83 イリとマオ
赤黒い闇のエネルギーがコアルームの天井を破壊し侵入してきた。
俺はダンジョンコアに飛びつきしっかりと抱きかかえる。
全身に巨大な岩石がのしかかっているような重圧を感じ、床が崩壊した。
台座からダンジョンコアが取れたが俺は腕でしっかり球をホールドした。
地下が貫通した事で巨大な穴になってしまっている。
俺は元から足が無く空中に浮いているので問題は無いが、下は瓦礫の山だ。
上からゆっくりマオが降りて来るのが見えた。
不味いな。
直前に見たダンジョンマップのホログラムでは、クルクはモク爺との戦闘で消耗して再生待ちで休んでいたし、マハルダも力を使い過ぎて黒い太陽が消えかけていた。
世話係だったダークゴブリンのジェイズとダークエルフ達はさっきの攻撃で消えた。
ここは俺だけで何とかするしかない。
急いで手に持って居るカバンから頭飛剤の小瓶を取り出してパイプに入れ煙を摂取した。
そして抱えていたダンジョンコアをカバンに入れて後ろに背負った。
丁度正面にマオがやってきた。
俺も今のマオも同じ姿だ。
俺は闇の塊の上に闇人間の上半身が生えている姿だし、マオも闇の球体から人の上半身を生やしている状態だ。
マオは赤くなってしまった瞳を真っすぐ俺に向けて話しかけて来た。
「命が尽きる前に一服か?」
マオがニヤニヤする。
「そんなところだ」
俺の返しを聞きマオが噴き出すように笑うと、緊張をほどいて喋り出した。
「声まで一緒かよ、本当にお前はマヨミヤイリなんだな」
「ああそうだ、お前だって光無真雄なんだろ?」
俺は煙を吸い込みながら軽く聞いてみる。
「そう、地震で意識を失った後に俺は異世界転移したんだ」
俺は顔や態度に出しはしなかったが、ショックを受けた。
やはりコイツは光無真雄本人だ。
じゃあ俺は…。
俺は闇VTuberのアバターに転生した光無真雄だと思い込んでいた。
光無真雄の記憶がそのままあったからそう思ったんだ。
でも本人がここに居るってことは俺は別の存在だってことだ。
コイツが偽物でない限りな。
「誰に転移させられたんだ?」
「女神ラチカ。聖域で女神からスキルを貰ってこの世界に飛ばされたんだ」
ああ、話が進むにつれて確度が高くなっていく。
コイツが偽物じゃないってことが。
「良いスキルを貰えたのか?」
「全然。だから最初は苦労したけど、まあそっちよりマシだよな、最初は何も無い空間だったんだろ?」
言われて思い出してみると、最初は何も無かったな。
五感すらなくて、長いこと動いていたら急にダンジョンのコアルームに居た。
でも待てよコイツ…。
「何でお前がそんなことを知ってるんだ?」
マオが口を閉じてジロジロと俺を見る。
「もしかして自分が何者か知らないのか?」
「VTuberのアバターだろ、知ってるよ」
「はぁ、違うって。闇の話」
「闇がどうしたんだ」
マオは額に手を当てて首を横に振った。
「おいおい本当に何も知らないのかよ、お前が創ったんだろ?」
「何を?」
「世界」
「え」
マオの言ってることがあまりに飛び過ぎて頭に入って来なかった。
だって俺はこの世界に来た時既にダンジョンマスターで闇の魔王だったんだ。
「闇が世界を創造したんだ」
「だから何でそんなことお前に分かるんだよ、聖書にでも書いてたのか?」
