64 小人バトル
魔法とスキルが存在する異世界なだけあってダンスの動きは地球の常識を逸脱していた。
宙を歩いたり3段ジャンプや空中遊泳など、物理法則を無視した動きが多く見られ、突飛なタイミングでメンバーの位置がシャッフルしたりダンスメンバーがセルフで火や氷、風などの小規模な魔法を使って派手に演出したりしている。
それに練習していたにしても動きがキレッキレ過ぎる。
スキルで肉体が強化されてるはずだ。
ホロタのランキング上位の動像で似た様なパフォーマンスを見たことがあるけど、圧巻されるパフォーマンスだ。
これをホログラムで3次元的に見れるのだから、そりゃ歌って踊る動像が再生数稼げるわけだ。
ダン達の配信には期待しているぞ。
ダンの仲間達が踊りながら今回の決闘に出場する4名に絡みだした。
小さくなってるマレスキンに一瞬わざと肩を預けてみたり、バグったような顔になってしまってるチャノを背中に乗せてアクロバティックな動きを魅せ、ヒリリの手を取って踊ったりした。
絡まれた出場者は困惑した表情を浮かべている。
まあそうだよな、今から命を懸けて戦おうとしてるのにお茶を濁されたようなもんだ。
周囲の王達やその後ろにズラリと並ぶ兵士達もどういうリアクションをしたら良いのか困ってる様子だった。
微妙な空気が続き最後は雪と火の粉が舞う中、格好良くポーズを決めてフィニシュした。
ダンとパフォーマンスに参加してない取り巻きの仲間が拍手をして賛辞を述べると、遅れて王達が拍手しそれに続いて周囲の兵士達が拍手をした。
パフォーマー達はなかなか捌けようとせず拍手に応じて周囲に手を振ったり髪を掻き上げて謎に恰好つけたりしている。
ムルが寒気のするような眼力でパフォーマー達を睨むと怯えながら一目散にダンの下へと移動した。
「台座で向かい合って所定の位置に付け」
ムルがそう言うと、ヒリリがチャノを掴んだまま台座の端に置き、反対側に居る傭兵の青年がマレスキンを掴んだまま台座の端に置いた。
いよいよというところで組み立て式のテーブルと椅子を設置して配信中のダン達が喋り出す。
「カレルザトヤ王国対、ザザラン王国の代表戦がいよいよ始まるねぇ、アキマは代表者についてどう思う?」
ダンに話を振られた隣の席に座っているバッチリメイクした水色の髪の女がコンパクトな鏡で自分の髪を整えながら答えた。
「わっかんない。つか全員マジ誰って感じぃ、でもでもぉ、おかげでどっちが勝つかわかんないオモシロはあるよねぇ」
「だなー、初見でさ気になった代表者は?」
「えーわかんなーい、だってぇウチさアリーナとか見ないじゃん、誰が強そうとかもわかんないんだよねぇ。逆にダンはどう?」
「いやオレもわからん」
分からんのかい。
いやそうなんだけどさぁ、そんな正直な感想ばっかり言ってて数字取れるのかよ。
視聴者の共感を得るということも大事なのは理解しているし、ダンだって俺の圧力を感じながらやっててアレなんだ。
だけどインフルエンサーが楽しく無さそうにしてたら視聴者も楽しく無くなるだろ。
これはテコ入れが必要だな。
俺は羽ばたき、撮影しているダンの仲間の肩に留まって盛り上げるよう翼を上に煽る動きのジェスチャーでダンに伝える。
「あっ、えー…はい、折角の決闘だから立っちゃおうか!アハハ」
俺に気付いたダンがテーブルに上がり立った。
いやそういう意味じゃないんだよな。
俺の翼の動きが立てと言ってるように思ったんだろう。
横のアキマがドン引きしてるが、ダンが撮影用の顔を崩して真剣に焦った表情をアキマに向け、手を激しく仰いで立ち上がるように仕向ける。
アキマも何かを察してテーブルに上がり立ち上がった。
「そ、そだね、高くてよく見えるミエル…」
だから違うって。
どうしたら伝わるんだよ。
俺は焦りながら盛り上げることを伝える為にピョンピョン跳ねながら楽し気に翼を上に仰いだ。
それを見たダンが軽く頷く。
「あー楽しみ過ぎてオレ踊りながら観戦したくなってきたわ!」
違ーう!
