59 カレルザトヤ王国
まさか闇の魔王が人類の戦争を止めるのか。
冗談みたいなことを実際にやらなくてはいけなくなった。
戦争なんてやらせたら大勢の人が死に未来の信徒の数が減る。
「戦争の相手は?」
「お隣のザザラン」
ヒリリにザザランについて聞いた。
ザザランはここカレルザトヤ王国の東隣にある国で南が海に面しており漁業と音楽が盛んな国だそうだ。
常々歴代の王達は侵略の隙を伺っていたが大陸中央の聖王国が世界の警察みたいに目を光らせていたのとザザランとの間にある強大なトロールのダンジョンがあったので攻め入ることが出来なかったのだとか。
それが最近になって聖王国とトロールのダンジョンが俺達によって潰されたため国王がこの機を逃すまいと意気込んで軍を動かそうとしているとのことだった。
「ちょっと戦争止めに行くわ」
「ピーに出来るの?」
「俺達、闇の教団の関係者ならな」
俺はカレルザトヤの支部長に指示するだけだけどな。
「そっか、じゃあまたねー」
「もしヒリリの小人遊びがホロタにアップされたら見てみるからな」
俺はダークウォーカーと鼠に支部へ戻るよう指示してから飛び立った。
暫く南へと飛行すると小山が続いていた砂がなだらかになり建物と目がチカチカするような色合いのデフォルメされたような植物が見えて来た。
人も沢山見える。
どうやらカレルザトヤの都市のようだ。
少し進んで都市の様子を観察した。
民家の様な建造物は無く、地面を逆ピラミッド型にくり抜かれた場所が沢山見られた。
くり抜かれた地面の内側は段々畑のように段差が出来ていて側面には等間隔で扉が並んでいる。
地下の集合住宅みたいだった。
戸口の前の正方形にぐるりと敷かれた通路には荷台の前で商人達が住民と商談をしている。
逆ピラミッド型の集合住宅が密集しているエリアから少し離れた広場には地上に建てられた建物もいくつかあった。
建物の間や乾いた砂の地面には都市の外でも見られた、絵本に出て来そうなデフォルメされたような植物が数多くあった。
切り株だったり花だったり大きさも種類も様々だがどうも変だ。
デフォルメされたデザインだというのも変だが倒れてたり日陰等の生えるにしてはおかしい場所に存在している。
高度を低くして見ると、植物達はスポンジの様な質感をしていた。
だれかが作ったのかと思った。
でもこんなのを作る理由が見つからないし、人々はこのスポンジみたいな植物を避けて生活しているように見えた。
奇妙な植物を見ながら進むと都市で一番大きな建物が見えた。
大小様々な塔が合体したような巨大建造物で、その前には大量の鼠ライダーと武装した戦士達が居た。
おそらく軍隊だ。
軍隊は別の集団と対峙していた。
それは黒いローブを着た闇の教団の信徒達だった。
騒動の中央では指揮官らしきオレンジ色のマントを着た鼠ライダーが闇の教団の信徒に向かって怒鳴っていた。
俺は近くにあった鼠の石像の上に留まり耳を傾けた。
「お前等が魔女を誘拐したことは分かっている!誘拐犯と共に我が軍へ引き渡して貰おうっ!」
黒いローブ集団に何体か混ざっている緑色の半透明なゴースト達の中で巨体の戦士ナイトダークレヴェナントが代表して答える。
「闇の教団と関係の無い連中から指図は受けない!我らの邪魔をするならば殺してやるっ!」
おいおい、殺し合いはダメだぞ。
なんとかそうならないように知恵を使って欲しいが、この地域を担当している配下はカズヤの手下のゴースト達だ。
カズヤに似て攻撃的で荒っぽい。
きっと何も考えず暴力で解決しようと思ってる感じがする。
ナイトダークレヴェナントの軽はずみな言動に業を煮やした様子の軍隊達は今にも襲い掛かろうという表情をしていた。
俺が止めに入ろうかと思った矢先、軍隊の後ろにある巨大な建造物から護衛付きの女が出て来た。
女は短い茶髪と黄緑の肌をしており、白いドレスを着て様々な金のアクセサリーを身体のあちこちに装着し頭上には金の王冠があった。
「城の前で馬鹿騒ぎをするんじゃないよ!」
女の一言で軍隊は気を鎮め一歩引き下がった。
「ニパカラ女王であっても闇の教団の邪魔をするならば容赦しないっ」
ナイトダークレヴェナントの態度は変わらなかった。
この女がカレルザトヤの女王なのか。
「我が国の戦争に協力してくれれば闇の教団への支援を惜しまないとムル支部長と約束したんだよ、だから軍の主力を担う魔女を誘拐するのは違反行為だろう!」
ムルか。
確か最近カズヤの側近になったダークフィアーという種族の者だな。
