる、架空歴史小説が始まる
西暦1197年。ノーゼス大陸歴320年。
既に、この大陸を見つけた者たちは死に過去は既に闇の彼方に葬られた。ただ人々にあるのは、目の前にある恐怖と騒乱による不安だけであった。
人々は、産地へと送り出される恐怖と戦いによって変わる居住環境の変化のみが、現実感を紡いでいた。
過去も見えないかといって未来も見えない。
ただ人々にあるのは生き残るための、今だけであった。
西暦1197年、11月。ノーゼス大陸全土は冬の兆しを見せており、大陸に雪が降り積もっていた。
その雪原を大軍が進んでいた。
寒き吹雪の最中で、2000名にも及ぶ人々が大移動を開始していた。
しかし、それは難民ではなかった。
銀や黒といった鎧で身を包み、腰には長い剣を持っていた。
鎧から、感じる馬の荒い息と振動がすこしでも緊張感を和らげていた。
そしてまた風が吹き、大軍の旗がたなびいた。
赤い旗の真ん中に、剣と盾が描かれている旗だった。
その大軍は、ヴェルストロスと呼ばれる5国家のうちの一つの国である。そして、最も強大な勢力を持つ国でもあった。
ヴェルストロス軍の人頭に一際目立つ男がいた。
全身は、紺一色の鎧を見に纏い口元には豪快な髭が生えていた。そして、右頬には痛々しい剣槍があった。
それはヴェルストロス第8代皇帝である、アーリ•ヴァン•ジーリアスであった。
歴戦の騎士として知られる、彼は戦いにおいては比類のない存在となっており弱冠40にも満たないにもかかわらず一際異彩を放つ存在であった。
そんな華やかな戦いの天才からは想像できないほど、私生活では溺愛っぷりが出ている。
最愛の妻に10年前に先立たれても、なお皇帝としての権力をより一層に行使し優れた手腕を見せた。
そして、彼には二人の息子がいる。
自身譲りである青髪と、母親譲りのエメラルドの瞳を持つ、兄フォーレイン。
そして母親譲りの金髪と、自身譲りのサファイアの瞳を持つ、弟グレイル。
そんな二人に対して、アーリは溺愛した。
アーリは能力の高さと優れた人格で、民衆から絶大な信頼を得ていた。
アーリは馬に乗り来るべき戦いへの、心構えをしていた。
今回の出兵は北を占める大国である、ブリュングランとの戦いであった。
5国家のうち、北部地方を占めるブリュングラン、東部を占めるヴェルストロス、西部を占めるトリニティ、南部を占めるトリニティ、そして、中央部を占めるライヒテーゼという構図となっている。
勢力比は、一世紀近くの間変化の兆しを 見せることはなく依然と、ヴェルストロス26、ブリュングラン24の半数をこの二代国家が占めており、クーヴェカル19、トリニティ16、ライヒテーゼ15というものであった。人々はこれを普遍と思っていた…。
ブリュングラン側もまた戦いの準備をしていた。騎士たちは、配置と戦略を考え、武器の調整を丁寧に確認していた。
その布陣の間の、ブリュングラン司令部では来るべき対戦相手に震えおののいていた。
「対戦相手が、ヴェルストロスというのはまだ許容範囲だ。だが、その大将が問題だ」
司令部においての総司令官を務める老騎士である、ラフット騎士将軍は呟いた。
「戦いにおける、生ける伝説…ジーリアス…」
ラフットの参謀でもある、ナークレー騎士長もまた絶望の声をあげていた。
5国家に共通している点として、階級が例として挙げられる。
各国の皇帝を頂点として、騎士大将軍、騎士将軍、騎士大長、騎士長、騎兵大長、騎兵長、騎員大長、騎員長の八つの階級に別れている…。
辺りが静かになる中で、ただ一人の騎士だけがせっせと戦略案を働かせていた。
この場には不釣り合いなほどに若い騎士である。
褐色の髪色を持つ騎士であり、瞳は茶色だった。
名を、マーグ•ヴェヴァン。
今年で27になる若者と呼ばれる年齢である。
日常にあれば、それは血色のいい少し変わった若者という評価に落ち着くだろう。
しかし、マーグは年齢に似合わず階級は騎士長にまであった。
本来ならば、40代で手に入る称号であるもののそれをマーグは26になるまでに得ていた。
もちろん、それは親のコネではない。
マーグは貧乏貴族出身であり、この世界における貴族の称号である”ヴァン”さえも売り払っていた。
そんな最中で貴族学校には通えるはずもなく安い学費で行ける騎士教育校に入学した。
騎士になりたいという意見が大半で入学する新入生の方が遥かに多かったために、金を稼ぐためというマーグは少し浮いた存在であった。
しかし、そんな学校生活でも少ないながらも友人はでき、それなりの青春を送った。
その後、騎士教育校を20歳で卒業したのちはぼちぼち活躍した。
そして、運にも恵まれた。
上官が次々に戦死していく中でも自身は、生き残っていた。
そのため、上層部からは繰り上がり当選の若造という評価を得ていた。
「さんざん表面上は立派な発言して、戦地へ向かったと思いきや、実情はこうか…俺の悪運もここで終わりかな…?」
マーグは小さな声で悪態をつき、ペンをクルクル回した。
「ヴェヴァン騎士長、軽率な行動は慎め!事態を深刻に見ていないのか!?」
ラフットは、禿頭を真っ赤に染めてマーグに向かって怒鳴り散らしていた。
