72 配信バトル2
俺はレジスタンスの配信を見て驚愕した。
これは非常に厳しい。
内容もただ歌って踊ってるだけじゃなくて、話題性があり他の配信者がやらないようなオリジナルの工夫があった。
というかどうやって人間を丸めているんだ。
そういうスキルか魔法なのかもしれないけど、あれだけ綺麗な球体にすると普通は死にそうだけどな。
それにメンツが流石に豪華すぎる。
"銀星の光"全員を配信に出されるのは辛い。
実質世界一の配信チャンネルにならないと勝てないことになるからな。
彼らの前ではトップ層のインフルエンサーであるシュンがネタにされ玩具扱いだ。
俺達はどこまで対抗出来るだろうか。
レジスタンスの配信から眼を離してゾラに質問する。
「エへシーンに有名なインフルエンサーは居るか?」
「アイドルグループ"虹月"リーダーのクラインが居ますね」
居るじゃねーの。
"虹月"は業界2位のアイドルグループだ、その中でも一番人気のあるリーダーが参戦してくれればもしかするとレジスタンスの配信に勝てるかもしれない。
「今すぐクラインを呼んでエへシーンの配信に登場させろ」
「畏まりました」
ゾラがホロタを操作してエへシーン支部の支部長であるダークナイトに連絡した。
今のうちに闇鍋の強化をしておくか。
本気でレジスタンスに勝つならもっとコンテンツに刺激が必要だ。
キャストの集客力で負けているんだから内容で勝負しないとな。
さて何を闇鍋に入れようか。
「エへシーンに送る闇鍋の皿に頭飛剤を入れてくれ、それと今から言う各地の名産品をナチュド支部に送るよう各支部長に伝えてくれ」
聖王国の人面果実、カレルザトヤのデフォルメされた植物、シェイソウのキメラ肉等を注文して貰った。
ゾラが連絡し終えると、エへシーンの配信を再生して貰い品が届くのを待った。
エへシーンの配信の同時視聴者数は現在約5万人だ。
これから10倍以上稼がないといけないんだよなぁ。
今配信ではエへシーンの闘技場に居るインフルエンサー達が種料理を食べて安っぽい食レポをしていた。
青筋を浮かべたドニシャがインフルエンサー達に圧力をかけもう一度食レポをさせる。
「舌が腐っているのか?お前達よりもまだオークの方がマシな事を言うぞ!次の品でも陳腐な発言をしたらその舌切断してオークの舌に付け替えてやる!」
ドニシャから闇のオーラが立ち昇りインフルエンサー達を更に威圧する。
脅しちゃうんだ。
強引に攻めると恐怖に支配されて闇の感情なんて湧いて来ないと思うけどな。
あまり良い顔を演じすぎると相手が調子に乗るから時折威圧することは大事だとは思うんだけどな。
ドニシャとインフルエンサー達とのやり取りを見ていると、荷台を引いたダークエルフがやって来て注文した品が届いた。
闇鍋の皿に各素材を入れるゾラに演出について話しておいた。
準備が整うまでまだ時間が掛かる。
俺はゾラに頼んでレジスタンスの配信を再生して貰った。
教会内のステージで"銀星の光"リーダーのルジが相変わらず裸同然の衣装で熱唱している。
そしてステージ一番前にはボウリングのピンみたいに10体の女神像が三角形の位置に並べられていた。
他のメンバーが丸めたシュンを蹴ってパスを何回か披露した後にリフティングし、ルジにパスを通すと、ルジが歌いながら思い切りシュートを放ち立ち並ぶ女神像にシュンをぶつけた。
撮影用ホロタの後ろに居るであろうスタッフだかギャラリーが「フゥゥゥ―ッ!!!」と歓声を上げる。
シュンは僅かに右に逸れて5本の女神像が倒れシュンも撮影領域から消えた。
"銀星の光"は結果など全く気にせずゴリゴリの寄り目で踊りと歌を続けている。
すぐに聖職者の恰好をしたおばさんが入って来て両手をかみ合わせて奥の祭壇に向かって祈りを捧げだしたが、"銀星の光"メンバーのエメラルドグリーンの短髪をした男性ダンサーが踊りながらおばさんの首を儂掴みにして強引に丸め込んだ。
丸めたおばさんを踊りながら蹴りパスし合い、高度なリフティングを披露した後にルジへとパスし、スタッフによって綺麗に並べ直された女神像へ容赦無しの強烈なシュートを決めた。
