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十四、 騎士





 祭りの余韻もすっかり冷めた、次の日の夜。


 教会の奥の部屋には、おれとシノ、それに修道騎士の三人だけがいた。

「Meum nomen est Carius.」

「『私の名前はカリウス』」

 修道騎士──カリウスが大陸の言葉で話し、シノが島の言葉に訳す。 冷たい石壁に反響する二人の低い声は、まるで一つの旋律のように響いた。


 最初、カリウスはシノの同席を快く思っていなかったようだ。だが、自分の通訳よりも彼の方がはるかに流暢だと知ると、しぶしぶ認めた。

 カリウスの視線は壁に掛けられた一枚の大きな絵画に注がれていた。そこには大海蛇アズラオスの姿が描かれている。荒れ狂う波を従えるその絵は、部屋の空気まで張りつめさせていた。


「『正教では、大海蛇アズラオスは海を荒らし、人々を苦しめる邪神とされています。主神カルスに討たれ、改心してそのしもべとなった──と』」


 邪神とは宗教的対立の産物。信仰の絶対性を守り、布教と支配を正当化するために、この地で崇められていた神の姿は歪められてしまったのだ──と彼は語った。

「『しかし、この島では違う。アズラオスへの信仰は今も根強く残っている。私はそのことに深く感動しました』」

 心底嬉しそうなカリウスの様子に、シノと目を合わせる。

(このまま宗教談義に突入するのか……?)

 不安に思ったそのとき、彼の次の言葉を聞いたシノの表情が固まった。促されるまま、ようやく口を開く。


「『……大海蛇アズラオスは、実在します。そして──』」

 一度言葉を切り、シノがこちらを見た。


「『そして、あなたのお父様です』」


「…………は?」


 石造りの室内に、重い沈黙が落ちた。

「おれの、父さん……?」

 口から漏れた言葉は信じはられないほど頼りなかった。しかし、まるで言葉が通じたかのように、カリウスは力強く頷いた。

「……『はい。我が主アズラオス。その血を、あなたは確かに受け継いでおられるのです』」

「ええっと……ちょっと、まって。ちょっと待ってください」

 たまらず、手を振って言葉を遮った。

「その……急にそんなこと言われても……。ごめんなさい。ちょっと、頭が追いつかない……です」 

 おれの言ったことを、シノが通訳する。カリウスは大きく頷いた。


「『無理もありません。本来ならば御子様は今頃、ドルメキアで、何不自由なく豊かな生活を送っていたはずでした』。……ドルメキア? 聞いたことがあるな。確か、二十年くらい前に他国から侵略されて、崩壊した国じゃなかったか?」

 翻訳しながら、シノが首を傾げる。船乗り達とも交流のあるシノは、大陸の歴史まで詳しいようだ。

「そ、そうなの……?」

 彼の博識さに舌を巻いていると、カリウスがおれに向かって続けて何か言った。後を追うように、シノが島の言葉に訳してくれた、の、だが……。


「『我が一族に伝わる古き伝承をお話ししましょう。遥けき昔まだ国が形をなしていなかった頃、悠久の潮より御身を現された主は──』」

「……?!」

 突如として流れ出す難解な言葉の数々に、おれの目は点になる。唖然とする俺を置き去りに、シノの声は次第に芝居がかった調子へと変わっていった。

「『天地を巡りて御遊歩の折、困窮せる農夫と邂逅あそばされた。農夫は天より授かりし兆しを覚え尊き御方へ天地の恩寵を凝縮せし小さき芋を一つ、御前に献上あそばし──……』」


「し、シノ……!」


 たまらず彼の袖をつかみ、泣きそうな気分で訴える。

「待って、ごめん……何言ってるのか、全然わからないよ……」

 シノは苦笑しながら肩をすくめた。

「ハルキのせいじゃないよ。こいつがわざともったいぶった言い方をしてるだけだから」

 慰めるシノの言葉に、島言葉は通じないはずの修道騎士の片眉がピクリと震えた。

「……Zhar vo-kat?」(……何か言ったか?)

