77 本心
氷の大地にまた強い揺れが発生した。
ドニシャ達がこの揺れを引き起こしていたわけでは無かった。
するとクルクとスワトの戦いが原因なのかと思い視線を移動させようとして、視界の端に映った地面に転がるルジの身体が僅かに動いていることに気が付いた。
俺は羽ばたきルジの近くの地面へと降りた。
ルジはアイドル業界1位のグループに所属しているトップインフルエンサーだ。
闇の教団が殺したと知れ渡ると信徒の増加数は鈍化するかもしれない。
もしここで逆に闇の教団に引き込むことが出来れば信徒は一気に増えるはず。
しかしもう虫の息だ。
光輪と光の翼を失い腹に風穴を開けて大量の血を流している。
俺は急いでルジに話しかけた。
「まだ死にたくないだろ?」
「…」
ルジは蒼白した表情で痛みに耐えながらやっとのことで呼吸している。
弱々しく吐き出される息は寒さで白い煙のようになっていた。
この厳しい極寒の地がルジの体力と熱を奪い死に追いやっている。
「お前が生き残る方法が一つだけある」
俺の声は聞こえていたみたいで、何を言いたいのかを察したルジが苦しそうな表情で先に答えた。
「…僕は…闇に…堕ちたく…ない…」
「お前も善悪を気にしているのか?、善悪は闇ではなく闇の力を得た存在の意思や行動によって左右されるだけなんだぞ」
まあ言い方ひとつだ。
間違っちゃいないが、核心は伏せている。
「…違う…闇が…気持ち悪いからだ…」
初めて聞く感想だな。
ホロタのアンチコメントでも見なかった。
まさか見た目の話じゃないだろうな。
「どういうことだ」
「…自覚が無いのか…違和感さ…まるで宇宙が地上にあるみたいな…お前達の存在自体が景色に合わない異物なんだ…」
何てこと言うんだ。
でも何だろう、どこか引っ掛かるんだよな。
「異物じゃない、俺達は闇だ」
「…なら最後に…聞きたい事がある…お前達闇は一体何なんだ…」
そう面と向かって聞かれたことは今まで一回も無かった。
地球時代でも話題になる事なんて無かった。
でも俺は1つの持論を持って居た。
この異世界で闇の存在マヨミヤイリとなり、眷属達の闇堕ちや闇の教団の信徒の豹変した姿を見てハッキリと分かった。
眷属化や人からダークウォーカーへの進化は俺がスキルで闇を注入しているだけで、視覚的に認識しているこの黒い靄みたいな存在は全て俺から派生したようなものだ。
この世界の闇は俺自身を指すとまで言える。
俺はマヨミヤイリだ。
地球時代の俺、光無真雄が作ったVTuberのアバターなんだ。
俺の身体は俺自身の心の闇で出来ている。
では闇とは何か。
解決出来ない問題を放置することでストレスが腐敗し心の闇が発生する。
この異世界では俺が実体の闇を注入して対象の心の闇と結び付けてやると闇堕ちになる。
「ルーツは俺だ、闇は欲求を増幅させて腐敗したストレスの程度に合わせた力を与える。ルジも抱え込んで腐ったストレスぐらい何かあるだろ、闇を受け入れたら何も気にしなくて良くなるぞ」
ずっと生死を彷徨い苦しそうだったルジが笑った。
「ふっ…やはり僕の直感は間違って居なかった…キモイんだよお前等…」
ルジはそう吐き捨てると呼吸を止めて動かなくなった。
誘導は失敗したな。
何でだろう。
最後の言葉が引っ掛かる。
俺がVTuberだったからかな。
ルジもコンテンツクリエイターみたいなものだから同業者として気になる事があったのかもしれない。
そんなことを思っていると、また大きく氷の大地が揺れた。
俺は羽ばたきクルクの元へと向かった。
カズヤとドニシャ達もクルクの近くに集まっていた。