女神の力を貰って頭上に光輪を浮かべているルジの蹴りは凄まじく、インパクトの瞬間に丸めたおばさんから大量の血が飛散した。
歓声が上がり、女神像を8本も倒した。
"銀星の光"は寄り目で踊りと歌を続け、新たな参拝者がステージ付近にやって来たのだった。
俺は厳しい心境で数字を確認した。
レジスタンスの配信は同時視聴者数56万人だ。
コメントも大いに盛り上がっている。
人気曲を中心にメドレーで歌い続けているらしい。
あの謎のサッカーボウリングも絶大にウケてる。
聖教感謝祭と全く関係無いと思うが、数字を持ってる人間がやれば話は別だ。
一番人気のインフルエンサー達がやるんだからさぞ面白く映ってウケるだろうさ。
こんなのもうレジスタンスの教会に乗り込んで殺すしか無くないか。
追い込まれた気分になりつつ、ゾラに頼んでエへシーンの配信に動像を切り替えて貰うと、クラインが登場しておりそれまでのショボい空気が一変して華が生まれていた。
これが数字を持ってる人間の力なのか、雰囲気が一気に変わったな。
皿が並べられたテーブルの隣にはステージが設置され後ろの方に楽団が椅子に座って待機していた。
テーブル中央の奥にある椅子には銀髪のツンツンヘアーなヒューマンの男クラインが座り、両サイドに入信していないインフルエンサー達が座っている。
テーブルの上には皿がズラリと並べられているがどれも皿の上に闇の霧がかかり何が入っているのか分からない状態だった。
「口に運べ」
ドニシャの声を合図に、テーブルの上に用意された数多くの皿から一皿選んで、闇の霧の中に大き目のスプーンを突っ込み何かを掬った。
掬い上げた具材にも闇の霧がかかっており何かは分からなくなっている。
恐る恐るインフルエンサー達は口にした瞬間に闇の霧がパッと消え、具材が判明する。
「うわぁあっ!眼だぁ!」
「この卵、虫の脚が生えてる!」
「きゃあああっ!肉がジタバタ動いてるんだけどっ!」
中堅インフルエンサー達が口から具材を漏らしつつ絶叫する。
一方でクラインは慌てず騒がずスターの風格を見せていたが、半分かじってスプーンに残された具材を見ると小さな人の脳ミソだったことが分かった。
クラインはクールな顔で明後日の一点を見つめ、じっとして動かない。
「早く食せ!」
ドニシャの声に気圧されて4人が嫌々ながらも口の中に具材を放り込む。
全員が食べ終わるタイミングでステージ奥の楽団が演奏を始める。
慌ててクライン達はステージに上がり、涙目で踊りながら歌い出した。
しかし様子がおかしい。
クラインの声は有り得ない程低いデスボイスになっている。
これは闇の教団チャンネルに投稿されたコラボ動像の時の声と全く違う。
他のインフルエンサー達も、金髪オールバックの青年は四つん這いで昆虫みたいに小刻みな動きをしているし、ピンクの髪の女は信じられない程筋肉が肥大していて、長い緑の髪の男は額に第三の眼が開眼していた。
そしてステージの横からドニシャが闇の魔法を発動させ、ステージ上の数か所に黒い腕を生やした。
クライン達は殴りかかって来る黒い腕の拳を回避しつつ歌って踊っていたのだった。
良い。
即席で考えたにしては上出来だ。
俺の演出通りに動いてくれている。
ドニシャに関しては俺が指示していないが意図を察してステージに障害物を発生させるという良い演出をしてくれた。
流石は俺の眷属だ。
俺が今回の配信で掲げたテーマはリアクションだ。
闇鍋のリアクションや食べた後の変化に対するリアクションなど、アイドル業界トップ層のクラインがやれば人々の興味を引くはずだ。
俺は配信の数字はクラインが来てからうなぎ登りに上昇しており、今は27万人を突破している。
出だしでレジスタンスの半分も数字を取れている。
これはやり方次第でもっと伸びるかもしれない。
俺は更なる奇策を求めて思考の沼に浸かるのだった。
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