「俺が赤闇様の眷属になった時に知ったんだ、世界の創造主についてね」
コイツ眷属になってたのか。
あんなに弱そうだったのに何でこんな奴を眷属にしたんだろ。
赤闇という奴の考えが分からない。
名飴から推測すると俺の同類っぽいけど。
「赤闇って誰だ?」
「目の前にいらっしゃるじゃないか、俺を取り込んでくれているだろ」
その球体が赤闇か。
「闇が世界を創造したってことは赤闇と俺で共同制作でもしたのか?」
「違うって。闇それぞれに世界が生まれるんだ、だから赤闇様の世界もある」
なるほどな、赤い闇の奴等は他の世界から来たってわけだ。
だからモク爺とか邪神ゲズムは外の連中って言ってたのか。
俺はパイプの煙を深く吸いこみ、話を続ける。
「どうやってこの世界に来たんだ?」
「最初は少しずつ赤闇の粒子をお前の世界に送るので精一杯だった。でも蛇を使ってお前の世界の調停者と女神から力を奪い、時空の亀裂を発生させることに成功したんだ。後は亀裂を広げてお前の世界に来たってわけだ」
頭飛剤が回って高揚した気分になる。
準備は完了だ。
「それで何しに来たんだよ」
「侵略」
言うと同時にマオが掌をこちらに向け、赤黒い闇のエネルギーを放出してきた。
口に咥えていたパイプが下に落下し逃げようとしたが、身体が勝手に動き両手の人差し指と親指を繋げて輪を作ると、マオを中心に闇の渦が発生して近距離の全てを吸い込んだ。
マオが上下左右に回転しながら押し潰れていく。
引力でグニグニと形を変えるマオの球体から赤黒い闇のエネルギーが放出されると渦が消えた。
体勢を立て直し、マオが口を大きく開けた。
口から赤黒い闇の羽虫が大量に出てきて大群となって俺にたかる。
次々に身体が食いちぎられていく。
振り払おうとしても俺の身体は言うことを聞かず、闇の煙を身体から噴出させ羽虫を殺していった。
マオが赤黒い闇の槍を生成して投げる。
同時に俺が勝手に右手の人差し指をマオに向けると、濃密な闇黒の塊をマオに飛ばした。
闇の槍が俺を貫通し、闇黒の塊がマオに着弾すると一気に拡散して球状の暗黒空間にマオを閉じ込めた。
頭飛剤の影響で痛みは殆ど感じないが、力を失ってきているのを感じる。
閉じ込められたマオに無数の切り傷が発生し苦しんでいる様子だ。
闇のエネルギーを解放させて闇黒空間を壊そうとしたが破壊出来ず消失した。
マオが血まみれになるも、赤黒い波動を狭い一点に集中して連射することで闇黒の牢獄を破り脱出した。
お互い消耗し決め手を探っているこの状況で、意識がハッキリしてきてしまった。
ヤバイ!戻ってる!
もうパイプを落としてしまって吸えない。
マオがまた赤黒い槍を生成した。バチバチと闇の稲妻が槍の周囲を踊っており闇の力が十分練り込まれていることを物語っている。
何かしようと指を差したり念じたりするが何も起きない。
マオは一瞬観察する様に俺を見たが、すぐに闇の槍を投げて来た。
凄まじい速度で槍が飛来し、俺の腹を槍が貫通した。
激痛が走り俺は動けなくなった。
腹を押さえる俺を見てマオがニタリと笑う。
「マヨミヤイリ、お前は赤闇様が吸収する。養分となれっ!」
マオを取り込んでいる赤黒い球体が大きく口を開き、こちらに迫って来る。
クソっ!
ダメージが酷くて身体が動かない!
