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6 モク爺の話とダークウォーカーの初陣

「儂は仙星(せんせい)人のジジイに過ぎません、イリ様にとっては取るに足らない小さな存在にございます」


そう話すモク爺の眼が俺を探るように一瞬光ったような気がした。


「仙星人とはどのような人種なんだ?」


モク爺は右手の人差し指を振り、七色の衛星達を指先に集めた。


「このような星導術という力を扱えるのが仙星人なのです」


術を使うのか。


特定の人種にしか扱えないなら、かなり珍しい術なのだろうな。


俺は貴重な体験をしているのかもしれない。


「だから地下牢で(はりつけ)にされていたのか?」


モク爺は俺から視線を外し、深い呼吸をした。


何か思い出したくない事でも頭に過ったかのように眉間にシワを寄せ唸った。


そしてギュッと目を閉じると一拍置いて目を開け話始めた。


「あれは儂の人生で最大の過ちでした、まさかあの者共とホミヤイ王が通じていたとは思わなかったのです」


「どういうこと?」


「儂は昔から気まぐれで施しを与えておりました。まあ趣味程度でしたが、それが儂のイメージとして定着した頃にホミヤイ王が世界の危機だと騒いで儂に施しを求めたのです」


確かホミヤイ王というのはこのホースクト王国の国王だったよな。


そのホミヤイ王がモク爺を捕らえるよう命令した張本人だということまでは聞いた。


モク爺は険しい表情で話を続ける。


「それはただの口実でした。ホミヤイ王の真の目的は直接会って儂を捕縛する事だったのです」


悪い王様だな。


「モク爺がそう簡単に捕まるとは思えないんだけど」


「そこです、問題なのはあの者共とホミヤイ王が取引をしていたことでした。あの者共から蛇を譲り受けて儂を捕らえることに成功したのです」


あーそう言えばモク爺が磔にされていた時に赤黒い蛇に噛まれてたよな。


「あの者共って何者?」


「イリ様を悩ませる()のことです、儂らからするとこの世界に不要な害悪そのものですな」


俺自身が闇なのに俺が悩む闇って言葉遊びが過ぎるぞ。


何のことかさっぱり分からんが、モク爺が激しく嫌っている存在達だということは察している。


「強いの?」


「儂にはちと荷が重い連中でしたが、今はイリ様がいらっしゃいますし儂にもイリ様から得た新たな力がありますからな、戦えばどうなるかわかりません」


モク爺でも手を焼く連中か。


「あの蛇はモク爺が倒したんだろ?」


「いえ儂は蛇が離れたおかげで力を取り戻し…ハッ、まさかっ!!」


突然モク爺が叫んだ。


「イリ様が蛇を滅して下さったのではないのですか!?」


「いや俺は何もしてない。モク爺が俺の闇を取り込んだ後、球に群がる番兵を倒しに行った」


「探さなくては!あの蛇は儂の力、つまりは星の力を吸い取って逃げよったのです!イリ様は見かけませんでしたか?」


モク爺が配下になってから蛇は見かけてない。


今言われて奥の壁付近を見ても蛇は見当たらなかった。


「見て無いな、マップにも侵入者は映って無かったぞ」


モク爺の膨らんでいた気持ちが目に見えて(しぼ)んでいく。


「あの蛇は生物ではなくアイテムなのです。マナで動いておらずゴーレムやエレメントとも違った存在であるからしてダンジョンコアのマップには検知されません」


マナって球が言うには全ての存在が保有してるらしいけど、アイテムは違ったみたいだな。


「モク爺の力を吸収した蛇が逃げたことがそんなにヤバイ事なのか?」


「あの者共に渡れば世界が崩壊するやもしれません」


「それは俺のダンジョンにとって脅威となりうることなのか?」


少しの間、モク爺が雷に撃たれたかのような顔をしてこちらを見たまま固まった。


「偉大なる闇のイリ様であれば、少しの問題で済みましょうな」


俺だからじゃないだろ。俺戦えないんだし。


それにモク爺の言ってる事は世界の救済だろ。


俺達の現状と少しズレてる。


「なら良いじゃないか、この件はモク爺に任せて俺は別件にあたる」


わけわかんないんだよね。


モク爺の言うあの者共ってのも、蛇とかもそうだしモク爺が何で英雄的行動をしようとしてるのかも全部わからん。


ただ世界が闇深くなるというのならそれは今の俺にとって少し心地よい事なのかもしれない。


むしろ面白そうにも思えてきている。


なにせ俺は闇の魔王マヨミヤイリなのだから。


「…(かしこ)まりました」


モク爺が何か言いたそうな顔をしたがすぐに消し軽く頭を下げた。


「警告、侵入者を検知しました」


球が警報を発し変になってしまった空気を一変させてくれた。


マップを確認すると侵入者は様々な武装をした4人組の人間だった。


弓を背負った軽装備の男に宝石を嵌め込んだロッドを持つ長いローブ姿の女、両刃の剣を腰にしたフルプレートの性別不明な者と白いシャツに革の靴とベストを着てフードを深く被った丸腰の女の4人。


