46 カオス理論
勇者イアを殺してから3日経過した。
俺は今ホロタのグループ通話で眷属達の報告を聞いているところだ。
ホロタから映し出されるホログラムにはそれぞれ別場所に居る4体の眷属達の全身と半径1m程の空間が4分割で映し出されている。
トップバッターのドニシャが聖王国周辺で収集した勇者イアの情報を報告してくれていた。
「─続きまして女神の信徒達を拷問して得た情報によりますと、勇者イアは繰り返し輪廻転生する転生者とのことです」
まあそうだろうな。
復活スキルや蘇生魔法なんかじゃないだろうとは思ってた。
そんなのあるなら聖騎士マモルや聖女が復活してるはずだし。
しかしどうやって転生してるんだろうな。
俺はドニシャの報告に割り込んで聞いてみた。
「パッシブスキル等で勇者イア自身が勝手に転生しているのか?、それとも女神の力によって毎回転生してるのか?」
「転生方法までは分かりませんでしたが、勇者イアは前例のない特別な転生者で女神が転生させてはいないとのことでした」
もし女神が勇者イアを転生させてたとしたら女神を殺せば済む話だが、残念ながら違ったみたいだな。
「良い情報を聞けた、報告を続けてくれ」
「はい、次は勇者イアの身体的な情報をご報告します、転生前後で外見に変化は無く同じ見た目をしているとのことで──」
身長、体重、体格、肌の色、人種、髪の毛等の身体情報を知れた。
しかしこれらのことはどうでも良い。
「──また、勇者イアが転生に要する期間は30日程で転生する場所は2回ともに聖王国だったと聞きました」
インターバルの期間は予想通りだな。でもしっかり確認が出来て良かった。
それと意外にも転生する場所がランダムじゃないんだな。
それじゃリスキル出来るな。
リスキルとはリスポーンキルの略、つまり転生する場所に予め戦力を集中させておいて転生した瞬間に殺すことだ。
しかしそう簡単な話ではない気がする。
リスキルの状況だとしても俺との戦闘を学習したAI勇者に勝てる可能性は低いと思ってる。
例え次の転生時にリスキルが成功したとしても、その次に転生してくるリスキルを学習したAI勇者に勝てないだろ。
「報告ありがとうドニシャ。割り込んですまないが勇者イアが転生した時の情報を知りたい。奴は転生直後から既にあの強さだったのか?」
「それについては僕が話そう」
カズヤが真っ先に口を開いた。
確かカズヤが情報収集に行ってたのは聖王国の北部周辺にある国や地域だったな。
勇者イアがグルーゴのダンジョンに攻めて来る前にカズヤがその辺の侵略を担当していた。
「聞こう」
「山の国コカチオンで勇者イアを見た連中が言うには、1か月前には既に強かったってさ。でも金無いくせにやたらと強いアイテムとか武器を欲しがってモンスターを狩ったりスキル師範に弟子入りして鍛えてたらしいよ」
肉体的にもアップグレードされて転生してるんじゃリスキルはもう現実的じゃないな。
しかし準備は必要だったのか。
「ドワーフの有名なアーティファクトに機装ってのがあったろ、勇者イアは1か月前から持ってたのか?」
「いや、何も持ってなかったって言ってた。だからモンスターを狩りまくって金策と武器収集してたんだろ」
初期装備は無しか。
次のアップグレードで闇の存在を確殺出来る都合の良い武器なんてのを持ってるということは無いわけだな。
「なるほどな、割り込んですまなかった。ではまた順次報告を続けてくれ」
「おお我が神よ、私も多数の情報を持ち寄りましたぞ」
マハルダが自信ありげに口を開いた。
マハルダは遠征毎に信徒みたいなのを各地に集めている。
俺が頼んだら一定数この闇のダンジョンに連れてきてダークウォーカーにしてるんだよな。
だから他の眷属達に比べて人類の情報は沢山あるはずだ。
「全部話してくれ」
「まずは東の国ザザランで聞いた話ですが、数か月前に勇者イアが立ち寄って多数のギルドクエストをこなした上に無償で人助けをしていたそうです」
数か月前ということはカズヤに殺される前か。
機械的に動いてるわけでは無さそうだな。