カズヤの側近は前から第四進化の種族だったトルジスとラサヤだったのに爆速で進化して側近まで上り詰めた第五進化の個体が居たから覚えていたんだ。
「ムル支部長から魔女を奪う命令など下っていない!我々は魔女などに興味は無い!」
あれ、魔女ってもしかしてヒリリが玩具にしてる小人の女かな。
まあヒリリがおっぱい好きという個人的な理由で攫っただけだろうから闇の教団自体は関与してないよな。
「軍の兵士より目撃情報が入っているんだ、闇の教団の小娘が小人魔法を使って攫ったってねぇ!」
やっぱりヒリリが犯人だったな。
しかし困ったぞ。
戦争はして欲しく無いが、その後で国が闇の教団を支援してくれるというのは大きい。
戦争で失う両国の人数とその後の支援で増える信徒の数、どちらが多いだろうか。
ベストなのは戦争をこちらがコントロールしてなるべく被害を出さずに勝敗を決めてくれたら良いんだよな。
ニパカラといかいう女王がムル支部長と約束したのは戦争の協力であって勝利じゃない。
ぶっちゃけ戦争相手となる隣国のザザランにも闇の教団支部があるしどっちの国が勝とうが俺達には一切関係無いんだ。
「個人の犯行であって闇の教団は関与していない!これ以上我々を違反扱いするならば今すぐ闇の力で消してやるぞ!」
「そうかい、なら王国の軍で探し出して攫った犯人はアタシの判断で処罰するからね!」
ニパカラ女王が指示を出し多くの兵士がヒリリを探しに散って行った。
ヒリリは直に見つかってしまうだろうな。
俺は敢えて口出ししなかった。
女王に俺が一言言えば済むかもしれなかったが、俺は抜き打ちで視察に来ただけだ。
これから先、多くの摩擦や障害があったとして毎回俺が出張って女王を脅すわけにはいかない。
ここは支部長のムルを介すべきだ。
俺は飛び立ち支部の拠点を探した。
城下町を越えた辺りにポツンと建てられている教会があり扉には俺をデフォルメしたマークが描かれていた。
扉の両脇に立って居る門番みたいなナイトダークレヴェナント達に声を掛けた。
「中にムルは居るのか?」
角のヘルムを被った戦士風のナイトダークレヴェナント2隊が瞳の無い眼でこちらを見上げて睨んだが、俺だと気が付き慌てて扉を開けた。
「は、はいっ、ムル支部長は中にいらっしゃいますっ」
俺はカレルザトヤ支部の教会内部へと入った。
入口の両脇には俺が作った物販がカートに陳列されておりダークレヴェナントの販売員が信徒と会話をしている。
先に進むと長椅子が幾つか置かれ多くの信徒ではない一般人が座っている
奥には儀式用と思われる骸骨や血があしらわれた祭壇が3箇所もあり、周囲の地面には複雑な文字と図形で埋め尽くされたサークルがいくつもあった。
中央の祭壇には顔だけ半透明の緑色をした大男のムルが居た。
モンスターの鋭利な牙を上下に噛み合わせたマスクを口に装着しており顔と同じ半透明の緑色をした液体がドクドクとマスクの牙の隙間から漏れ出ている。
頭には頭髪のように太い触手を何本も生やしおり触手には目と口のような穴がいくつも開いていて叫んでいるような顔がずらりと並んでいる。
鎖帷子と分厚いモンスターの黒革を着ていて下半身は袴の様なふくらみのある傷だらけで破け放題な黒革のボトムを着ていた。
腕や足の裂けた黒革の隙間からはツギハギだらけの傷んだ肉が見えた。
「──闇に捧げるのだぁ、深淵よりも深い闇は全てを飲み込み汝らを解放するだろう…」
ムルのドスの効いた低い声で話す演説を遮り俺は後ろの祭壇の最上部に留まった。
「話してるとこ悪いがムルお前戦争の事知ってたか?」
俺に気が付いたムルがスマートな動きで俺の方を向き跪いた。
「これは闇神様、ようこそおいで下さいました!この国が戦争を始めようとしていることは知っております」
やれやれ、ムルは俺の意図を汲み取ることが苦手みたいだな。
「将来の信徒の数が減るから戦争はなるべく止めなければならない。しかしだ、ムルがこの国の女王と約束をしたそうじゃないか」
「はい、闇の教団のメリットになると思い女王に協力すると約束いたしました」
「もし戦争を止める事が出来ないにしても条件をそのままにするんじゃなく人類の数が減らないように工夫するべきだった」
「申し訳ござません…」
「改善点が発覚したものの、幸いにもまだ戦争は始まっていない。今すぐ俺の案をニパカラ女王にのませるんだ」
「は、はい、どのような案でしょうか」
「小人バトルだよ、国を代表する小人同士で代表戦の決闘をさせるんだ」
キョトンとするムルに俺は詳細を説明したのだった。
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