79 亜空間
水の上を歩く人物が俺を見ながらフードを外した。
金髪で天使セルメルに少し似た顔だった。
そして頭上に2つ目の首と頭が生えた。
その頭は赤黒い闇の粒子で出来ていた。
眼と口の部分にだけ穴が開いている。
あれ、俺の配下にこんな奴居たかな。
記憶を探ってみても思い当たる種族は無かった。
しかし闇の俺にはあの赤黒い頭が闇だと感じる。
「会いたかったよイリ」
闇の顔が喋った。
ノイズのような音が混ざっており今まで聞いた声の中で一番汚い声だった。
「前から俺の事を見に来てたりしたよな、お前は何者なんだ?」
「分からないぃい?我々とイリ達は似たような存在じゃないか」
「闇なのか?」
もし闇だったら俺達と同族だ。
敵じゃない可能性もある。
でもダンジョンコアの球はこの世界に俺達しか闇は存在しないって言ってた。
あの球が嘘付いたとは考えられないし、コイツも一番上の頭だけ闇なんだよな。
頭を2つ持つ謎の者が水のエリアを渡り切りエメラルドグリーンのクリアなマス目を大股で歩きながら答える。
「我々の力を見せてやろう」
そう言うと2つ頭の者が掌に赤黒い闇を発生させた。
カズヤとドニシャが素早く反応し、闇の爆弾と闇の波動の遠距離攻撃を放つ。
赤黒い闇から闇の頭が無数に生えて伸びていき闇の爆弾と闇の波動を貪るように食べた。
「我々の力を見てどう感じたかな?」
舐め回すように2つの頭の眼4つで俺達を見る。
強烈に不快な奴だ。
カズヤに目が留まりニタリと笑みを浮かべた。
「闇じゃないのか?何者なんだ?」
俺がそう言い終わると同時に2つ頭の者が消え、俺の背後から汚い声が聞こえて来た。
「悪だ」
その瞬間、突如として発生した赤黒い闇の波に俺達は呑まれ流された。
荒れ狂う赤黒い闇の中でも2つ頭の者は見ることが出来た。
一緒にカズヤ居る。
2つ頭の者とカズヤは魔法陣を発動させて一緒に消えた。
俺は赤黒い闇のされるがままに押し流され、遠くの場所でようやく赤黒い闇の波が消えて地面に投げ出された。
周囲を見渡すと大体同じ場所に配下達も流されていたみたいだった。
しかしカズヤが居ない。
あの2つ頭の者と消えたのは見間違いじゃ無かった。
俺は魔法陣まで戻ろうとしたが、見えない壁に激突した。
体勢を立て直して見えない壁を回避しようと下や横から回ろうとしたが、どこも見えない壁に阻まれていた。
どうなっているんだ。
高度を上げて上空から魔法陣を探したが、見えない壁の向こう側には見当たらない。
また俺達は閉じ込められたのか。
見えない壁とは逆の方向に引き返し配下達が集まっている所まで戻った。
「ダメだ魔法陣が消えてる、先に進んで何か出口が無いか探そう」
俺がそう言うと、ドニシャが慌てて喋る。
「カズヤが居ません!」
「落ち着けドニシャ、俺はカズヤがあの2つ頭の闇使いと一緒に魔法陣で消えたのを見た」
「誘拐でしたか」
カズヤの見た目は赤ん坊だからな。
「俺は保護者失格だな」
「とんでもございません、隙を作ったカズヤの自己責任です」
「それは後で本人に聞くとして、折角未知の場所に来たんだからホロタで撮影しよう」
ドニシャがホロタを取り出して端末を起動させようとしたが、ホログラムが立ち上がらず反応しなかった。
「申し訳ございません、私のホロタは故障している模様です」
先程の赤黒い闇の波に浸かった影響かもしれないが、見た所、損傷しているようには思えない。
他にホロタを持ってる配下達にも起動できるか試して貰ったが、全てのホロタが全く反応せず使えなかった。
仕方がない、撮影無しでいこう。
面白い場所だったら後でまたここに来て撮影場所として利用したら良い。
そんなことを思っていると、奥の上空から何かが複数飛んで来た。
こちらにやってきたのは、蝙蝠の翼を生やした醜悪な顔の人型石像だった。
あれはデーモンのガーゴイルだ。
なんだモンスターかと思ったが、ガーゴイル達は飛びながら赤黒い闇のオーラを身体に纏わせた。
赤黒い闇で覆われた爪を駆使して俺達襲い掛かって来る。
ドニシャが黒い波動を広範囲に放って全てのガーゴイルにヒットさせるとバタバタと翼や体の一部が砕け散り後ろへ吹き飛ばされた。
天使の力を得た怪獣を食べてドニシャの力は確実に増した。
あの赤黒い闇を纏ったガーゴイル達だって一撃だった。
しかしカズヤと一緒に消えた2つ頭の者は簡単に攻撃を防いで見せた。
侮れない存在が他にもいるかもしれない。
