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63 トラッシュトーク

翌朝になって俺は意識を憑依先の鳥に切り替えた。


視界がコアルームから教会内部へと変わる。


もう既にムルは出て行っていた。


代わりに数体のナイトダークレヴェナントが教会内をウロウロしている。


俺は羽ばたき教会を出た。


上空から都市の様子を見ると、東部に人が集まっていた。


東に向かうと、旗を掲げた鼠ライダーの軍やら闇の教団の信徒やら一般人も加わり大人数で行軍してるのが見える。


集団の中央にはニパカラ女王とムルが居て、後方辺りにダンと知り合いらしき数名の闇の教団の信徒が歩いていた。


そして前の方には闇の教団の信徒に混じってロープで拘束されたヒリリが蒼白し眼の焦点が合って居ない顔をしながらフラフラとおぼつかない足取りで歩かされていた。死んではいないみたいだ。


もう止まらない。


決闘が上手く行かなかったら即その場で戦争開始になる。


だから全軍を引き連れて隣国ザザランとの中間地点にあたる決闘場所に行軍してるんだろうな。


俺はなるべく人類の数が減らないように立ち回る必要がある。


ムルの肩に留まって行軍に加わった。


休憩を挟みながら1時間程で砂漠地帯を抜けると、乾燥した大地を進むようになった。


赤褐色の巨大な岩があちこちに見られ幹の太い黄色い葉を付けた木が所々に見られた。


そしてくすんだ黄色の草花が群生している場所までやって来ると行軍が止まった。


休憩かなと思ったが、空から周囲の様子を見ると前方に大規模な人の集団が見えた。


大方は馬に乗ったフルプレートの武装した兵士と黒いローブを着た闇の教団の信徒で構成されている。


向こうの集団の中央には王冠を被った派手な青を基調とした恰好の爺さんとトルジスにラサヤが居た。


両軍は距離を置いて立ち止まると数名が集団から出て両軍の中間地点へと進んだ。


集まったのは両国の国王と護衛の兵士、ムルとトルジス達闇の教団の面々、ダンと仲間達、ヒリリとその手綱を持つ坊主のエルナッド、ザザランの代表者と思わしき戦士の男だ。


表面が平らで磨かれた石の台座があり両チームは石の台座を挟んで向かい合うように立ち並んだ。


先にニパカラ女王が口を開く。


「よくぞ来たものよな!外道なザザラン共!陰湿なお前等は家に籠って戦を放棄するものと思っていたぞ!」


カレルザトヤの護衛兵たちがわざとらしく笑う。


言われたザザランの年老いた国王は余裕の表情で言葉を返す。


「馬鹿な侵略国家が何をほざいておるのやら、儂らは被害国だ!事あるごとにカレルザトヤのクズ共が国民を襲って殺し資源を奪い去ってきた!お前等の様な害悪を黙らせて服従させる絶好の機会、放棄するわけなかろう!」


負けじとニパカラ女王が顔に青筋を浮かべて叫び返す。


「相変わらずお前等ザザランは都合の良い一方的な主張しかせんな!我が国は国土の大半が砂漠で資源が無いというのにお前等は足元を見て理不尽な関税と価格を吊り上げ貿易で戦争を仕掛けてきたではないか!全てはザザランのせいだ!」


