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52 旧聖王国支部

水色の鳥に憑依した俺は闇のダンジョンを出て聖王国に向かった。


勇者イアが転生してくる聖王国が最も重要。


あと20日程までに聖王国の全住民が闇の教団の信徒になっていなくてはならない。


闇のダンジョンから聖王国までは成体の鳥でも半日は掛かるが最初に確認しておきたい。


跳び続けて空を飛ぶ鳥の気分を十分に味わっているとコアルームの本体に世話係の誰かが話しかけてきたのを感じた。


一旦下降して木の枝に留まり意識を本体に戻した。


視界が山の森からコアルームに変わる。


「どうした?」


一番近くに居たジェイズに聞いた。


「魔王様のホロタに多数の通知が来ております」


今俺は憑依中だから本体には腕が無い。


ジェイズにホロタを操作してもらい通知の内容を確認してもらった。


「どんな通知だった?」


「闇の下僕の方々による闇の教団チャンネルへのクリエイター参加申請です」


なんだそれだけか。


アンチコメントの処刑配信がもう終わったらしい。早いな。


俺が闇のダンジョンを飛び立ってから数時間は経過してるはずだから有り得ない早さじゃないけど。


眷属達とのグループ通話で俺がキレ気味だったし、眷属達も殺気立ってたから相当気合入れて取り組ませたんだろうな。


「全て承認しておいてくれ」


「畏まりました」


俺は憑依体の鳥に意識を戻した。


視界がコアルームから山の森に変わる。


木の枝から飛び立ち聖王国に向けて飛行を再開した。


眼下に広がる自然の眺めながら飛行していると、所々地形が変化している場所が見れられた。


少し闇の力を感じることから闇の存在が暴れた影響だと思われる。


不自然に地面から赤黒い血が噴き出すようになっていたり、一定範囲だけ土が無く岩と植物が一体化になっていたりした。


既に俺達が荒らした場所を通ることは殆ど無かった。


こんな影響力があったとは知らなかったけど、前に直接会った邪神ゲズムから少し聞いたことがあったっけ。


確か俺達が暴れた後の国が可笑しなことになっているだとか。


聖王国はモロに俺達が暴れ回った国。


今どうなってるのか気になって来た。


俺は加速して飛行を続けた。


山を越え荒廃した大地を進み数時間後にようやく人工物のある異様な場所が見えた。


「聖王国…だよな?」


なんだこれ。


かつては大聖堂を中心に宗教施設や景観を損なわない白い建物が密集していた。


その聖王国が今や見る影も無かった。


俺達が荒らした全ての建物と石畳の地面がそのままグニャリと液体化し沼となっていた。


闇の力から免れてそのまま欠損せずに残った建物や地面が幾つかあった。


そして建物の沼から巨大な白い骨の木が国中に何本も生えていた。


白い骨の巨木は不規則にうねりながら伸びており葉が無く手の骨のような枝には人の顔をした真っ赤な果実を大量に実らせていた。


建物の沼から偶に巨大な気泡が湧き、弾けた気泡から黄緑色の気体を放出させている。


だからか遠くから見ると聖王国全体が薄い黄緑色の空気をしていた。


こんな場所に人が住めるのか。


そう思っていたが人は結構居た。


無事だった建物を利用して普通に生活している。


建物の沼に釣り糸を垂らしてる人が多く見られ鼠の顔をした魚や背に野菜を生やした魚を釣り上げていた。


異様な光景だ。


素晴らしい。


俺達が暴れるだけでこうなるんだったらホロタなんか頑張らずに各地で暴れまくった方が良かったか。


そう思いもしたが、あまり影響が強過ぎると人が住めなくなりそうだ。


人が定住してくれていなければ意味が無い。


AI勇者が信徒の人間と絡んで思考を麻痺させるというのが狙いだからな。


他の国で暴れても聖王国程度で済むとは限らないならこのまま信徒拡大路線がベストだと思う。


上空を旋回していると周囲の人々に向けてスピーチをしている黒いローブ姿の連中を発見した。


ダンと同じ服装だ。


黒いローブ姿の集団の近くにある建物の屋根に留まり耳を傾けた。


「女神ラチカは偽りの神である!人々を欺き利用して見捨てようとしている!皆さんこそがその証人ではありませんか!」


黒いローブ姿の男がそう言うと近くまで集まってる黒いローブを着ていない人々が大きく頷き叫んだ。


「そうだ!もう女神は我々を見捨てた!」


「ラチカは聖女にばかり与えて一般人には何もしなかった!」


人々の声を聞きスピーチをしていた黒いローブ姿の男が満足気に頷く。


「皆様に平和と幸福をもたらすことが出来るのは我らが闇神様しかございません!我々闇の教団だけが皆さんを救う事が出来るのです!信徒となって闇神様の庇護下に入りましょう!」


周囲の人々から割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こった。


やっぱりこいつ等が闇の教団の信徒だったか。


見た目が少し血色の悪い人間で配下じゃないし分からなかった。


少しして鎮まると俺が留まってる建物の入口から販売用のカートが出て来た。


「定時になりましたのでこれより特別販売を実施します、信徒の皆様には特別割引でご提供させて頂きます」


黒いローブ姿のカート販売員がそう言うと、人が殺到した。


「頭飛剤を売ってくれ!」


「おい、俺が先だぞ」


売れ行きも順調みたいだな。


やっぱり物販用意しておいて良かった。


でも売れてるのは頭飛剤ばかりなんだよな。


国が崩壊して現実逃避したい気分なんだろ。


コアルームで量産しておくか。


「入信を希望される方は扉の中へお入りください」


信徒の1人がそう言うと吸い込まれる様に人が入って行く。


ここが闇の教団聖王国支部か。


大きな教会を支部にしていた。


支部の扉や壁、そして黒いローブに同じマークがある。


まさかこれが闇の教団を象徴しているのか。


俺をデフォルメしたようなマークなんだよな。


デフォルメされた俺の輪郭と目の部分が白くなっていて他が黒い。


まあ良いか、そこまで用意出来ていなかった俺が悪いんだ。


そうこうしているうちに支部の行列から叫び声が聞こえて来た。


「お、おいお前が何でここに居るんだよ!」


並んでいる一般男性がガタイの良いウォーグ種の男に言った。


「何でって入信する為じゃないか」


「お前は死刑囚だろ!」


「元な。闇の襲撃じけ…おっと、解放の日に自由になったんだ、まさに闇神様のおかげでなぁ」


なるほど、俺達が聖王国で暴れた時に脱獄したとかそんな感じか。


「あれだけ殺人を犯した奴を教団に入れてたまるか!」


別の一般女性もウォーグ種の男に言い放った。


「なんだお前等やんのか?」


ウォーグ種の男がキレてズボンから短刀を取り出した。


周囲の人々が慌てて離れる。


俺は別に極悪人が闇の教団の信徒になっても良いと思ってる。闇の教団に差別は無い。


ただしここで殺人や暴行事件が発生すると折角入信しようとしていた人間に迷いが生まれてしまう。


周辺に人間の信徒は何人か居るが外に俺の配下は居ない。


ヒューマンの信徒じゃウォーグの男を止められない。


抜き打ちで視察するつもりだったがここは俺が中指ひとつでダークウォーカーにするしかないか。


そう思って羽ばたこうとした時だった。


「そこまでだ!」


声が聞こえて来た方を見ると剣と鎧を装備した一団がやって来た。


鎧には見覚えがあった。


鎧の右肩にだけ青い紋章入のマントを装着しており同じような前掛けを腰にしている。


闇の教団聖王国支部の前に現れたのは聖騎士の生き残りだった。

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