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8 奴隷と闇

俺はダークウォーカー8体全員を引き連れて地上へと出た。


無事な建物が殆ど無い。


物という物が破壊され石材の破片やら抉りだされた地面の土なんかが道に飛散しておりもう滅茶苦茶だった。


マップで見て知っていたが目線を変えるとより崩壊しているように感じる。


俺には何故かスカッとする良い景色だと思った。


何が起きても良い様にダークウォーカー達を俺の前後左右に2体ずつ配置させ守りに徹したフォーメーションで移動している。


ダンジョン地下の入口から北東に向けて進んでいると居住区の残骸に差し掛かったところで瓦礫(がれき)の山の向こうから声が聞こえて来た。


「グズグズしてんじゃねぇ!さっさと持って来いクズがぁっ!!」


男の怒声と共に鈍い打撲音と悲痛の叫び声も聞こえた。


俺達は右側からぐるりと瓦礫の山を回り込み声が聞こえて来た場所へと進む。


マップで見た首輪の奴隷達が瓦礫を掘り起こして物色しているのが見えた。


泥などで汚れているが元々は白い肌であろう背の高い男が血と錆びで覆い尽くされた金属棒で黒茶色の肌をしたおじさんのドテっ腹をフルスイングする。


おじさんは吐血しその場で倒れ込んだ。


「何寝てんだゴミぃぃ!!早くしねーと俺がご主人に殺されちまうだろうがっ!」


背の高い男が裸足でおじさんの顔面を踏み蹴り頭がバウンドする。


「お前等も早くしろ!女神ラチカが言ってる黒禍(こくか)の化物が潜んでるかもしんねーんだぞ!」


あちこちに散って物色していた奴隷達に向けて背の高い男が叫ぶと視界に映ったのか俺達に気が付いた。


「な、なんだコイツ等!?人間じゃねぇ、モンスターだっ!」


そう言うと背の高い男は戦う素振りも見せず血相を変えて俺達から逃げだした。


それを見た何人かの奴隷も逃げ出す。


「前2体でアイツを捕まえて連れてこい」


前を守っていたダークウォーカー2体が素早く動き、あっという間に追い付くと背の高い男を捕まえて連行して来た。


「ひっ、な、何だ俺を捕らえてどうしようってんだっ」


「そんなこと聞いてもどうしようもないだろ、まずは黙って俺の話を聞けよ」


俺が喋ったことに驚いたのか俺を見て背の高い男は硬直した。


それを見て俺は言葉を続ける。


「俺は別の世界でお前みたいな人間を沢山見て来た。人には色々なやり方や考えがあるよな、育った環境や性格が違いを生んでるんだ、お前の暴力や恫喝だって一つのやり方に過ぎず見方によっては尊重すべきこともあるしかしだ」


