56 女神の使徒スワト
「待て、さっきのオススメ動像を表示してくれ。闇の魔王を倒しますとサムネに書かれてたやつだ」
0チャンネルに遷移しようとしていたジェイズを止めてスワトが写っていたサムネを再生するように指示した。
ジェイズが前の画面に戻ってオススメ一覧から探し出した。
投稿日時が今日だ。
しかもほんの1時間程前にアップロードされたばかりだった。
ということはディスランではあの天使に勝てなかったということか。
なら眷属を仕向けるしかない。
しかし眷属にはインフルエンサーの闇堕ちを優先させて欲しい。
俺達には時間が無い。
あのクソAI勇者が転生するまでの約3週間程でより多くの人類を信徒にしなくてはならない。
今、天使狩りなんてやってる場合じゃ無いが野放しにすると信徒にするはずの人類がレジスタンスに入ってしまう懸念がある。
最悪の場合、大勢の人類を殺さないといけなくなる可能性もある。
そうなってはAI勇者が転生して来た時に俺達闇の存在が諸悪の根源だと判断され敵意を抱かれてしまう。
ここは1体だけ眷属を天使狩りに行かせよう。
新たに眷属化させるのも時間が掛かるしな。
俺だって時間あるなら新コンテンツの制作だとか闇の教団の行事なんかを考えなきゃならない。
眷属を新たに増やす余裕なんて無いんだ。
そんなことを考えながらスワトの動像を見た。
ホログラムに教会内部と思わしき空間が映し出された。
奥のロウソクと撮影用の簡素な照明だけが光源になっていて暗いが、よく見ると聖王国で天使と会った教会とは内装が違っていた。別の場所だ。
奥の壁全体が1つの彫刻になっており下部には家畜や作物を持つ人々が片膝をついて祈りを捧げ、中部には翼を広げた天使達が飛び上部には女神と思わしき女性が微笑みながら下を見下ろしている。
そんな壁の彫刻の前には長いテーブルが置かれ赤いテーブルクロスが掛けられていて中央に火が付いたロウソクを何本も蓄えた燭台が置かれている。
そしてそのテーブルよりも前に元聖騎士のスワトが居た。
撮影用の照明がスワトを照らしハッキリと見える。
上半身の鎧だけ外しており使い込んで生成り色ではなくなった麻のシャツ姿だった。
椅子に座って両ひざの上に両肘を置き傾けた姿勢で、撮影しているホロタを真っ直ぐ見ている。
今にも飛び掛かって来そうなほど血走った眼をカッと見開いており目の下には隈が出来ていた。
そして頭上には光輪が浮かんでいた。
「オレの名前はスワト、レジスタンスのリーダーをしている…フーっ、あ゛ーすまないちょっと待ってくれ呼吸が今荒れててな。フーっフーっっフーっっっ」
スワトは撮影しているホロタから視線を外し過剰に深い呼吸をしまくった。
十分呼吸をした後に視線を戻して言葉を続けた。
「あ゛ーすまない、落ち着いて来た。フーーっ、それで…なあみんな、今世界がどれだけヤバイ状況なのか知ってるよな、人類がモンスターに支配されようとしてるんだ。幾つもの国に侵攻して闇の教団とかいうカルト集団を流行り病みたいに蔓延させてるし今やホロタにも侵食している、フーっ」
一旦荒く呼吸し、突如としてスワトが大声で叫び出す。
「いけなぁあああいっ!!!いけないっいけないっいけないっ!いけないんだぁあああああ!!!!」
大丈夫かコイツ。
闇の教団旧聖王国支部で見かけた時はこんなキャラじゃなかっただろ。
どうなっているんだ。
叫んだ後は暫く荒い呼吸を繰り返してから話を再開した。
「フーっフーっ、オレもホロタで見たよ、イリって名前なんだな闇の魔王ぉぉ、プッ」
スワトが斜め下に唾を吐き捨てた。
中々に煽って来るなこの男。
レジスタンスの連中も俺の動像を見てるならもう既にそういう界隈ではそこそこ認知されてきてるってことだ。
今スワトは俺の動像を紹介したようなものだし、良い話題作りになってる。
この調子で多くの再生数を稼いでいきたいところだ。
「全世界に宣言するっ!オレ達レジスタンスは闇の魔王イリを必ず殺すっ!絶対に殺さなくてはならないからぁっ殺すっ!!殺ぉぉおすっ!」