「Nesh.」(何も)

 シノは軽く首を振ると、俺にむかって小声で訳してくれた。

「えっと、簡単に言うとね……はるか昔にアズラオスが陸を散歩してて、腹減ったとき農夫に出会って芋をもらった。で、後からそれが農夫の一日分の食事だったってことを知って感動して、お礼にその場所に湖を作ったんだってさ」

「…………それで?」

「それがドルメキア国の始まりなんだって」

 重々しい伝承と、シノのあっさりしたまとめの対比に、思わず頭がくらくらした。


 その後も、シノがかみ砕いて伝えてくれた内容は、こうであった。


 アズラオスの生み出した水源によって荒野は豊かな農作地へと姿を変え、人々が集い、やがて国が生まれた。王となる者も現れ、民はその地に根を下ろした。 アズラオスは人の姿をとり、世に混じって長き時を過ごした。人間という存在に、強い関心を抱いていたからだ。

 彼は他国との戦に加わることはなかったが、自らの地が侵されるときには容赦なく力を振るい、侵略者を退けた。その勇威ゆえに人々は彼を「軍神」と呼び、王は爵位を授けて国の守護者とした。民は彼を敬い、慕い、崇めた。


 やがて時は流れ、北方より人の生み出した宗教「正教」がその地にも及んだ。カルスを主神とするその宗教は、各地の神々を邪神として取り込みながら勢力を広げていった。アズラオスの神話も例外ではなく、「海を荒らす悪神がカルス神に討たれ、改心して僕となった」と書き換えられた。だが彼自身は、そんな改竄を意に介さなかった。

 恐れたのは王と最高司祭だった。正教に帰依した彼らは、アズラオスが民衆に持つ影響力を危険視し、やがて彼を支配しようと目論んだ。夜ごと、権力者の思惑を背負った女たちが彼の屋敷を訪れ、誘惑を試みた。だが誰ひとりとして彼の心を動かすことはできなかった。

 ただ一人──身分卑しき使用人を除いては。

 そして幾年かの後、彼女が身ごもったことが明らかとなった。



「『彼女の名は、マリエラ。あなたの、お母様です』」

「……マリエラ……」

 その名を声に出して呼んでみる。不思議な感覚だった。島に流れ着き、すぐに命を落としたという母の名前──。

「『御子様と奥方様が彼の地に流されることになった原因も、彼らの企みによるものだったのです……』」


 異種と人の間に子が生まれることなど、本来ならばありえぬはずだった。だが、鱗のあるその子の姿に、人々は疑うことなくアズラオスの血を見た。たとえ鱗がなくとも、彼がマリエラを深く愛していた事実こそが、その確信を支えていた。

 王と最高司祭は、その子を好機と見た。 彼らはアズラオスの不在を狙い、母子を奪い去った。 そして「返す」と偽りながら、海を支配する宝具《涸玉の鎖》を彼の身に掛け、自由を縛り上げた。


 その頃、マリエラは大陸から遠く離れた船上にいた。寄港した島で、この地ではアズラオスを厚く信仰していることを知り、彼女は逃げた。必死に、藁をも掴む思いで──そして、自らの命を賭して、追っ手から子を逃がすことに成功した。


 一方で、妻子を人質にしたはずの王たちが返す気を持たぬことを悟ったアズラオスは、怒りに荒れ狂った。鎖に縛られたまま、王家と最高司祭を血祭りに上げると、必死に妻の痕跡を辿った。彼女へ渡した装身具には、自らの鱗が使われていた。居場所など、すぐに分かるはずだった。だが見つかったのは──深い海の底に沈んだ、その欠片だけだった。


「『奥方様の決死の逃走は、追っ手を退けたと同時に、皮肉にも、救おうとなさった主の御手からも、こぼれ落ちてしまったのです……』」



 呆然とするおれの前で、カリウスが懐からひとつの物を取り出す。

 「……『これが、主が海の底から拾い上げられた守飾り。奥方様が、肌身離さず身につけておられたものです』」

 差し出された首飾りを受け取った瞬間、ひやりとした冷たさが指先を走り、胸の奥がざわりと震えた。

 透明な鱗片のような小さな欠片が二つ。光に透かすと、そこに微かな文字が刻まれているのが見えた。


「……Mariela / Marion……」

 シノが読み上げた名に、カリウスが重々しく言葉を添える。

「Marion. Esh’val dena tharanom.」

「……何て、言ってるの?」

「『マリオン。御子様のお名前です』」

「マリオン……」

 口にしてみる。自分の声なのに、遠い誰かが呼んでいるような響きがした。知らなかったはずの名が、胸の奥に不思議な温かさをともしていく。


 ああ──自分にも、誰かがつけてくれた名前があったんだ。



  カリウスが俺に向かって言葉を続ける。だが、シノがなかなか訳さず黙り込んでいるのを見て、急かすようにその肩を小突いた。ようやく口を開いたものの、どこか呆けたような顔をしている。気になってしまい、内容がなかなか頭に入ってこなかった。