ダンが狭いテーブルの上で踊りだした。
アキマは更にドン引きしてる。
しかしまたもやダンが裏の顔をアキマに向け、渋々アキマも踊りだした。
こうなったらダンの近くに行って直接言おうかと思ったが映りたくないんだよな。
一応ダンは闇の教団の考えに感銘を受けて自らの意思でチャンネルのコラボをやってることになってるから、俺が指示してるとバレたくない。
鳥に憑依してても天使とかエへシーンのピュマ王子とか知ってる奴が見たら拡散される。
まあダンスはギリギリ盛り上げてくれようにも捉えられるから放置で良いか。
石の台座で代表者達が準備を整えたのを確認してムルが口を開いた。
「ドラが鳴ったら決闘開始だ」
ムルが傍にいたダークレヴェナントの男に眼で合図を送ると、ダークレヴェナントは持っていたドラを棒で思い切り叩いた。
バァーンというドラの爆音が鳴り響き両国の代表戦が始まった。
「ハァ、フゥ、決闘始まったみたいだっ」
踊り続けているダンが早くも苦しそうだ。
「ヒィ、フゥ、ウチらのダンスまだ需要あるっ?」
アキマに聞かれてダンがチラッと俺を見る。
俺はもう何のジェスチャーも送って無い。ただ観戦してるだけだ。
「よし、もう無さそうだ、やめとこう」
「だ、だよね」
ダンとアキマがダンスを止めたところで、傭兵の青年が早速仕掛けた。
マレスキンを持っている左腕を前に出しチャノに接近させた。
「やっとキミに食べさせてあげれるよぉ、悪い子がうじゃうじゃいるのによく我慢したねぇ、偉いよぉ」
相変わらず傭兵の青年は独り言を零している。
「あ?オレが何を食うって…ああ、ヒリリか!確かにもう辛抱堪んねーよっ!オレの性奴隷にしてやるからなっ!」
まだ少し距離がある間合いでマレスキンが素早く空を蹴った。
足先のオーラが青い弧を描き、蹴りによって衝撃が放たれるとチャノを襲った。
しかしチャノを持つヒリリの右手にヒットすると衝撃は雲散した。
「ちっ、マナ阻害の手袋か、ならこれでどうだっ」
マレスキンが連続で空を蹴りまくる。
無数の衝撃がチャノを襲う。
ヒリリは明後日の方向を見たまま不気味な笑みを浮かべた。
ヒリリが手を動かさなかったせいでチャノに何発もの衝撃がヒットした。
「お゛ぶっ」
鼻血を噴きながら顔が仰け反り足や手の肉が凹み内出血する。
攻撃を受けた箇所に居たチャノの肌に描かれた人間達が横に倒れ気絶する。
直後、チャノの身体が緑色の光に包まれて一瞬で怪我が回復した。
ヒリリは何もしてないし、肌の絵人間達の誰かが偶然回復アイテムを引いたみたいだ。
回復してもチャノは口をパクパクさせており白目の状態で涙を流していた。
「凄い足技だよな、直接当てて無いから一瞬踊りだしたのかと思ったぜ」
ダンが感想を述べ、チラリとアキマを見る。
「ゴメン、見て無かったぁ、ってかお菓子とジュース無いのぉ?」
アキマは既にテーブルから降りて椅子に座っておりホロタを操作するのに熱中している。
飽きるの早すぎだろ。
誰だコイツを連れて来たのは。
「スピード系ならあるよ、ほら」
ダンがズボンのポケットから魔法の粉っぽい粉末が入った小瓶を取り出し、アキマもパイプを取り出した。
「ダンありがとー」
アキマのパイプに小瓶の粉を注ぐと、赤い石をパイプに入れアキマはパイプを吸い始めた。
何してんだと思いながら視線を決闘に移すと、チャノが何もしない隙にマレスキンは力を溜めて全身に青いオーラを纏っていた。
ヒリリが薄笑いを浮かべマレスキン目掛けてチャノを持つ右手を思い切り突き出した。
傭兵の青年の左手とヒリリの右手が激突した。
ヒリリがチャノの顔面をマレスキンの胸板にぶつけ、ぐりぐりと押し込む。
小人魔法の効き目が悪かったマレスキンはチャノの倍大きく、明らかにフィジカルの差があった。
マレスキンが両拳でチャノの頬を殴るも、これだけ密着した状態だと上手く力が発揮出来ないため、首と背中を上から殴りまくった。
「これってもうお終いなのか?」
ダンが尺を気にしてるような発言をした。
「んほーぅ!まだまだぁ!これからっしょぉー!」
アキマは魔法の粉でハイになり考えるのを止めていた。
もう滅茶苦茶だな。
石の台座の上ではマレスキンの猛攻が続いたが、傭兵の青年がマレスキンを持つ左手をヒリリの右手から一旦離した。
「あぁ悪臭がする、美味しそうな悪の臭いだぁ、キミはもう我慢出来ないだろぉ」
傭兵の青年はそう言葉を漏らすとマレスキンをまるでナイフであるかのように扱いヒリリの手とチャノに向かってガンガンぶつけだした。
「う゛お゛っ、何しやがるんだアヒシャス!オレを裏ぐう゛っ、あ゛う゛っ」
ヒリリもチャノを武器代わりにして突き出しまくり、マレスキンとチャノを激しくぶつけ合った。
チャノは何度も頭をぶつけられ首が折れてだらりと垂れさがった。
しかしヒリリはぶつける行為を止めず、もっと速く強くエスカレートさせていった。
体格差のあるマレスキンもこれだけ頭をぶつけられると気絶してしまっていた。
マレスキンとチャノは血まみれで既に意識は無いが操者はさらにエスカレートする。
「キミはもう我慢できないんだねぇ、仕方ないなぁ」
アヒシャスと呼ばれた傭兵の青年がマレスキンをぶつけるのを止めると、全身が眩い光に包まれた。
徐々に光が頭上へと収束し、密度の高い光輪となったのだった。
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