俺は言葉を一旦切り背の高い男の前にずいッと進んでから続きを話す。


「俺は人間じゃない。人間社会におけるルールだとか行動原理を一々考える必要なんて無い自由なんだ、だからムカつくお前にこう言ってやれるんだよ」


言いながらどんどん俺は前へと進み、俺の身体から勢い良く闇が噴き出すと怯える背の高い白人男の中に恐ろしい速さで流れ込む。


そして鼻先に顔を持って行って最後に一つ言い放った。


「死ねよ」


背の高い白人男の身体全体が異常に黒くなり木っ端みじんに弾け飛んだ。


あ、勝手に死んだぞコイツ。


ダークウォーカー達に処刑を命じるつもりだったのにな。


闇を吸い込み過ぎたんだろう。


何でも食べ過ぎは注意だよな。


俺はダークウォーカー達に逃げた者を含めて全ての奴隷を捕らえて連れて来るように命令した。


残りの人生を奴隷として過ごすかダークウォーカーとして過ごすかどちらが良いかとは考えていない。


ただ奴隷には闇が似合ってると思っただけだ。


ほどなくしてダークウォーカー達に抱えられ連れてこられた奴隷達に俺は近付き中指を立てていく。


闇を吸い込んだ奴隷達は細胞が闇の粒子に変わりダークウォーカーになっていった。


しかし1人だけは何故か中指を立てたにも拘らずダークウォーカーにならなかった。


「おお!なんと神々しいお姿!まるで神だ!貴方様はお救い下さった!私の神!」


そう俺にまくし立てて寄って来たのは背の高い男に殴られていた黒茶色の肌をしたおじさんだった。


栄養不足でやせ細りボサボサの黒い髭や髪が伸び放題になっていて、身体の至る所に傷跡や打撲のあざがあった。


そして何故か涙を流していた。


俺は魔王であって神では無いが別にどう思われても構わない。


それよりもこのおじさんがなぜダークウォーカーにならなかったのか気になる。


確かに闇を取り込んだはずだ。


それも中指からだけでなく俺の身体から闇が出て他の連中より多目に取り込んでいる。


だからなのか、このおじさんの身体には闇のオーラが分厚く出現している。


見たところ弱そうだが、何かあるのかもしれない。


球かモク爺に聞いてみるか。


「お前の名は?」


「おお神よ!私如きが名乗る栄誉を頂けるとは!なんと有難き幸せ!」


「早く」


「お許しください神よ!私はマハルダにございます」


「そうかマハルダ、俺の名はイリだ。移動するからお前俺に付いて来い」


「イリ様!なんと神聖で力のある響きなのでしょう!神の名をお聞かせ頂けたこと私のような下僕には至上の喜びにございます」


マハルダが両手をグーにして手を叩きながら感動の笑みを浮かべている。


俺はごにゃごにゃ煩いマハルダとダークウォーカー達を連れてダンジョンの地下牢へと帰還した。


「マハルダはここで待機していろ、地下3階への立入りは禁止だ。もし下への階段を一歩でも下りれば即お前を殺す」


「いと高き暗黒の神よ、誓って下への階段には踏み込みません」


「おう、では武装したダークウォーカー4体は地下2階つまりこの部屋の入口付近を防衛していてくれ」


元番兵のダークウォーカーを4体選び配置させた。


残りのダークウォーカー達を引き連れてコアルームへと下りる。


「ただいまモク爺」


「イリ様おかえりなさいませ」


モク爺に挨拶すると球の元まで行くとマップを確認した。


地下2階に待機させていたマハルダを見ると赤く表示されている。


やっぱり配下になってないか。


ダークウォーカーじゃないからな。


球に聞いてみよう。


「地下2階に居る侵入者を配下に出来なかったんだけど何か理由わかる?」


「DP不足です。配下又は眷属化には相応のDPが必要です」


なるほどDP不足が原因だったか。


もしかしてモク爺並みの特別な人なのかもとも思っていたのだが違ったみたいだな。


滅びた王都にはひっきりなしに侵入者が来るからすぐまたDPは貯まるだろう。


「地下2階の侵入者だけの時は警告メッセージは言わないでくれ、知り合いなんだ」


「了解しました」


残りのダークウォーカー達にコアルームの防衛を指示しないと。


そう思って気が付く。


元奴隷の6体は装備が無い。


そしてDPが無いからアイテム購入で仕入れることが出来ない。


「お前達、地上の城跡地に行って装備を拾って来い。道中民家の残骸とかで袋を調達して金品や貴重品らしき物も見つけ次第集めろ」


ほぼ先程の奴隷達がやってた火事場泥棒をダークウォーカー達に命令した。


やっぱり出来れば装備にDPを消費したくない。


ダークウォーカーがこの世界でそんなに強い種族でないことも分かったし、贅沢な装備を与えてもそんなにパワーアップにならないだろう。


それに強奪されたら厄介だ。


装備よりも今の第一目標はルーキーランキング1位を狙って強い眷属を手に入れることだ。


この先DPを獲得しても眷属化の為に温存する。


眷属選びもここで待つだけじゃ遅いと思うんだよな。


「モク爺、ホースクト王国含めて周辺で強い奴を知っていたら教えてくれ」


「なるほど眷属の人材ですな、ならば北のエルフの里ナチュド王国には優れた魔術師が多数おります。東の戦争国家シェイソウの将軍も武勇に長けていますし、南のハンホウ国ではドラゴンハンターが有名です」


ほう、どれにしようか。


俺にはまだ戦闘のデータが足りてないが、今までの情報と経験から推測すると魔法みたいな術系が強いと思うんだよな。


モク爺が強過ぎるが為に魔法を高く評価してるのかもしれないけど。


エルフの里にしようかな。


まあダンジョンレベルが上がって眷属化上限が2になったからイマイチだったら別のにしたら良いさ。


エルフの里まで行ってもらおうかと思いモク爺を見るとローブの懐からパンとチーズを取り出しムシャムシャ食べ始めた。


「これはイリ様を前にして失礼ですが何か月も監禁されていたものですから少々小腹が空きましてな、ご容赦を頂きたい」


モク爺はそう言いながら美味しそうに食べ続ける。


「そんなの何処から持って来たの?」


「城の調理場から拝借していたのです」


良いなー。


俺も食いたい。


でもこの闇の身体じゃ口に入れた瞬間に消えて味わうことも食感を楽しむ事も出来ない。


「モク爺は俺が食事を楽しめる方法を何か知ってる?」


「…一つだけ、あるにはあります」


食べ続けているが、モク爺の顔は神妙な面持ちだ。


「教えてくれ」


「器を探すのです」


「器?」


「イリ様が入るに相応しい存在です。人かモンスターかは分かりませんが完全に波長が合えば1つになることができるでしょう」


「誰かを乗っ取れってこと?」


「その誰かが重要です、イリ様の場合は器となる存在がこの世に居るかどうかすら怪しいですからな」


俺と完全に波長が合う器ね。


覚えておこう。


そう思った時に球が黄色く光りだした。


「警告、侵入者を検知しました」


マップを表示して侵入者を確認すると薄汚れた灰色の肌をした醜悪な顔の者達が映っていたのだった。

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