 裏切りによって人間に失望したアズラオスは、深い海へと身を隠してしまった。けれど、彼を慕う人々は、妻子の行方を諦めはしなかった。

「『私は正教の修道騎士という立場を利用し、世界を巡って参りました。しかし、真実において主はアズラオス様ただお一人。正教がその御名を利用したように、我々もまた正教を利用して、御子様の生存を信じ、探し続けてきたのです』」

 陶酔したような光を宿す瞳で告げられるが、正直、戸惑いしかなかった。実感がなかったのもある。なぜそこまでして、彼がその身を捧げてきたのか……理解できなかった。

「どうして……? 二十年も前のことなら、あなた自身、まだ子供だったはずでしょ。おれが生きているかもわからなかったのに。……どうしてそんなことに、人生を賭けられるんですか?」

 シノの通訳を通して意図を理解すると、カリウスは胸を張って誇らしげに頷いた。

「『我が一族は、初めて主に救われた農夫の末裔です。いかなる時もアズラオス様にのみ忠誠を誓い、代々そのお側に仕えて参りました』」

 そのまっすぐな視線には、曇りがなく、ひと欠片の嘘もないことが、わかってしまった。

「『主が海へ去られた後、一族は散り散りになりました。中には私のように正教へ鞍替えした者も多い。ですが――口に出さずとも皆の心は一つ。主のためであれば、どのような偽りも誓いも、いくらでも背負いましょう』」

 頭がくらくらしてきた。いっぺんに詰め込まれたせいか、思考が追いつかない。

「大丈夫か、ハルキ……」

 顔を覆ってうずくまった背を、シノがそっとさすってくれる。


「『アウレンの島で聞きました。人の足では近づけぬ危険な地に、御子様が踏み入り、無事に戻られたと──。人々を驚愕させるその威厳こそまさに、主の血を引く証』」

 それは、幼いころ薬草採りのおじさんに頼まれて、山に入ったときの話だろう。ほぼ無傷で下山したおれを見て、おじさんは「てっきり死んだと思ってた」と言ったから。

 その件について、シノは初耳だったようで、「……何のこと?」と首を傾げた。おれは「うん、まぁ……昔、ちょっと」とだけ答えてごまかした。

「じゃあ……異種が、おれを避けるような気がしてたのも……気のせいじゃなかった? 血のせいだったの?」

「『異種と一口に申すのも畏れ多いほど、我が主の力は強大。故に本能で察するのでしょう』」

「そんな……」

 思い返せば、人魚が怯えるように去ったことも、大蛇の不可解な行動も……理由が腑に落ちた。この血を恐れたから。

 でも、そうなると……。


「おれが……アズラオスの子……?」


 信じがたい現実が胸にのしかかる。神話の存在が、父親だなんて──。

「ええ……? ええ──?」

 頭を抱えて呻いたそのとき、カリウスが膝を折った。

 びっくりして固まるおれとシノの前で、騎士は朗々と宣言する。


「Filion Mareth, dom Asrath.

Per gladius, per sangra, per anima—vowen te guardare.