クルクには疲労やダメージ等は見当たらず、一方スワトは血まみれで地面に倒れていた。
スワトは吐血し、起き上がりながら血走った寄り目で俺を見た。
「闇の魔王ぉイリぃ!お前、邪教徒なんか増やして何が目的なんだよぉお!」
あれだけ布教の妨害をしておいて俺達の目的を分かって無いのは笑えるな。
「世界を闇に染めることだ」
「世界征服なんて下らないぃぃ!闇の魔王もその辺の雑魚魔王と一緒の思考だなぁあ!」
地球では世界征服チャレンジという企画があった。
だから世界征服に興味はあるが、俺の目的とは厳密には違う。
「支配じゃない、闇に染めるんだ」
抑圧すると反感を買ってしまうからな。
「そんなことしてどうするんだよぉっ!邪教徒だらけにした世界でお前何を企んでいるんだぁ!!」
AI勇者イア対策というのが答えだ。
でも言おうとして思い留まった。
今他人に聞かれて気が付いたんだ。
俺はAI勇者が居なかったとしても世界を闇に染めようとしたと思う。
だって俺はVTuberのマヨミヤイリなのだから。
「闇のコンテンツを世界中でシェアしたいんだ」
これが本心だ。
「はぁ!?」
スワトが呆気に取られた隙にクルクが拳を打ち込んだ。
顔面へと拳が命中しスワトの首から上がいとも簡単に消え去った。
頭を失った身体が地面に崩れ落ち、光の翼が消えた。
終わったな、俺達の勝利だ。
すぐに各支部への救援を指示しようと思ったが、光のドームが解除されていないことに気が付いた。
次の瞬間、今まで一番強く大地が揺れた。
氷の大地に亀裂が走り、カズヤが開けた大穴から巨大なモンスターが這い出て来た。
恐竜のような身体で頭にねじれた角を2本生やしておりビッシリ生えた鋭い歯が長い口から覗いている。
長い尻尾の先まで全身が深緑色の硬い鱗に覆われていて、両腕が熊みたいにゴツく猛禽類の様な鋭い爪をした手になっていた。
「グギャアアッ!!」
鼓膜が破れそうな程の爆音で咆哮を上げる。
声もデカいが身体も滅茶苦茶デカい。
クルクの倍以上ある。推定15~20mくらいか。
その昔、こんなデカいモンスターの種族が居たとンジョンコアの球から聞いたことがある。
怪獣種と呼ばれていたらしいが、太古の昔に絶滅したとも聞いた。
驚くことに永久凍土でずっと冷凍保存されてたらしいな。
何より驚いたのが、この怪獣の頭上に光輪が浮かんでおり、背中に光の翼まであったことだ。
そしてしっかり寄り目になっている。
光のドームが解除されない理由が分かったな。
「全員でこの怪獣を倒せ!そうしないと外に出れないぞ!」
クルクが唸り声を上げて殴り掛かり、ドニシャが闇の波動を放って、カズヤが両手で圧縮した闇の爆弾を発射した。
全ての攻撃がクリーンにヒットしたが、怪獣の硬い皮膚にかすり傷程度のダメージが入っただけだった。
「グギャアアッ!!」
咆哮を上げながら怪獣が長く太い腕を振り回す。
氷のプレートがひっくり返って崩れクルク以外は吹き飛ばされた。
クルクだけは両手でガードして何とか耐えたが、腕の皮膚がところどころ裂けてしまっていた。
「フゴォォォ!!!」
クルクも叫んだ。
全身から闇を噴き出し身体がバキバキと増量していく。
元から6m近くあったクルクの身体が更にデカくなり10m程まで巨大化した。
しかしそれでもまだ怪獣よりも一回り小さい。
クルクと怪獣がお互いタックルで衝突し、肉と肉がぶつかる重い音が轟くと、すぐさま殴り合ったのだった。
ブックマーク・評価・リアクションありがとうございます、励みになります。




