7 ギルドランクとホームセキュリティ
仕事を終えてコアルームに帰還したダークウォーカー達を横目に俺はモク爺と意見を交わす。
「辛勝だったな」
正直数の差でギリギリ勝てたが、同じ数だったら負けてたと思う。
「むぅ、おかしいですな…結果はイマイチでした」
モク爺が左手で髭を撫でながら難しい顔をした。
「イマイチって、エリート冒険者にあそこまで戦えるなら結構な戦力なんじゃないのか?」
ダークウォーカーなら中指一つで簡単に数を増やせるし。
「恐れながら申し上げますと、エリートというランクは下から3番目に御座います。同じ数では敵わないとするとギルドランクで表せばせいぜいノービスがダークウォーカーの該当ランクでしょうな」
エリートってランクだったんかい。
高ランクの連中をエリートだと言ってるものだと思ってた。
凄腕だったら眷属化も検討していたのに。
気になってモク爺にギルドランクを聞いてみた。
下から順に、ビギナー、ノービス、エリート、グレート、スペシャル、エピック、レジェンダリー、ミスティックの計8ランクだそうだ。
「今思い返すと冒険者達は派手な技を繰り出していたのにダークウォーカーは剣を振るぐらいしかしてない。フィジカルでゴリ押ししただけの様に感じた」
さっき球に配下のステータスを聞いたら情報が無いと言われた。
球曰く、俺と球は一心同体みたいな関係だからある程度スキルの情報を持っていただけで、配下が扱えるスキルや魔法とかゲーム等で見られるパラメータみたいなステータス情報は無いとのこと。
ダークウォーカーに聞いても複雑な返答が出来ずまともな答えが返って来ない。
知りたければ観察するしかないというわけだ。
「魔法は一切無くスキルが1つだけ御座いました。負わせた傷に闇の塵を付着させて治癒不能にする呪の様なスキルですな」
そんなスキル使ってたとは分からなかったな。
だからゴリ押しで勝てたのか。
勝てたとはいえエリート冒険者でさえ多様なスキルを持って居たのに1つってヤバくないか。
「因みにモク爺はいくつスキルや魔法を使えるんだ?」
「数えきれ無いほどに御座います」
やっぱモク爺は本当に凄いよな。
よくぞ配下になってくれた。
「流石モク爺だな、頼りにしているぞ」
「有難きお言葉、イリ様の期待にそぐわぬよう尽力致しましょう」
暫くしてダークウォーカーに関する意見交換が落ち着くと、俺は球のホログラムを操作していた。
DPを確認するとダークウォーカーが倒したエリート冒険者は1人100ポイントだったみたいで4人分の400DP増えていた。
領域拡大にDPを消費しようと思ったが、コストが1R50DPから倍の100DPに増えていた。
理由を球に聞くとダンジョンレベルが2に上がったせいでコストが高くなったらしい。
DPを少し残し、3R分だけ消費すると球で表示できる情報を順に見ていった。
クエストやダンジョンステータス、保有アイテムに購入カタログなんかを確認した。
ダンジョンレベルが上がった事で眷属化の上限が2に増えていた。
イベントのルーキーランキングでは83位だったのが76位に上がっている。
続いてマップを見ると青色で表示されたモク爺が高速でぐるりと飛行してるのが映っていた。
俺がホログラムをいじってる間、モク爺は力を吸い取って逃げた赤黒い蛇を探しに行った。
ホログラムから視線を外しコアルームの入口付近で休養していたダークウォーカー達に視線を移すと、冒険者達から受けたダメージは完治しておりいつも通り無駄の無い動きで周辺を徘徊したり直立したりしていた。
球が曰く配下はダンジョン内で一定時間滞在すると回復するらしい。
「警告、侵入者を検知しま…侵入者は全て排除されました」
球が警告メッセージを伝えきる前にモク爺が片付けたみたいだ。
もし弱そうな侵入者を見かけたら排除するように言ってある。
ダークウォーカーを増やしてもしょうがないからな。
モク爺だと何でも瞬殺だ。
ホームセキュリティはモク爺で万全なのだが、そうなると攻勢に出れない。
リスクを背負っってダンジョンの外に使いを出し良い配下となりそうな存在を探すしかないのかもしれない。
そう考えているとモク爺が帰還した。
「偉大なる闇のイリ様、只今戻りました」
「お帰りモク爺、蛇は見つかった?」
モク爺は首を横に振る。
「残念ながら痕跡すら見つかりませんでした」
まあ俺は蛇なんかどうでも良いからな。
「モク爺ドンマイ」
俺は軽く慰めてから球のホログラムに再熱する。
アイテム購入カタログの値段を見てこの世界の貴重品や良い装備などをチェックする。
「警告、侵入者を検知しました」
まただ。
なにせ国が潰れたのだから周囲が騒いで様子を見に人も集まって来る。
まあモク爺に任せたら一瞬で終わるけど。
一応チラッとだけマップで侵入者の姿をしたら丸投げだと思ったが映っていたのはみすぼらしい恰好をした非武装の民衆達だった。
「誰だこいつ等?」
「噂を聞きつけた耳の早い火事場泥棒でしょうな」
「誰に国が滅ぼされたのかもまだ分かってないはずなのにか?」
侵入者は全員殺しているからモク爺が犯人だと知られてないはず。
もしモク爺に襲われる危険性があると知ってたら民衆がここに来ないだろう。
「元々生きるか死ぬかの瀬戸際だった者たちにとっては危険でも魅力的に思えたのでしょうな」
異世界の過酷さを耳した後でマップを見ると、武装した人間も侵入して来ていた。
武装といってもその辺で拾ったような金属の棒だけだ。
全員同じ黒い首輪とぼろ切れだけを身に着けた集団の中で、金属の棒を持った背の高い男が痩せこけた黒茶色い肌のおじさんを殴り何か叫んでいる。
暴力を合図に殴られたおじさん含め金属の棒を持った男以外の人間が一斉に足を速めて壊れた居住区を物色しだした。
必死になって金目の物を袋に詰める貧相な集団を俺はしばし見ていた。
そんな俺を察してか横からモク爺が教えてくれた。
「この者達は奴隷ですな、首輪の呪で自由を奪われ主人に従うしか無い哀れな者達です」
奴隷を初めて見た。
地球では歴史の授業なんかでサラッと説明を聞いた程度だったが実際見ると生々しい。
「ダークウォーカーでも勝てるよな?」
「戦闘奴隷は見当たりませんからダークウォーカーが敗北することはありませんでしょうな」
「ちょっと行って来る、モク爺はここで球を守ってくれ」
意外だったのか、モク爺は目を丸くしてマップから俺に視線を移し少し間を置いて頭を下げた。
「…畏まりました」
ただの気まぐれだったのかもしれない。
それとも地球で受けていたパワハラの記憶が頭の隅をノックしたのかもしれない。
はたまたずっと籠っていることに飽きて強い侵入者が居ない今の間に気分転換をしたかったのかも。
自分でも理由はハッキリしないが俺はモク爺に任せるのではなくて直接手を下したいとそう思ったのだった。