58 人間遊び
最初見た時は無視しようかと思った。
闇の教団のカレルザトヤ支部と地域の状態を確認しに来ただけだし、時間が勿体ない。
ところがこの砂だらけの場所にまた何者かが現れた。
「止まれ!その女を返せ!」
そう叫んだのは六本足の鼠に跨る戦士風の男だった。
男は軽くて硬そうな紺色の素材を使った軽装備姿で口元を布で覆い頭頂部の尖ったフードみたいなヘルメットを被っていた。
跨る鼠は馬並みの巨体で、白くて短い毛がビッシリ身体を覆っているが6本あるピンクの手足には毛が生えておらず蜘蛛みたいに長い。そして手足の先には鋭い爪があり水かきならぬ砂かきと呼ぶべき膜が指の間に生えていた。
鼠の背中には鞍があり砂の海で猛進しても男は安定して騎乗している。
砂の上を移動しているのに鼠はかなり速かった。
なぜかその鼠より若干少女のクロールの方が速い。
男が腰から青紫色のワンドを取り出すと杖先を少女に向けぶつぶつと呪文を唱えた。
するとワンドから青黒い電流が放出され少女に命中した。
「い゛い゛ぃっつ!」
「あ゛あ゛あ゛っ!?」
少女と一緒におんぶ紐で背負われた縮小サイズの女にも電流が流れた。
少女は砂の上に立ち上がったが背負われた女は痙攣したままだ。
「馬鹿な!我がスタン魔法が直撃したはずっ」
鼠ライダーが驚きつつワンドを構えて少女に接近する。
少女は鼠ライダーに向き合うとしゃがみ込み砂の地面に右の掌を乗せて左手で右の手首を握った。
黒い文字のサークルが少女を中心とした地面に現れ、鼠ライダーの手前にも同様のサークルが現れた。
「おっと、これが噂の小人魔法だなっ」
鼠ライダーは前方に現れたサークルを迂回し、ワンドの先にバチバチと放電する青いエネルギーの球体を創りだした。
少女は焦りながら黒い文字のサークルを動く鼠ライダーの先々に設置させ続けた。
鼠ライダーは動くと見せかけて立ち止まり、ワンドの青いエネルギー球を少女に射出した。
少女は避けられず腹に青いエネルギー弾が命中し吹き飛ばされた。
「軍人を舐めて貰っちゃ困るな」
うつ伏せで倒れている少女に鼠ライダーが接近する。
もう手詰まりの様に思えた。
まあこういうのを目撃してしまったし、少し時間を使って信徒を助けてやろうかな。
俺は6本足の鼠の頭上に降り立ち鼠ライダーに向かって中指に該当する羽先を立てた。
「なんだこの鳥は」
鼠ライダーがワンドで殴るより先に俺の羽先から闇が噴き出し鼠ライダーの身体に入り込んだ。
「おぉ…」
鼠ライダーの全身が黒い闇に覆われて装備はそのままに闇人間のダークウォーカーになった。
鳥の俺に攻撃手段は無いが闇堕ちスキルがある。
ギョッとした鼠が暴れそうになったので、俺は地面に降りて鼠に中指の羽根を立てた。
闇が鼠に入り込む。
鼠は体毛から手足まで全身が黒くなり尻尾が硬質化して先端がサソリの様な針に変化した。
暴れていた鼠が大人しくなったところで少女が立ち上がり困惑した様子で鼠に跨るダークウォーカーを見た。
「どうなっているの?あなたは闇の教団の信徒になったわけ?」
「そうだよ、こいつは今闇の教団の関係者になった」
ダークウォーカーの代わりに俺が答えた。
眷属化を狙ってるわけでもないし、もう語尾にピーピー付けて言う必要はない。
それに闇の教団の信徒相手だし普通に喋っていく。
少女が驚きながら俺を見た。
「あなたは?」
「俺はピーだ。キミは?」
抜き打ち視察中だから偽名は使うけどね。
「私はヒリリ。ピーは私達を助けてくれたんだよね?」
「そうだとも、ヒリリが闇の教団の信徒だから助けた」
「ありがとう、やっぱり闇の教団に入って良かった」
そう言われてみて俺は少し考えさせられた。
人の素で出た感謝を聞いて俺の感情が揺さぶられることは一切無かったが、人類にとって闇の教団に入ることが本当に有益なのかと疑問に思ったんだ。
