61 肌の人
「どうやって鍛えるつもりだ?」
鍛えてもそのまま行ってくれても俺はどっちでも良いが、ムルが女王を脅して説明している間の時間稼ぎが必要だ。
「…」
俺がチャノに問いかけるもだんまりだ。
絶望してるのもあると思うが、モンスターと契約して力を手に入れただけの人間が効果的な鍛錬なんて思いつかないよな。
「オッパイの育て方分かるよ!こっち!」
どっちの意味だ。
ヒリリが南の都市方面へと進む。
捜索中の鼠ライダーが見えるとヒリリはおんぶ紐にチャノを固定して砂に潜り地中から通り越した。
俺は空からヒリリを追う。
チャノからしたら砂に潜られるの拷問でしかないからな。
死なないようにヒリリが調整してくれると思うけども。
何事も無く都市へと戻るとヒリリが捜索中の鼠ライダーに小人魔法を仕掛けた。
赤ん坊サイズにまで小さくなった6本足の鼠と鼠ライダーを白い手袋を嵌めた手で掴んだ。
「そんなの捕まえてどうするんだ?」
俺が聞くとヒリリは嫌な笑顔を見せた。
「こうするの」
建物の隙間に落ちているデフォルメされた木のスポンジみたいな物体に鼠ライダーと6本足の鼠を放り投げた。
木のスポンジに触れると、必死にもがく鼠ライダーと鼠の肉体が液状化し装備を残して全て吸い込まれていった。
何でこんな危ない物体を放置してるんだよ。
このデフォルメされた植物のスポンジっぽい物体ってそこらじゅうに落ちてるんだよな。
撤去出来ない理由でもあるのかな。
無意味に信徒が減ってほしくないんだけどな。
国の安全を心配していると、ヒリリが落ちてる大き目の石を拾って先程鼠ライダーを吸収した木のスポンジに投げた。
木のスポンジは石を吸収することは無く、そのまま石が命中してベコンっとスポンジの幹が凹むと、枝の部分からベージュの液体を垂れ流しながら石の衝撃で倒れた。
ヒリリがおんぶ紐に固定させていたチャノを取り出して地面に落ちているベージュの液体にチャノの手を無理やり押し付けた。
「ま、まさか、止めなさいっ!」
抵抗しようとするもチャノの手に液体が吸い込まれていった。
チャノはヒリリに握られながらも注意深く自身の全身をチェックしている。
「で、何をしたんだ?」
「こ~れっ」
チャノの髪の毛をどけて背中を指差した。
チャノの赤いドレス風ローブは背中の上部が開いたデザインで薄いピンクの肌が露出しており、その肌にはカラデア種の全裸の男と六本足の鼠がタトゥーの様に描かれていた。
そして男と鼠は周囲をキョロキョロと見渡しながらチャノの背中で歩き出した。
鼠はチャノの右腕をグルグル回り男は首の後ろまで移動すると髪の毛との境目を凝視している。
「こいつら生きてんの?」
「そうだよ。肌に人を飼うのが今流行ってるんだ」
「もぉー最悪ぅ!こんな男を飼いたくない!今すぐ消してよ!」
チャノが胸元の皮膚を徘徊する全裸の男を見下ろしながら叫んだ。
「無理だよ、タトゥーは一生消えない。死んだら消えるけどね」
クスクス笑うヒリリをチャノが涙目で睨み付ける。
「このガキっ殺してやるっ!」
ヒリリの手袋が妨害しているのかチャノの両手には紫の火花が微量発生したのみで攻撃には至らなかった。
「無駄だもーん、オッパイはヒリリに乱暴出来ませーん」
ヒリリの煽りを受けてチャノが暴れる。
相変わらずヒリリの拘束を突破出来ないチャノを見るに強くなって無さそうに思えた。
「そんなので強くなったのか?」
「絵の人が支援してくれるよ」
「どうやって?」
「ほら見て」
ヒリリがチャノの右腕を指差した。
どうやって手に入れたのか分からないが、鼠が大きなアーモンドみたいなどんぐりを手に持っている。
鼠がアーモンドどんぐりをかじるも食べれなかったみたいでポイっと放り投げた。
するとアーモンドどんぐりが光の絵になって消えチャノの身体が淡い青の光に包まれて、砂泳ぎという名の拷問で疲労した肉体が回復していった。
「面白いな」
まるで2Dゲームで回復アイテムを使った時みたいだ。
「でしょ、もっとオッパイに入れてあげようっと」
将来の信徒の数が減るのではと思ったが、ギリギリ死んでないし許容することにした。
「きゃあああっ!」
ヒリリがニマニマ顔で次なる絵具の素を探していると、突然チャノが叫び出した。
見ると背中に切り傷があり血を流している。
傷口付近に大きなナイフの絵があったが光の絵になって消えた。
チャノの背中の皮膚で胡坐をかいて座っている全裸の男が傷口を見てポカンと口を開けていた。
「あっちゃ~ハズレが出たね」
いや出たねじゃなくて、ダメじゃん。