「元を辿れば盗賊を放置して儂らの民に迷惑をかけてきたカレルザトヤが全ての元凶だぞ!」


「だからそれはザザランが資源を独占してるからではないか!」


「いいや!民度の低い蛮族国家のせいだ!」


「その考え方が陰湿で差別体質を生むのだ!我らが潰して支配してやる!」


「望むところだ!儂らが今日ここで完膚なきまでに叩き潰してくれるっ!」


熱くなってるなぁ。


戦の前にトラッシュトークで盛上げてくれた。


本人たちはそんなつもりじゃないのだろうけどな。


両国のトップがそう吐き捨てると、ムル達闇の教団の面々が台座の近くに集まり、遅れてダン達もホロタを回しながらやって来た。


ムルの肩に留まっていた俺は地面の草叢に移動した。


代表してムルがドスの効いた低い声で説明する。


「両国の被害を最小限にする為、我々闇の教団が此度の戦いに関与して執り行うこととなった、これより此度の戦の形式と詳細を説明する…」


ムルが丁寧に喋り、代表戦で決闘する形式であることと小人バトルの説明をし終えた。


「──決闘に負けた国が勝った国の要求を受け入れるものとする、それも含めて今説明したルールに関して両国共に同意の書類を提出して貰っている」


ムルがダークレヴェナントから書類を受け取るとダン達が回してるホロタに見せるよう掲げ、両国の国王にもそれぞれ見せるように掲げた。


「では代表者と術者は前へ」


カレルザトヤの護衛兵が鉄製の小さな檻を持ち出すと質の良い豪華な装備で身を包んだ護衛兵長が檻を開けて中に入っていたチャノを取り出し石の台座付近まで進み出た。


ザザラン側からは紺色の髪を後ろに流したヒューマンの青年が前に出た。


青年は銀のグリーヴスとガントレットだけ装備しており白いシャツに焦げ茶色のズボン姿で腰には剣を帯刀していた。


外部から連れて来たのかザザランの兵士と恰好が全く違う。


青年はまるで食事でナイフとフォークを扱うみたいに腕を曲げて胸のあたりで手をだらりと下げている。


そして聞こえないがブツブツと独り言を呟いていた。


青年に続いてデカい体格をした闇の教団の信徒が進み出た。


「なっ、闇の教団が決闘に参加するのはルール違反だ!」


ニパカラ女王が抗議した。


ザザランの王がニタリと笑う。


「ルールでは"両国が闇の教団に協力要請することを禁止する"とあるだけで信徒の方が志願した場合は違反にならないのだ!」


ムルもザザランの王に頷く。


「ザザランのヤカルビッシュ王が言う通り、信徒が個人的に志願したのなら問題無い。先に言っておくが闇の教団はどちらの味方でもない、ヤカルビッシュ王がより正確にルールを把握していただけだ」


「くっ……、ならこっちも…」


ニパカラ女王がわざとらしくヒリリとエルナッドの前に仁王立ちし強烈な眼力で圧力を掛けた。


「あ、あー申し訳ございませんが、ザザラン代表の信徒から多額の借金をしておりまして…」


ニパカラ女王はエルナッドから視線を外しヒリリを見た。


ヒリリは明後日の方向を見ながら口を開く。


「私がやる…」


「そう!貴方が個人的に志願したのなら仕方無いねぇ!」


ニパカラ女王はエルナッドからロープをひったくって拘束を解きヒリリを選出すると、既に石の台座付近まで来ていた護衛兵長を後ろに戻した。


俺としては兵士と覚醒した闇の教団の信徒にそこまで差は無いと思う。


名のある冒険者や凄腕の騎士は既に俺達に挑んで死んでるはずだから、闇の教団に対して強者のイメージがあるんだろうな。


すれ違い様に護衛兵長からヒリリへチャノが渡される。


この茶番を見てザザランの王ヤカルビッシュが鼻で笑う。


「フッ、そんな即席のペアで勝てるとでも思っているのか」


「あらあら、そっちこそ見た事無い連中だけど大丈夫かい?どうせ名も無い三流の傭兵でしょ」


ニパカラ女王も言い返す。


「なわけあるかい、そこの闇の教団の者は武術大会3連覇のスキルマスターであるし、こっちの傭兵は10歳でエピックランクの冒険者となった逸材だ」


「それがどうしたのさ、こっちだってデーモンの魔王と契約した魔女がいる」


ニパカラ女王とヤカルビッシュ王の口論が続く中、代表に志願したという闇の教団の男がヒリリに一歩近寄り話しかけた。


「よう、ヒリリ、久しぶりだなぁ」


男がフードを取って顔を見せた。


褐色のスキンヘッドで眉毛も無かったが口の周りに整えられたブロンドの髭があった。


しかしヒリリは無視し明後日の方向を見たままだった。


「無視してんじゃねぇ!オレ達のアジトで世話してやったっただろうがよ!なのにオレから宝をパクって消えやがって!この恩知らずのクソガキがぁ!」


なんかエルナッドとかいう坊主も似たような盗難話を言ってなかったっけな。


「…」


ヒリリはそこまで言われても何の反応も示さなかった。


「オレ達が勝ったらしっかり利子分まで返済して貰うぜぇ、ヒリリ!お前の身体でなぁ!」


またコイツもヤリ目かい。


ヒリリはモテるんだなー。


騒がしくなってきたところでムルが先に進める。


「ザザランの小人要員はこちらに来い!」


呼ばれて褐色スキンヘッドの男がムルの所へと足を運んだ。


「よし、じゃあヒリリはこの男に小人魔法を放て」


それまで明後日の方向を見て居たヒリリが急に機敏な動きを見せ素早く小人魔法を繰り出した。


褐色スキンヘッドの男の足元に魔法陣が出現し黒いローブと身体が縮小した。


「では代表者は中央の台座へ…」


「ムル支部長!あの者はサイズがまだ小さくなりきって無いじゃない!もう一度小人魔法を掛けて貰わないと不公平です」


ニパカラ女王が必死だ。


よく見るとスキンヘッドの男は小人魔法を受けてもチャノの2倍の大きさだった。


これは小人魔法が闇の儀式による覚醒で手に入れたから同じ闇の者に対して効果が薄まったのではないかと思う。


「なりませんぞムル支部長、ルールでは"小人魔法で小さくなった者を戦わせる"とあるのです、既定のサイズなど決められていないのですから既に小さくなったマレスキンはもう十分かと」


「そうだな、ヤカルビッシュ王の主張が正しい」


「そんな…」


「代表者4名は中央の台座へ!」


ヒリリとチャノ、マレスキンというスキンヘッドの信徒と傭兵の青年が台座に集まった。


そしてここでダンと仲間達が出て来た。


「それじゃ決闘前にこの1曲、"伝説の夜明け"いってみよう!」


ダンがそう言うと、仲間のホロタから音楽が流れ、闇の教団の黒いローブを着た美男美女が石の台座周辺で踊りながら歌い出したのだった。


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