闇の教団に入れば俺達に襲われる心配は無いが、闇の教団内部でのトラブルは全部放置してるし、生活を保障しているわけではないので金を稼げなければ飢え死ぬ。
入信儀式の強制力がいかに凄かったとしても、もし不満が蓄積されたら信仰心が弱まる可能性がある。
「俺がもし助けに来れなかったとしたら、闇の教団に対する評価は変わったかな?」
ヒリリは首を左右に振った。
「変わらないよ、だって闇の教団に入って手に入れたスキルのおかげでとっても楽しかったもん」
そう言ってヒリリはおんぶ紐でをほどき、背中の気絶している女を掴み取って両手で握り頬ずりした。
おんぶ紐で分からなかったが、ヒリリに握られてる女をよく見るとシルクの様な質感の赤いドレス風ローブを着ていて茶髪の長い髪と薄いピンクの肌をしている。
そしてドレス風のローブになんとか収まってる大きな胸が特徴的だった。
「その人は?」
「おっぱい」
ヒリリが急にふざけだした。
しかもセンスがおっさん臭い。
「本名は?」
「名前覚えるの苦手ですぐ忘れちゃうんだ、だからこの子はオッパイって呼んでる」
確かに身体の割に胸が大きいけども。
「そうか、じゃあその人はこの辺りに住んでる小人なのか?」
「違う、私が小さくしてあげたの」
そう言ってヒリリはにっこり笑った。
その笑顔はどこか不気味さを含んでいる様に感じた。
しかし俺は面白い少女だと思った。
「それは良い事をしてあげたな」
ヒリリは"してあげた"と言ったが、やられた本人がどう思ってるのかは分からない。
でも闇の教団の信徒が楽しそうにしてるんだからそれは良い事なんだ。
小人の女は闇の教団の黒いローブを着ていないから信徒じゃない。
だから信徒のやりたいことを優先させる。
不公平だと思うなら闇の教団に入信したら良いんだ。
「でしょ、それで色の砂それぞれに効能があるって聞いたから一緒に泳いであげてた」
効能ね、まるで温泉だな。
まあ小人の女は砂まみれで死にそうになってたけどな。
「このピンクの砂にはどんな効能があるんだ?」
「豊胸」
どういうこと??
なんでこんな砂の中に入るだけで胸が大きくなるんだという疑問は一旦忘れて、既に爆乳な小人の女の胸を更に大きくしてどうすんだよ。
それとも口実にして自分の胸を大きくしたいだけなのか。
そらそうか、少女だもんな。
気になる年頃だろうさ。
「あまり大きすぎると大変じゃないのか」
「でもオッパイのおっぱいを限界まで大きくして遊びたいんだもん」
だから言ってる事おっさんだってば。
「そんなことしてオッパイは嫌がって無いのか?」
「知らない、知りたくも無い。どう感じてたとしても私のオッパイなんだもん」
ヒリリは再度オッパイを頬に持っていき頬ずりした。
良い事言うじゃないか。
小人の女の事なんかガン無視で自己中心的な発言だ。
闇の者としては素晴らしいぞ。
闇の教団の信徒ならばそうでなくてはならない。
AI勇者が見た時に混乱してしまうほど、人から逸脱した行動をとってもらわなくては。
「そうだな、じゃあもっとオッパイで遊んでみようじゃないか」
「何して遊ぶの?」
「他の小人と戦わせる、小人バトルとかどうだ。ホロタで撮影して配信とかやれば面白くなるぞ」
「面白そう!」
「あとは人形みたいに手で握った状態で人形劇とかな。さっきの鼠ライダーの仲間をさがして小人にしようか」
笑顔だったヒリリの顔が一転し暗い表情になった。
「それは無理だよ、あの人達はもうすぐ戦争に行っちゃうもん」
は?
今のこのご時世に戦争なんて考える奴が居るのか。
俺達闇の存在が世界を闇の染めようとしている最中だというのに。
「え、戦争?」
「うん、聖王国が闇神様達に滅ぼされちゃったからチャンスだって王様が張り切ってる」
それを聞いて俺は深いため息を吐きながら天を仰いだのだった。
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