またも呼吸を繰り返してから話を続けた。
「フーっ、本当だ、やり遂げる自信がある。自信があるんだっ!自信がぁっ!オレは女神ラチカ様に選ばれしヒューマンなんだ、今まで闇の魔王に敗れていった者達とは違う。オレは勇者じゃない、ギフトなんかと違ってもっと直接的に女神さまのお力を受け取ってる、ほら」
スワトは頭上の光輪を指差した。
こいつ女神の力持ってるのかよ。
これで強かったら第二の強化人間が現るのを防ぐために女神を殺さなきゃいけなくなるぞ。
実に面倒だ。この時間の無い時に。
「しかしオレだけじゃダメだ、皆の協力が必要なんだ、レジスタンスに入って世界を平和にしよう!いや、しなきゃいけないっ!オレ達の平和ぁぁあああああ!!!!」
急にスワトが勢いよく椅子から立ち上がった。
「まだオレ達レジスタンスの力を疑ってる人も多いよな、わかるよ。でもこれを見てくれたら信じて貰えるはずだ」
スワトが歩きだし撮影しているホロタがスワトを追う。
教会の祭壇とは反対方向をホロタが映し出す。
長椅子の列の先には数名の冒険者によって捕らえられたダークブルという人型の黒い牛が見えた。
ダークブルは金属の手錠を嵌められておりロープで身体を縛られている。
ダークエルフやダークメイジ等のダークウォーカーから進化した、いわば第一進化先がダークブルでクルクの下僕だ。
スワトはダークブルの傍まで行くと立ち止まり撮影しているホロタの方へと向き直った。
「ほら見てくれ!オレ達レジスタンスの力で捕まえた闇の魔王の幹部だ!冒険者ギルドとか国の軍隊では絶望するような存在だがオレ達レジスタンスには不可能を可能にする力がある!希望を抱いてくれて良い!裏切らないっ!」
第一進化先のダークブルが幹部なわけないだろ。
闇の教団支部のポジションでも幹部は無い。
スワトが冒険者から短剣を受け取るとダークブルに向けた。
短剣が光に包まれる。
「みんな見てて!オレに期待してくれぇ!」
スワトが短剣をダークブルの首に刺した。
たまらずダークブルが呻き声を上げた。
「まだまだぁ!もっと見てくれ!!みんなオレのこと好きになっちゃって良いからぁああ!!!」
何度も短剣でダークブルの首や顔を刺しまくり赤黒い血が噴き出す。
「えいっ!この正義伝われっ!こいつめっ!闇の魔王イリにも見られてるんだぞ!みんなこの勇気感じてくれっ!このっこのっ!オレを感じてくれぇぇぇ!!!」
既に死亡したダークブルの頭頂部に短剣を突き刺しスワトが叫んだ。
「みんな諦めるなっ!オレ達レジスタンスが君を待ってる!オレの活躍をもっと見たい生で見たいって人はチャンネル登録とレジスタンス加入よろしくだから!」
スワトは興奮し、ダークブルの頭頂部を何度も何度も刺しまくる。
「オマケでもっと善の力を見せてやるからな!ほらっ!正しいは正義ぃ!オラぁ!オレ平和大好きなんだよっ!結婚してくれ平和ぁああああ!」
ダークブルの血まみれになりながらもまだ刺しまくるスワトを冒険者達が止めに入った。
「スワトが暴走してる!止めろ!」
冒険者達に取り押さえられたスワトに撮影しているホロタが寄る。
スワトは寄り目になっていた。
荒い呼吸を繰り返し口をパクパクさせている。
「…もっとサービスしなきゃだな、オレは女神に選ばれし希望の光なんだから…」
そう言って動像は終了した。
やってくれたな。
ちょっと呼びかけるぐらいかと思ったらガッツリ俺達を煽ってきた。
これを野放しにすると俺達が舐められてしまう。
そうなると闇の教団に入る動機が無くなってしまうんだ。
だから潰しておかなくてはならない。
やられたのはクルクの下僕だ。
クルクは全配下の中で最強。
最近また身体がデカくなってフィジカルが増してる。
オレはジェイズにホロタの操作を指示しクルクとの通話を繋いだ。
「撮影しながらレジスタンスを潰せ、終わったら動像をアップロードしろ」
そう一言伝えて通話を終了したのだった。
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