周囲を警戒しながら先に進むと、今度は腹の出た恰幅の良い人型のモンスターが刃物や棘が沢山取り付けられたこん棒を持って歩いていた。
灰色の肌をしていて5m程の身長があり下顎から鋭い牙が口の外に飛び出している。
トロールだ。5体居る。
ガーゴイルと同じく身体に赤黒い闇を纏わせており、俺達に気が付いてこちらに向かってきている。
クルクが前に出て走り、拳でトロールの顔面を殴り潰していった。
後ろのトロールが鋭利なこん棒を繰り出すもクルクの強靭な肉体には全くダメージを与える事が出来ず他のトロールと同様に顔面を潰されて倒れ伏す。
怪獣を食べたクルクの力はもはや計り知れない程に膨れ上がっている。
暴れ足りないと言わんばかりにクルクは拳と拳を打ち付けて鼻息を荒くした。
更に先へと進むにつれてトロールとデーモンに数多く遭遇したが、クルクとドニシャが全て一撃で殺していった。
どんどん先へと進むと、2体の巨大なモンスターと遭遇した。
1体は10m程の巨大なトロールで、オレンジの肌に筋骨隆々の体型をしていて、骸骨のネックレスと汚い腰布を身に着け巨大な鉄のハンマーを持って居た。
もう1体は5m程の大きなデーモンで、骸骨の様な肉の少ない水色の顔をしていてねじれた角を4本頭から生やし、蝙蝠の羽と尻尾がある。そして赤い鎖が至る所に嵌め込まれた黒い鎧を着ていた。
2体共に俺達の接近を察知すると、赤黒い闇のオーラを身体から噴出させ話しかけて来た。
「オレ様は四大魔王のトロール、ガンガ」
「我は四大魔王のデーモン、ジャジックだ、見た所お前達は闇の魔王の手下だな?」
そういえば四大魔王とか居たな。
アンデッドとドラゴンの四大魔王は俺達が殺した。
それを知ってか同盟でも組んで強くなった気でいるんだろう。
謎の赤黒い闇を手に入れているみたいだが、所詮は俺達が前に殺した奴と同格なのだから、この2体も大した事は無さそうだ。
「そうだ、ここはお前達のダンジョンなのか?」
横のトロールが笑いだした。
「グフフ、この場所はあの方達の拠点だ、まさか刃向かうわけじゃないだろうな?」
「頭が2つの奴は眷属を拉致したから殺す予定だ」
更に馬鹿笑いしだしたトロールの魔王ガンガを手で制し、デーモンの魔王ジャジックが話す。
「愚かだぞ闇の魔王、あの方達に敵う存在など居ない。しかし心配するな、今からでも遅くは無い。我らと同盟を組むのであれば手下を殺したことには目をつむり我らも一緒にあの方達の前で頭を垂れて頼み込んでやろう」
「もう良い、やれ」
俺が配下達に命令すると、クルクとドニシャが素早く動いた。
トロールの魔王ガンガにはクルクが殴り掛かり、デーモンの魔王ジャジックにはドニシャが槍の杖で突き抜いた。
赤い泥の様なオーラがガンガから出てクルクにへばりついたが、手であしらうだけで消え失せた。
「馬鹿な!オレ様のパッシブスキルがっ」
何かを無効化したみたいだが、闇の俺達に黒魔法系統の攻撃は効かないからな。
驚愕するトロールの魔王ガンガの腹にクルクが拳を叩き込み、抉り消した。
悶絶するも、トロール種特有の超再生ですぐに自己回復した。
クルクは拳の連打を浴びせ、トロールの魔王の頭と全身を破壊し尽くした。
再生出来なくなったトロールの魔王の肉片が地面に飛散する。
一方ドニシャは槍の杖でデーモンの魔王ジャジックの頭にデカい風穴を開けると、闇の薔薇を空中にばら撒いて薔薇の蔓でデーモンの魔王を引き裂いた。
止めに闇の波動でバラバラに引き裂かれた肉塊を消し去った。
2体の魔王が死ぬと、先の地面に魔法陣が出現した。
念のため空から他にも魔法陣や怪しい場所は無いか見渡したが、それらしきものは見つからなかった。
俺達は身を寄せ合いながら全員魔法陣の中に入ると、転移の魔法が発動して全く知らない別の場所に飛ばされた・
そこは白い空間だった。
白い大理石みたいなツルツルした床で、地面すれすれの低い位置に幾つもの小さな雲が浮かんでいる。
少し先には神殿があり、プールみたいに水が張られた円形の石机があった。
張られた水の中には上から見たマースの世界が映っていて、神殿には天使達が何人か居た。
そして天使達は虚ろな顔でこちらにやって来てある1人が口を開いた。
「ラチカ様を…女神ラチカ様を…お助け下さい」
そう言うと、天使の全身に赤黒くて太い血管が浮かび上がり、俺達に襲い掛かって来たのだった。
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