「これは冒険者達ですな、ギルドが依頼を出すには早いですから偶々近くに居た連中が様子を見に来たのでしょう」


「どのくらい強いんだ?」


「ギルドが制定していたランクで表すならばエリート程度でしょうな」


「ダークウォーカー達をランクで表すとどの程度なんだ?」


「はっきりとは分かりませぬ、何せこの世界に先ほど誕生したばかりの新種ですからな」


こいつ等新種だったのか。


人間のエリート相手にダークウォーカーはどこまでやれるだろう。


まだDPで良い装備をあげれて無いが、素の力を試してみても良い。


「なら試してみようじゃないか」


俺はこの部屋の入り口で待機している6体のダークウォーカー達に侵入者の討伐を指示した。


まさに闇人間という見た目のダークウォーカー達は番兵だった頃の装備そのままで移動を開始する。


その動きは微妙に誤差はあれど全員同じであり、無駄を削いだ人の所作みたいだと感じた。


ダークウォーカー達が階段を上って行くのを見届け、俺とモク爺は球の所に移動してホログラムのマップから見物する。


冒険者達は西からこの部屋の位置より少し北を目指して進んでいることをダークウォーカー達には伝えてるものの、すれ違うということも有り得る。


どうなるか見守っていると、荒れ果てた地上の大通りで冒険者達とダークウォーカー達が遭遇した。


目撃するや否やダークウォーカー達が腰にしていた鉄製の剣を抜き冒険者達に襲い掛かる。


ホログラムから音は聞こえないがフルプレートの者がダークウォーカー達の方へ指を差した後、ワンテンポ遅れて冒険者達も武器を構えお互いの距離が一気に縮まった。


最初に仕掛けたのはフルプレートの剣だ。


フルプレートがその重装備からは想像がつかない程ダイナミックに動き剣筋がフラッシュする剣技を近くのダークウォーカーに披露するも剣で受け流され反撃の隙を作ってしまう。


遠くから軽装備の男が緑の光を纏った矢を放ち反撃しようとしたダークウォーカーに命中させ動きを止めた。


間髪入れずに青いローブの女がロッドを振るうとダークウォーカー達が居る石畳みの地面が破裂し4体が吹き飛んだ。


丸腰だったフードの女がサッと短剣を構え素早い動きで奥のダークウォーカーに接近すると瞬時に背後を取りヘルムの隙間に短剣を突き刺した。


沈黙する6体のダークウォーカー達。


弱っ。


見てられねーな。


そう俺が思ったのを察してかモク爺が口を開く。


「勝負はまだこれからですぞ」


そう言われてマップに視線を戻すと、ダークウォーカー達が何事も無かったかの様にキレのある動きで冒険者達に剣を振るっていた。


さっきと違ってダークウォーカー達の剣が届く距離に入ってしまったフードの女とフルプレートの者がダークウォーカー6体を相手に防戦一方だった。


フルプレートの者が見た事無い光る剣技を繰り出してもダークウォーカーは受け流し、別の角度のダークウォーカーが隙を突いて鎧の隙間に剣を刺し込もうとする。


フードの女は距離を置こうと逃げ回りダークウォーカー3体が追う。


一方で後方の弓男は火の矢や氷の矢などをダークウォーカー達に命中させ動きを鈍らせるが致命傷までは負わすことが出来ず、青いローブの女は火の玉や飛び移る紫の電撃等の小規模な攻撃ばかりで大したダメージにはなっていなかった。


しかしダメージは確実に蓄積しているようでダークウォーカー達の動きも次第に鈍って行く。


負けじとダークウォーカー達もフルプレートの者とフードの女にターゲットを絞り猛攻を集中させ手痛いダメージを負う前に人数を落とそうとしていた。


そしてとうとうフルプレートの者が剣を地面に落とし前から倒れ伏した。


続いて6体を相手しなくてはいけなくなったフードの女がダークウォーカーに捕まり首を刎ねられる。


弓男が何かを叫び、青いローブの女と逃げようとするも体力が減ってしまっていたからかダークウォーカーがすぐに追いつき斬り伏せられたのだった。



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