45 闇の魔王とAI勇者
まずいっ!
もうすぐそこまで勇者イアが迫っている。
外の眷属達が駆けつけてくれているがもう間に合わないそうにない。
地下1階からコアルームの地下3階までに配下は多数居るがダークゴブリンやダークエルフ達が襲い掛かっても勇者イアは無視してこちらに向かって来ていた。
どうしたらいいんだっ。
俺はダンジョンコアのホログラムを最速で操作してDPで買えるアイテムやトラップの中に使えそうなのが無いか必死に探していた。
武器や防具なんか買っても倒せる気がしない。
毒や足止めのトラップの類を探すも強烈に嫌な気配がして操作を中断した。
コアルームの入口を見ると黒髪黒眼の平凡な男が現れた。
勇者イアだ。
ダンジョンマップで見たまんま同じ姿をしている。
俺の世話係をしてくれていた3体のダークゴブリン達が素早い動きで勇者イアに襲い掛かった。
勇者イアは動きを止めて周囲に魔法の粉を振り撒いた。
構わず魔法の粉を突破しようとしたダークゴブリン達の身体が硬直し、勇者イアの剣によって正確に首を刎ねられていった。
このコアルームには俺と勇者イアだけになった。
どうしようどうしよう…。
AI勇者に効果的な物が見つからず何もDPで買えてない。
この危機的状況を覆す方法はただ一つ、眷属達が来るまで時間を稼ぐしかない。
俺に人の顔は無いが焦る気持ちを押さえつけ、平然を装う。
ダンジョンコアを先に狙われないようにコアの前へと進み話しかけた。
「なぜ俺を狙う?俺の眷属に殺されたことを根に持っているのか?」
「オレは選ばれし勇者として、人々の脅威を討ち滅ぼす!闇の魔王よ、さあ、覚悟しろ!」
早く言葉を返そうとしたが、勇者イアは言いながらこちらへと疾走していた。
勇者イアが腰の巾着袋から魔法の粉を掴み正確に俺へと投げて来た。
あまりの速さに反応出来ない。
避ける事が出来なかった。
魔法の粉を喰らっても喰らわなくてもどのみち攻撃されたら終わりだ。
俺を狙わなくてもダンジョンコアを破壊されたら終わり。
絶望的な状況で全てがゆっくりと感じられた。
魔法の粉が宙を進み俺に降りかかる。
絶体絶命の大ピンチ。なのにもう策が無い。
俺は今まで全部順調だと思ってた。
ダンジョンコアに闇は特別な存在だと言われたし、あの強いモク爺にも特別視されてたから浮かれていたのかもしれない。
事実、簡単に周辺の魔王は倒せたし眷属の力は強大だった。
人類最強と謳われた聖騎士マモルを仕留め最古の魔王を倒した。
俺達に敵う存在なんて居るわけ無いと思い始めていた頃だった。
正直に言えば、この異世界では何をやっても上手くいくんじゃないかと勘違いしていたんだ。
俺にも天敵は居た。
この転生AIはいとも簡単に攻略してしまう。
参ったよ。
思考で上回れてしまって何をやっても対策される、そんな相手どうしたら良いんだよ。
勇者イアを眺めると剣にマナを込め、刀身に青いオーラを纏わせていた。
俺を殺せるように刀身のオーラを育成している。
回避したいが魔法の粉を喰らってしまった。
魔法の粉が効いて来たのか、光速を体験しているような超感覚に陥った。
頭がハイになっていく。
ああ、意識が飛びそうだ。
勇者イアが十分過ぎるぐらい青いオーラを溜め込んだ剣を構え、こちらに踏み込んで来た。
俺目掛けて剣を振り下ろす。
その時だった。
俺の身体が勝手に動き両手で闇の渦を発生させ勇者イア目掛けて飛ばした。
膨大な青いオーラを纏わせた剣が闇の渦に触れると、バチンッという何かに押しつぶされたような音がして粉々に砕け散った。
闇の渦が消え、右手の人差し指の先に闇が集約し凝縮されていく。
まるで小さな宇宙か小世界のような膨大なエネルギーを感じる闇の塊が俺の指先に形成された。
勇者イアは今までの勢いが嘘の様に踵を返し全速力でコアルームの入口へと走り出した。
俺の意志と無関係に右手が勝手に動き闇の塊がある人差し指を勇者イアに向けた。
次の瞬間、ドッという鈍い音が一度だけ発生すると瞬時にコアルーム全体が闇に覆われた。
自分でも悪寒がする程の莫大な力をコアルームを支配する闇から感じる。
蠢く闇はすぐに消滅し、コアルームが元に戻った。
勇者イアが居た地面には黒い塵が少量積もっていた。
「やった…」
小さく声が出た。
同時に身体の感覚が戻り普段通り身体を動かせるようになった。
上の階からダークゴブリンやダークエルフ達が雪崩れ込んで来た。
勇者イアに抜かれた連中だ。
そんなことは今どうでもいい。
この結果に俺は驚いている。
売人のダンから買った魔法の粉で意識が飛んだ時、俺が戦闘をしたと眷属達から聞いてはいたがまさか本当だったとはな。
今まで空き時間に魔法を試してみたりフィジカルを確認したが大した成果は無かった。
こんな力を持って居るとは思わなかったな。
とはいえ自在に力を使えるわけじゃない。魔法の粉で感覚が麻痺してる間だけだ。
実質俺に魔法の粉で行動不能にすることは出来ないことが判明した。
ということは全ての手段で行動不能になることが無いわけだが無敵だとは思わない。
きっとAI勇者はこの出来事を学習し対策してくる。
まるで新しいバージョンにアップグレードするみたいに。
いやあの野郎はAIなんだ、転生する度にアップグレードされてると思った方が自然だ。
じゃないとカズヤに瞬殺された奴があんなに素早く動けてナミダを殺せる程強力な溜め技を使えるわけない。
なんとか殺せたがこれからどうしようか。
どうせまた勇者イアは復活する。蘇生なのか転生なのかは分からないけど知能もスキルもアップグレードされて今度は手に負えなくなる可能性が高い。
永久に拘束だとか封印なんて出来ればとも思ったけど、あのAIのことだから自殺出来たかもしれない。
どのみち俺の身体が勝手に動いて勇者イアを殺したんだから仕方無い。
全く謎な存在だよな。
もっと勇者イアについての情報が必要だ。
勇者イアをカズヤが殺してからグルーゴのダンジョンで見つけるまで約1か月程だった。
転生してベストコンディションになるまで1か月掛かると考えて良さそうだ。
この1か月でAI勇者対策をしなければ俺は殺されてしまう。
こうしてはいられない。
積もった黒い塵を眺めていたが視線を外し周囲を見渡した。
ドニシャとマハルダそしてカズヤの眷属と配下達が大勢コアルームに終結している。
眷属達は勇者イアに易々と突破されたことを反省しているのか申し訳なさそうな顔をしていた。
俺はクルクの帰還を待った。
暫くして一番遠くまで遠征していたクルクがコアルームに到着すると命令した。
「大至急、勇者イアについての情報を集めてくれ。どんな些細な事でも良い、経歴や出生、友好関係や趣味なんかも含めて全部だ。今すぐ行ってくれ!」
もう防衛なんか気にしなくて良い。俺も条件付きでそこそこ戦えると分かったし。
ドニシャも含めて眷属達一行は慌ててコアルームを出て行った。
残されたのは新しい世話係として選んだダークゴブリン2体とダークエルフ1体だけ。
「はぁ…」
俺は深いため息を漏らしながらホロタで勇者イアの情報集をするべく端末を起動したのだった。
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