Umbra tua, scutum tuum—ego ero.」

(海の底に眠る主の御子よ。剣と、血と、魂をもって、あなたを守ると誓う。これより私はあなたの影にして盾となろう)


 その言葉に合わせ、彼は剣を両手で高々と掲げた。張りつめた空気に胸をつかれ、思わず息を呑む。

「……な、なに。なんて言ったの? 今、多分すごく大事なこと言ったよね……?」

 おろおろとシノを見上げる。彼は不機嫌そうに視線をそらし、ぶっきらぼうに言った。

「おまえを守るってよ」

「え、それだけ? もっと長かったような……?」

 でも、シノがそう言うなら……と納得しかける。

 修道騎士が顔をわずかに上げると、(ちゃんと訳せ!)と言いたげにシノを睨んでいた。





   ***






 シノと並んで、我が家の扉をくぐる。帰り道は、二人とも一言も発さなかった。


 油皿に火をともすシノの背を見ながら、深く息を吐く。頭にこびりついて離れないのは、別れ際に告げられた修道騎士カリウスの言葉だった。


「『我が主は、御子様の生存を大いに喜んでおられます』」

「えっ……えっ⁈ すごい! カリウスさんって、いまもアズラオスと会話できるんですか⁈」

「『我が主は、残された我々のために、御声を伝える術を残してくださいました。秘伝の貝笛で呼びかければ、御使いが現れ、螺鈿の便りを運んでくださいます』……」

 翻訳しながら、シノも驚いた顔をしている。

「『さらに、御子様がお戻りにならば──再び地上に立ち、共に暮らしたいと。御子様が豊かに暮らせる国を、もう一度築いてもよい、と……』」

「は……? え? く、国を……⁈」

「……『ドルメキア再建は、我が一族の悲願でもあります。なにとぞ、一日も早いご帰還をお待ち申し上げております。』」

 国を……再建?

 まるでおとぎ話を聞いているようだ。あまりに信じがたい言葉に、胸の奥がざわついた。



「シノ」

 無言で自室に入っていこうとした背中に声をかけた。

「なに……?」

「ちょっとだけ、話せる?」

 長椅子に腰をおろしたおれは、隣をぽんぽんと叩く。シノはゆっくりと戻ってくると、腰を下ろした。


「……なんだか、……急にいろいろと聞かされたから、疲れちゃったね」

「そうだな」

「アズラオスが父親とか。……正直まだ冗談にしか思えないんだけど」

「うん」

「ねぇ、シノ……」

 シノはじっと前を向いたままだ。おれの喉が緊張で、ごくりと音を立てた。

「もし…おれがこの島をでて、アズラオスの元にいくって行ったら……一緒に来てくれる?」

「…………」

「一生のお願いって言ったら、……来てくれる?」

 シノの睫毛が揺れる。言葉にならない葛藤が、沈黙ににじんだ。長い間をおいて、彼は低く答えた。


「……行けない」


 押しつぶされるような声だった。

「この島で……やりたいことがあるから」

掠れる声と震える息が、彼の苦しさを表しているようだった。

「最初は、ハルキが生きやすい街になればと思って、それだけのために教会で活動を始めた。でも……いつのまにかそれだけじゃなくなってた。字を覚えた子は契約書を読めるようになったし、計算を覚えた子は商人にだまされなくなった。……俺は大したことはしてない。でも、……少しずつ何かが変わってる気がするんだ」


 初めて聞かされた真実に、胸が震える。教育を受けられなかった子供たちが、生きる力を手に入れている。無知が搾取に直結することを、おれは痛いほど知っているから。

「……シノは、立派だね」

 そう言うと、シノは何かを堪えるような目で見つめ返した。

「アズラオスがおまえを守るっていうなら……きっともうこの先、ハルキが辛い思いをすることはないんだろうな」

 少年の頃のように、くしゃっと顔をしかめて笑う。

「よかったな。……本当に」

 そのとき気がついた。

 シノは誰からも好かれるくらい魅力的で、大陸の言葉もすぐに覚えてしまうくらい知的で、いつもおれの前に立って守ろうとしてくれた。そんな、彼の頼もしい背中ばかり見ていたから……。

