9 オークとの戦闘
侵入者についてモク爺に聞いてみた。
「あれはオークですな。高い身体能力と戦闘技術を持つモンスターです」
モク爺の発言を聞いてマップに映ったオークをよく見てみた。
筋骨隆々のデカい肉体に様々な種類の革を繋ぎ重ねた軽装備を着て複数のベルトには人間やらモンスターやらの頭骨と武器をぶら下げていた。
「野生?」
「近くのダンジョンから来たのでしょう」
魔王の手下ってわけか。
「ダークウォーカーとどっちが強い?」
「残念ながらオークでしょう」
それは不味いな。
今ダークウォーカー達が装備を漁りに地上へ出てしまっている。
殺されては配下にした労力とDPが勿体ない。
またモク爺に頼る他ないな。
今回はDPも無いからオークを配下にすることも出来ないし。
でもただ殺すだけってのは勿体ない。
俺には他の魔王達の情報が一切無いわけだから、より効率的にDPを稼ぐ方法とかライバルのルーキー情報を聞き出しても良いのかもしれない。
球とモク爺はそこまで詳しくないからな。
「オークダンジョンの位置はわかる?」
「有名な魔王ならば幾つか知っているのですがこのオーク共の魔王については存じ上げませんな」
球に聞いても情報は無いと言われた。
そこまで強い魔王じゃないってことかもな。
「オークって喋れる?」
「はい、オークは知性の高いモンスターです」
捕まえて場所を聞くか。
いや口を割らなかったら面倒だぞ。
「わざと1体だけ生かして逃がそう。逃げた先のダンジョンで魔王を無力化して連れて来てくれ」
「畏まりました」
「もし最後の1体が捨て身で突っ込んで来たら捕らえてダンジョンの場所を聞いてくれ」
モク爺は頷くと宙に浮き、高速で飛行してコアルームから出て行った。
俺はモク爺を見送ると球のホログラムを操作してマップを眺める。
ポツンと1人コアルームで留守番する俺。
何かいつも俺だけコアルームで待機してるの勿体ないよな。
「戦闘スキル無いって言われたけど努力したら何か習得出来たりするんじゃない?」
「マスターにはマナが無いのでオリジナルのユニークスキル以外習得も使用も出来ません」
俺マナ無いのかよ。
「全ての存在にマナがあるって言ってたじゃん、何で俺だけ無いの?」
「マスターは特別な存在だからです」
この世界で闇は特別なのかな。
「他に闇系のモンスターとか居ないわけ?」
「ございません。マースの歴史上において闇の魔王はマスターただ1人です。よって闇のモンスターも誕生することはありませんでした」
そう言われてもそうなんだって感じなのだが闇が存在しなかった異世界って少し変だよな。
「マース?」
「この世界の名称です」
異世界に名前なんてあるんだな。
「そうか。それで俺はこのまま闇堕ちと眷属化のスキルだけしか使えないのか?」
「いいえ、ダンジョンレベルが上がったことで新しく憑依のスキルが使用可能になりました」
「それを早く言えよ」
全くこの球は。
「申し訳ございません、以後ダンジョンレベルアップを通知し新スキルがあればお知らせ致します」
「頼むぞ。で、どうやって使うんだ?」
「使い方の情報はございません」
自分で試してみるしかないか。
コアルームには今誰も居ないので地下2階に行きマハルダと守備に残しているダークウォーカー2体に向けて憑依を試みた。
「おお我が神イリ様!私めをそのように覗き込まれて如何なさったのですか?」
「少し静かにしていろ」
「折角またご対面のお時間を頂けたというのに残念ですが、承知致しましたっ」
マハルダは黙ってくれるようになったが憑依のスキルが発動する気配が無い。
ダークウォーカーに試みても同じだった。
どうしたものかと思考を巡らせていると牢獄部屋で仰向けに転がっている白骨死体に目が留まった。
暫く眺めていると突然視界が白骨死体に押し迫り、衝突したと思ったら次の瞬間には天井を見ていた。
どうやら俺は寝ているらしく起き上がると目の前には牢屋の柵越しに俺が見えたのだった。
「やった成功した」
俺がそう言うとマハルダがビクッとしたが命令を守って声は発さなかった。
それはさておき、身体を見ると白骨死体の骸骨になっていた。
憑依は成功したみたいで自由に骸骨を動かすことが出来た。
元の俺を見ると上半身の人型部分が消えて闇が渦巻く球体部分だけが残されていた。
ちょっと心配になって戻れるか試してみると憑依した状態で意識を切り替える事が出来た。
元の闇に意識を戻すと闇の球体として自由に動き回れる。
そして憑依先に意識を切り替えるとちゃんと骸骨を操ることが可能だった。
解除はどうだろう。
そう思って骸骨から抜け出そうとすると簡単に視界が移り元の上半身だけ人型の闇に戻っていた。
「もう黙る必要は無いが、俺は少し出掛けて来るから引き続きここで待機していてくれ」
俺はマハルダにそう言うともう一度白骨死体に憑依する。
意識を本体の闇に切り替えて地下3階のコアルームまで行くとまた白骨死体に意識を切り替えた。
骸骨の手で牢屋のドアを開け外に出ると地上を目指して歩いて行く。
これは面白い。
憑依とは何とも妙な感覚だが、久しぶりの足と歩行にちょっと感動さえしている。
憑依を使えばノーリスクで外出出来るのかもな。
それとモク爺の言っていた器に入るってのも憑依のことかもしれない。
そんなことを考えながら地上へと出て北西の方へと向かう。
荒れ果てた王都をねり歩いていると、金属同士がぶつかる音が聞こえて来た。
音の方へと歩いて行くと、2体のダークウォーカーと1体のオークが戦闘を繰り広げていた。
厚めのプレートで身を固めた重装のダークウォーカーが両手で持った長剣でオークに斬りかかりオークが両手に持った2本のバトルアックスで弾き返す。
簡素な鎧を着た番兵姿のダークウォーカーがオークの横から胴目掛けて剣を水平に薙ぐもオークはバックステップで避けてみせた。
良い勝負してるじゃん。
元奴隷のダークウォーカーがまともな装備見つけられたのがデカい。
でも何でオークとダークウォーカー達が戦ってるんだろ。
このオークが最後の生き残りだったとしても逃げずに抵抗してきたら捕獲するよう言ったはずだ。
上空と周囲を見渡してもモク爺の姿は見えない。
まさかモク爺に何かあったのかもしれない。
だったら球と本体が危険だ!
俺は急いで近くの瓦礫に身を潜め、意識を本体の闇へと切り替えた。
視界がコアルームに変わり周囲を確認するもいつもと同じだった。
ホッと安心しつつ、球を操作しようとしたが憑依スキルの発動中は闇の球体になっているため手が無い。
「マップを表示しくれ」
「はい、マスター」
球に頼んでマップを表示してもらい急いで地上を見る。
マップに映っていたのはオークと戦うダークウォーカーだけだった。