魔王だけ狙うとか、俺だけ狙うみたいな単純な目的では無さそうだ。
勇者イアが殺されてからアップグレードされて目的を俺に絞られた可能性もある。
マハルダが報告を続ける。
「また北東の国チャリジャラでは自分が勇者だと言ってよく人に声を掛けていたそうでございます、チャリジャラでもクエスト受注と人助けの情報がございましたぞ。具体的に何をしたかと申しますと──」
マハルダから勇者イアがやったクエストや人助けの詳細が語られた。
モンスター討伐や採取、土木工事や店の雑用までジャンルに問わず多数あった。
実は今マハルダが報告してくれた情報は俺もホロタの0チャンネルで検索して既に知っている。
善悪関係無く人への行いは記録に残りやすいってことだな。
マハルダの報告が終わり、最後にクルクの報告を聞く。
「闇の王、勇者イアは雑食だと聞いた。モンスターの肉だけじゃない豆とか草とか魚とかも食うらしい。量も大して食わない可笑しな奴だ。デザートは──」
クルクの情報は主に食べ物の事だった。
転生AIなだけあって規則正しくバランスの良い食事しかしない。
想像通りの情報だった。
これで勇者イアの情報は全てか。
「皆、情報収集ご苦労だったな。勇者イアの情報を踏まえて次の転生までにどうするのかだが…」
正直絶望的な状況だ。
ずるいよ。
相手AIって頭脳で負けてるじゃないか。
そこは力の差があっても地球時代で育まれた俺の頭脳で異世界の強敵を倒すとかじゃないのかよ。
それに殺しても殺しても転生されちゃ無限ループだ。
しかも転生する度により強く賢くアップグレードされるなんてもうチートだろ。
どんな対策を閃いても戦い続ければいつか必ず俺は敗北する。
こんなの負け確イベントだ。
理不尽だ。
ああ、なんだか懐かしい感覚が蘇ってくる。
地球時代に会社の理不尽なパワハラで身も心もズタボロになってたっけ。
肥大した心の闇を解放する為にVTuberのマヨミヤイリをやってたんだ。
そうだ、今俺はマヨミヤイリだ。
VTuberだった当時と同じ気持ちが湧き起こる。
こんな世界なんて滅茶苦茶にしてやれば良いんだ。
「世界を闇で覆う」
長い沈黙の後に出た俺の一言を聞いて眷属達の口角が邪悪に上がった。
眷属達が今どう思ってるのか知らないが、別に勇者イアへの対策を放棄したわけじゃない。
俺にはこうするしかなかった。
戦って勝てない理不尽に戦闘の対策なんて考えてもしょうがない。
永久に捕縛するだとか世界から隔離するだの輪廻転生を止める方法を探すだの他の可能性もあるけど、どれも理想論で現実的じゃない。
とはいえ万策尽きたわけじゃない。
眷属達の報告を聞いていた間に俺は一つの可能性を思い付いていた。
勇者イアが俺に殺される直前に言った言葉が妙に引っ掛かったんだ。
『選ばれし勇者として、人々の脅威を討ち滅ぼす』そう言っていた。
明らかに勇者を意識している。あいつは転生したAIだというのに。
眷属達からの情報でも人助けみたいな勇者的行動をしていたらしいしな。
俺を殺すようにプログラムされてるとか指示されてるわけじゃないんだろ。
勇者になりきっているから俺を殺そうとしたんだ。
それを逆手に取る。
俺が人類の敵で無いなら勇者イアは俺を殺しに来ないはずだ。
しかし今更スローライフしたって無駄だ、時間も足りないが既に俺達は大量の人類を殺してるし多大な被害を出してるから善行を積んでも人類に受け入れられるわけない。
なら、もしも救うべき人類が自らの意思で狂っていたとしたらどうか。
あのAI勇者は混乱し目的を見失うんじゃないか。
世界を闇で覆い、人類を闇に染め上げる。
最終的に闇の存在に対して人類が敵意を持たなくする。
これが俺の出した結論だ。
くしくもVTuber時代とやることは一緒。
「残り27日までにホロタのランキングで1位を目指す」
さっきまで邪悪な笑みを浮かべていた眷属達がポカンとするなか、俺はホロタを操作し新しくチャンネルを立ち上げたのだった。
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