ここが俺のダンジョン領域だから少しずつ回復しているのは分かるが遅い。確実に間に合わない。
攻撃も出来ない、回避も出来ない、一体どうすれば良いんだ。
眷属が来るまで会話で時間稼ぎしたいところだが、もう既にさっき結構話してしまった。
興味を引くようなことが今パッと頭に浮かばない。
必死に頭の中で妙案を探っていると、穴全体が大きく揺れた。
しかしそんなことは気にせず俺はこの危機的状況を打開する策を考えている。
とその時、真下の瓦礫が吹き飛び、1体の巨大なモンスターが飛び出て来た。
漆黒の鱗で覆われた10m程の魚の身体に虫のような羽と黒い人の足と手が生えており、頭は口以外が黒いスライム状で鋭い歯が並んだ口を大きく開けている。
ガブリとマオの球体に噛みつき食いちぎった。
「う゛あ゛ぁっ」
マオが悲痛の叫びをあげる。
凄い闇の力だ。
あの魚は闇の存在で間違いない。
赤くないしマオを襲ってるから赤闇勢力じゃない。
だとするとこの世界出身の存在ということだ。
俺の配下に魚の姿をした種族は居ない。
何者なのかと考えていると、マオが闇のエネルギーを魚に撃ち込んだ。
魚の身体に風穴が開くが尚もマオに噛みつき食している。
マオが撃ち魚が赤黒い闇の球体を喰らうのが続いた。
動くことも難しい俺は思考だけしか出来ない。
考えてみると、俺のダンジョンの下に居たんだよな。
ここは元々ホースクト王国の地下牢獄だった。
俺が何かしたんだっけ。
魔法の粉で頭が飛んだ時とか怪しいのもあったが、俺はひとつ思い出した。
そうか、一番最初か。
俺がまだ闇堕ちのスキルも分かって無かった最初の時、モク爺を配下にしようとしたら地下に闇が流れて行ったのを覚えている。
最初は俺が未熟だからスキルが正しく発動しなかったと思ってた。
でも違ったんだ。
正しくスキルは発動していた。
地下にアイツが居たんだ。
そういえばその後で配下の数が1体消えてたことがあったよな。
俺の支配から逃れる事が出来たのは直接会って無かったし中指を立てたわけじゃ無かったからか。
だからダンジョンコアの配下リストに表示されなかった。
全て辻褄が会う。
でも誰だ。
誰がこの地下牢獄の最下層に閉じ込められていたんだ。
それは聞いてみたら分かる事だ。
戦いを見ると、双方力尽きて底に落ちていた。
マオは人間部分の上半身だけになって横たわり、魚も穴だらけで倒れていた。
少し回復して来た俺は痛む身体に鞭打ってマオの近くに移動した。
僅かにまだ呼吸がある。
眼は赤色では無くなり黒い瞳に戻っていた。
「なあマオ、お前何で赤闇側に堕ちたんだ?強引に操られただけなのか?」
「ゲホッ…俺は…力が欲しかったんだ…誰にも文句を言われないような立派な力が…」
俺を構成する記憶の大半はマオの人生だ。
何を言っているのか俺には分かる。
社会人になって経験したパワハラがそりゃあもう酷かったんだ。
徹底して人の尊厳を踏みにじり精神的にも肉体的にもあらゆる攻撃を受けた。
ちょっとでも仕事が出来ないと思われるとあらゆる人間が永遠と集中攻撃をしてくる。
少しのミスをまるで傷口を広げるみたいに事を大きくして責め立ててくるだとか。
人をよく見ないで第一印象で決めつけ徹底して嫌がらせを仕掛けて来るだとか。
社会人は舐められたら終わりだ。
セカンドチャンスが無い。
一度でもレッテルを貼られるとずっと態度は変わらない。
だからステータスに人は拘るようになる。
自分にもっと才能や能力があれば。
マオはそう思っていた。
「分かるよ、凄くわかる。でもそれで赤闇の力を貰ってどうだった?今どんな気分なんだよ」
「…最悪だった…」
「だろ、それはマオが改善しようとしたからだと思うんだ。俺はこの世界に来て思ったんだけどさ、抱えてる問題って解決しなきゃダメなのかな」
「…」
「人じゃない姿になって違う視点で考えてみると、直感で生きることって大事だと思うんだ。だから理想の姿を追い求めるよりも今感じていることを体現する方が幸せな場合もあるんだよ」
「…俺はじゃあ…」
「マオ、俺と一緒に暴れてみないか?」
そう言うと同時に俺の身体から闇が溢れ出した。
闇はマオの方へと流れていくかと思いきや、逸れて魚へと向かいそして戻って来た。
え、まさかの何も無しかよ。
よく見ると、既にマオと魚は死んでいた。
遅かったか。
俺はもう少し早く勧誘していればと悔やみ、時間の大切さを学んだのだった。
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