今のは元鼠ライダーの男がナイフの絵を投げたんだろ。だから背中に傷が発生したんだ。
チャノにとってマイナス要因でしかないな。
回復アイテムが出るとしても危機的状況で自傷アイテム出たら死に直結する。
他にどんなアイテムが出るのかは知らないけど、このタトゥーはリスクの方が高いと思うけどな。
そんな俺の所感などつゆ知らずヒリリはノリノリで人を襲う。
「ど、どうなってんだっ!身体が縮んで…」
野菜や果物が沢山積まれた荷台の座席に座っていた髭面のおじさんが小人になった。
ヒリリが髭面のおじさんを掴み近くの細いスポンジの木に投げる。
つばの広い帽子と砂まみれの皮製オーバーオール等の服を残してスポンジの木に吸い込まれた。
スポンジの木に石を投げて汁を出させ、チャノを押し付けて汁を取り込ませた。
チャノの左腕に髭面のおじさんが全裸で描かれている。
ウロウロする髭面の全裸おじさんは無視してヒリリは出会う人全員を片っ端から捕獲しチャノの身体に入れていった。
もう空は暗くなっていた。なんだかんだで長い時間付き合ってやってたみたいだ。
「オッパイおしゃれ!」
チャノの身体中に動く全裸の人間タトゥーがうじゃうじゃと居た。
顔にまで人居るし。
明らかにやり過ぎ感があるが、チャノ本人はというと。
「ひぃぃっ、もう堪忍してぇ~」
白目で涙を流し痙攣していた。
10秒に1回のペースでアイテムのタトゥーが生成され何らかの効果がチャノを襲っているのだ。
「ところでさ、この変な植物は何なの?」
ボールのアイテムを引いて頬にボールをぶつけられたような衝撃を喰らったチャノを放って置き、俺はヒリリに聞いてみた。
「闇神様の眷属が1か月ほど前にこの国で暴れてから自生していた植物が絶滅して代わりにこんな変な植物が発生するようになったの」
俺達のせいだったのか。
まあそうだよな、異世界とはいえ自然現象であんな根を張らない植物が生えるわけないもんな。
「だよなー」
たわいもない会話をしつつ、もうそろそろムルの話も終わった頃だろうと思って別れを告げようとした時に前方から闇の教団の信徒達が通りかかった。
どこか幅を利かせたような歩き方で剣やナイフの刃物を手に持ち周囲を威圧する様な態度だった。
闇の教団の信徒達は5人の集団だったし、ヒリリは同じ信徒だった為か攻撃しなかった。俺にはそう見えた。
すれ違い様に深くフードを被った猫背の男がヒリリに向かって叫んだ。
「おい小娘っ、挨拶も出来ねぇのかっ!」
ヒリリは立ち止まり振り返って猫背の男を見て言った。
「何で?」
「おいおい、何も知らねぇのかお前は!俺達は教団の先輩なんだよっ!」
猫背の男が黒いローブの上部に縫い込まれたデフォルメされた俺のマークを指差す。
ヒリリのと比べると、マークの位置が違う。
生産したタイミングで若干の差があったんだろうな。
「闇の教団にそんなルール無いよ」
ヒリリはそう言うと背を向けて歩き出した。
猫背の男達はヒリリの前に躍り出て行く手を塞いだ。
「いやある!ローカルルールってヤツだ!」
無いだろ。
先輩を敬うなんて風習は俺達には無い。
でも配下じゃない人間の闇の信徒達の間ではそういうルールがひとり歩きしてる可能性もある。
だから訂正はしない。
「あっそ、じゃあ今度会ったら手ぐらい挙げてみるよ」
「は?ふざけたこと言ってんじゃねーぞクソガキがぁ!同じ信徒だからって調子こいてんじゃねぇ!」
猫背の男がナイフで襲いかかろうとしたが一番背の高い坊主の男が制した。
「まあ待て」
「エルナッドさん!こいつは…」
エルナッドと呼ばれた坊主の男が猫背の男を押しのけてヒリリの前に出た。
「キミ、覚醒者だろ?オレもなんだ」
ヒリリに掌を見せる。
坊主の男の掌は闇の粒子で覆われていた。
「覚醒者?」
ヒリリが首をかしげる。
「闇の儀式でなんらかの能力を授かった者のことをそう呼ぶんだ」
「私も力を授かってる」
「素晴らしい。それは珍しいことなんだよ、授かる能力は地域によって似てたりバラバラだったりする。より強力な力ほど珍しい。それでオレとお前はどっちが珍しいんだろうな?」
坊主の男がヒリリに掌を近づけると触れても無いのにヒリリが吹き飛んだ。
肩に乗ってた俺は上へと逃げる。
衝撃でチャノがヒリリの手から飛び出し猫背の男の足元に落ちた。
「何だこのキモイ人形は?」
猫背の男はブーツでチャノを踏みつけ地面に血が流れたのだった。
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