「そんなことはありませんよ、大将軍。俺もこう見えてちゃんとやってますよ」
マーグは丁寧に言ったつもりであった。
しかし、それは一般社会では極めて態度が悪く見える代物だった。
「ヴェヴァン騎士長、君は騎士軍の状態を見てこい…うんと長くな…」
ラフットは、そう答えた。
俺もよくもまぁ、こんなに嫌われたもんだ。
マーグは、そんなことは流石に呟かず、そっと司令部から退出した。
「全く何なんだ、あの若造は…まるで考えていることがわからん…」
ラフットは、思わず悪態をついた。
それを察して、ナークレーは苦笑いした。
「ラフッド騎士大将軍、たかが一参謀に気を取られてしまっては戦いに支障を起こしかねません…」
ナークレーはそう諭した。
そうして、司令部は来るべき戦いの準備を始めたのだった…。
マーグは追い出され、辺りを視察していた。
マーグに気づいた騎士たちは、マーグに対して右手を左肩に置く敬礼で答えていた。
やれやれ、こんなに偉くなってしまった…。
マーグはそう苦笑した。
「ヴェヴァン騎士長、お話が…」
すると、後ろから聞き馴染みのある声がした。
振り返ると、そこには親友の姿があった。
「レイか、いやディアム騎兵長…」
とりあえずマーグは型通り的な会話を交わし、あまり目の届かない場所へと移動した。
つくやいなや、レイはマーグに対してつぶやいた。
「お前、良いのか?こんなところうろちょろしてさ?」
レイは、二人の時だけではタメ口で話している。それはマーグが求めたものだった。
「いやいや、俺がいても目の上のたんこぶ扱いにされるのがオチだよ…」
マーグは、思わず苦笑した。
レイもまた、苦笑したが急に深刻な顔つきになった。
「ところでだ、マーグ。この戦い、勝てると思うか…?」
レイはそう質問していた。
「どう勝てるかとは言っても、こちらの軍は遠方の軍だよ。あちら側は2000騎、俺たちはどれだけ頑張っても1200騎ほどしかない。用兵学的には、俺たちの負ける可能性の方が高い」
マーグは自身の考えを述べた。
そして、マーグは続けた。
「今回の舞台は、グレゴット草原。そして、俺たちの総本山は山を後方に備えている。後ろからの攻撃には心配する必要性は少ないが、押さえ込まれると逃げ道がなくなるという欠点もある。
そこで、上層部の考え方的には1200騎を総突入させて、突破口を開き後方からの殲滅を目論んでいる」
マーグは言った。
「まぁ、いい作戦なんじゃないのか?」
レイはそうつげた。
「まぁ、そう思うのも無理はない。確かに、中央突破を図れば敵軍は指揮系統が混乱することになるだろう。だが、この作戦が成功しなかった場合、本隊は左右からの集中攻撃によって全滅しかねないという欠点も多く含んでいることになるんだよ」
マーグは、そう答えた。
「流石だな、マーグほどの用兵家がうまく能力を扱えるなら、もっといい感じの作戦案を出せただろう?」
レイはそう言った。
「確証はないけどな、まぁ俺はできる限りのことはするつもりだ」
マーグはそう答えた。
「まぁ、お互いに死ぬことはないようにな」
レイは答えた。
マーグは思わず微笑んだ。
「安心しろ、俺の悪運は人並み以上に強いからな」
マーグはそう口に出していた。
そうして、二人は別れた。
ヴェルストロスの王都であるカサターンにある宮殿、ノイエ•リーベルダスでは二人の少年が父親の安否を,心配していた。
どちらの少年も似た顔立ちと精悍な顔つきをしていたものの、瞳と髪の色は違った。
「兄上、父上は無事に帰ってくるでしょうか?」
二人のうち少し幼い金髪の水色の瞳を持った少年が、青髪と緑の瞳をもつ少年に向かって質問していた。
「案ずるな、グレイル。父上はきっと戻ってこられる。父上は歴戦の騎士だ」
少年はグレイルに対してそう諭していた。
この少年こそが、フォーレインである。
「一回、外にでも出てみるか」
フォーレインはそう言って二人で、広いベランダへと足を運んだ。
風が強いために二人の青髪と金髪が、なびいた。
すると、後ろに一人の騎士が立っていた。
黒い鎧を纏う、精悍な男だった。
「リヴァーか…」
フォーレインはそう答えていた。
「フォーレイン様、グレイル様、中に入りましょう。今晩は冷えます」
リヴァーはそう諭した。
リヴァー•ヴァン•レッドクリフは今年で24歳。
階級は騎兵大長である。
今、出撃している東軍の他に西軍、南軍、北軍があるがリヴァーは東軍の副隊長である。
本来ならば、アーリと共に出陣するはずであったが、アーリの命により待機している。
「リヴァー、父上は無事に帰ってくると思うか?」
グレイルが、思わず答えていた。
「心配する必要はありません。皇帝陛下は強いお方です」
リヴァーは心からそう答えた。
自身も何度もこの身を救われてきたために、リヴァーは若い兄弟たちにそう答えていた。
その言葉を聞いたグレイルは、ひとまずの落ち着きを取り戻していた。
フォーレインもまた、少しは安心していた。
二人を連れてリヴァーは、宮廷の中へと入っていった。
…西暦1197年11月。後に変革の月と、呼ばれるようになることをまだ彼らは知らない…
トリビア
フォーレインとグレイルの性格を言うならば、感情家と人格者。