本当は、こんなにも年相応に……頼りなくて、幼かったんだと。

「……シノ」

「うん?」


「……いままでずっと、おれを守ろうとしてくれて……ありがとう」


 そう言うと、シノは向こうを向いたまま、腕を伸ばしておれの肩を抱き寄せた。

「俺の方こそ。……この島まで一緒にきてくれて……今まで、一緒に暮らしてくれて、ありがとな」

 幼い日のアウレンでの記憶がよみがえる。笑い合って過ごした、懐かしいあの頃のように。


 急に、シノが明るい声を出した。

「すごいな、ハルキ。親父が国なんて作ったら、お前、王子様じゃん。これからは、めちゃくちゃ豪華な暮らしが出来るぞ」

「毎日、柔らかいパンを食べたり?」

「そうだよ。金銀財宝に囲まれて……」

 弾むようだったシノの口調が、ふいに潜められた。

「でも、もし、アズラオスが優しい父親じゃなかったら……そのときは、またここに戻ってくればいいよ」

 こんな時にも心配を忘れないシノに、笑いがこぼれた。





   ***




 翌日は雲ひとつない快晴だった。蒼く凪いだ海を背に、修道騎士カリウスが岬に立っていた。その隣には、彼と共に旅をしてきた通訳が並んでいる。

「おはようございます、マリオン様」

 恭しく頭を下げながら、おれをそう呼んだ。

 今日、シノは通訳としてではなく、ただの友人としてこの場に立っている。

 街の宿屋に泊まっている彼らに、『伝えたいことがある』と伝言を送ったところ、二人はすぐに会いに来てくれた。その顔は輝き、おれがまだ何も言わないうちから、答えを確信しているようだった。

「それで、いつ戻られますか?」

 そう問われて、思わず苦笑が漏れた。

「……その前に、アズラオスとどうやって連絡をとっているのか、教えてもらえますか?」

 通訳を介して伝えると、カリウスは懐から硬貨ほどの大きさの貝殻を取り出した。

「これ、海辺で吹く。すると、使者が来る」

「使者……?」

「我が主に仕えるもの。サメ、魚、亀……いろいろ」

 通訳の言葉に納得して、深く頷いた。

「なら、使者に伝えてください。──おれは、この島に残りたいって」


 通訳があんぐりと口を開く。シノも、目を見開いて固まっていた。カリウスだけが首を傾げ、訝しげに問い返す。小突かれた通訳は慌てて言葉をつっかえながら告げた。

「わ、わたしが聞き間違えた? もう一度、なんて……?」

「おれ、この島に残りたいです」

もう一度、はっきりと告げる。その瞬間、通訳の顔がこわばり、カリウスにも意思が伝わったようだった。

「なぜ? 主、アズラオス、まだ信じられない?」

「いいえ。……アズラオスが実在していて、おれの父親だという話は、信じたいと思います。でもそれとは別に……おれは、この島にいたいんです」

 申し訳なさそうに頭を下げると、カリウスも通訳も、そしてシノまでが「どうして?」と声を揃えた。

「どうしてだ、ハルキ。アズラオスのもとへ行けば、もう馬鹿な奴らから陰口を叩かれることも、蔑まれることもないんだぞ?」

「この島ではもうそんなことされないよ。……シノのおかげで」

「それでも……、贅沢な暮らしができる。危険な仕事をしなくても済むんだ」

「おれ、薬草採りをやめるつもりはないよ」

 思わぬ答えに、シノが息をのむ。

「シノはこの島でやりたいことがあるって言ってたよね。同じように、おれにも、この島でやりたいことがあるんだ。だって……おれは異種を寄せつけない。そんなすごい薬草採り、おれの他にはいないでしょ?」

 シノは言葉を失い、ただじっとおれを見つめる。その代わりに通訳が慌てて声をあげた。

「マリオン様……しかし、それでは我らの悲願が……!」

「アズラオスに国を再建してほしいんですよね。でも、その国に必要とされているのは、おれ自身じゃない。だから、……説得を手伝います」

「マ、マリオン様……!」

「それと、おれの名前はハルキです。今ではみんながそう呼んでくれるから」

 にっこりと笑って伝えると、通訳は慌てて身振り手振りを交えながら、カリウスに伝えた。その横で、シノはただ無言のまま、おれの顔を見つめ続けている。


 通訳と騎士は数回やりとりしたあと、騎士がこちらを向いて何かを言った。シノが通訳してくれる。

「『この地で暮らすというお気持ちに、変わりはありませんか?』。 ……ハルキ、本当にいいのか……?」

 おれは笑って、一つ頼みを加えた。

「うん。おれはこの島にいる。でも、お父さんに一度くらいは会ってみたいからさ。『いつか会いに来てね』……って伝えて、って言ってくれる?」

 シノはおれの言ったことを、そのまま伝えてくれたらしい。カリウスが目を丸くする。


 その顔に、二人して吹き出してしまった。






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