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44 勇者襲来

ナミダが死んだ。


衝撃的だった。


あまりのことに俺の頭と体がフリーズしてしまっている。


なんでどうしてと今更反省ばかりが頭に湧いてくる。


どの角度から反省しても勇者イアの脅威にぶち当たった。


そうだ、こうしてはいられない。


勇者イアはナミダを殺したことで更に闇の情報を得た。


あいつはAIだ、学習してより闇の存在に対する戦闘の幅が増えたはず。


もう俺の首を狙って来るだろう。


俺は急いでホロタを操作し、闇トーークのチャット内で眷属全員に大至急この闇のダンジョンに帰ってくるよう命令した。


ナミダが殺されたことも伝えておいた。魔法の粉で殺されたとも伝えてある。


眷属1体で殺されたのだから、今度は全員で戦う。


数の問題で片付けて良い問題ではないが、ナミダが戦った状況よりも改善はされてるはずだ。


俺はホロタを操作しダンジョンの防衛を任せているドニシャをコアルームに呼び出した。


遠征に出ている眷属達の帰還を待つ間に勇者イアが攻めて来る可能性もある。


ナミダの二の舞にならないよう、眷属1体での戦闘は避けなければならない。


「イリ様、今すぐにでも出撃可能です」


声がした方向に顔を向けるとドニシャが地面に片膝を付いて頭を下げていた。


改めてドニシャを見るとこの1か月で随分雰囲気がアップグレードされたように思う。


真っ直ぐ綺麗な銀色の髪や暗い灰色の肌とリップグロスが塗られたような黒い唇はそのままだが、漆黒の鎧ドレスは腰のスカート部分がよりボリュームアップしてたり鎧の上で細かい銀河の模様が勝手に動いて波打ち優雅に踊っている。


そして頭上にはブラックダイヤみたいな黒い宝石で造られた王冠が装着されており、以前にも増してドニシャの闇のオーラが増大していた。


ドニシャにはずっと防衛ばかり任せていたが、俺達が聖騎士マモルや最古の魔王を殺したことが世間に知れ渡ったことで最近は侵入者の数が激減していた。


深い闇を感じる。


疼いているな。


「落ち着けドニシャ」


俺自身にも言ったつもりだった。


「はっ…」


「ホロタで伝えた通りナミダが殺された。相手は勇者だ」


「っ!?勇者…ですか」


「そうだ、カズヤが殺した勇者イアがどういうわけか蘇生したみたいだ」


「私に命じて頂ければすぐにでも勇者イアを殺してご覧に入れましょう」


「落ち着けと言っただろ、ナミダは何も出来ず簡単に殺されたんだ、以前の勇者イアとは違う」


「お言葉ですが、ナミダは最後に眷属となった存在です、私とは鍛錬と経験の差がございます」


言うようになったな。


いや、それだけ疼いているだけかもしれない。


防衛役は定期的に眷属間で交代させておかないといけなかったか。


「ドニシャの言う通りお前等眷属間で力の差はあるだろうが、俺は確実に殺したい。今回は全軍で討つ」


「…わかりました、では私のダークナイツ(闇の騎士団)もこちらへ招集致しましょうか?」


ダークナイツ(闇の騎士団)はドニシャの側近達だ。


元々は俺配下のダークウォーカーだったがドニシャの下で戦闘と鍛錬を繰り返すうちに進化してダークエルフとなりこの1か月で更に数段進化してダークナイトという種族になった。


そしてドニシャに名付けされた選ばれしダークナイト達をダークナイツ(闇の騎士団)と呼ぶようになった。


ナミダの側近だった液体人間達は使い物にならなかったけど、眷属間で力の差があることを考慮すると勇者イアに対して戦力になるかもしれないな。


「一応連れて来てくれ」


「畏まりました」


ドニシャが立ち上がった。


少し動く度にドニシャの鎧ドレスから黒い砂塵が舞い数秒後に空中で消えていく。


片腕を軽く振ると足元に光る黒い文字のサークルが出現しサークルから黒い杖が生え出て来た。


杖の先には茨が巻き付き紫の光を放つオーブが嵌め込まれており、更に先端部分は鋭利な槍となっていた。


ドニシャは杖を持つと先端の槍部分で地面を2回小突いた。


直後に騎士と幾何学模様が描かれた大きなサークルが出現し、跪いた黒い騎士達が召喚された。


騎士達は光沢を放つ磨き上げられた漆黒の鎧と黒いマントを装備しており顔部分が開けたヘルムを被っていた。


ヘルムの上部にはダークナイト達でそれぞれ違った銀の装飾が施されており、毒々しい花であったり蝙蝠の羽みたいな葉を付けた草等、様々な植物が見られた。


そしてダークナイトそれぞれ所持している武器が違った。


開けたヘルムの隙間から見える顔は灰色の肌をしており男女混在で全員が長い白髪だった。


先頭に居る長剣を背負ったダークナイトの男が口を開いた。


「女王様、ご命令を」


おいおい、手下に女王様って呼ばせてるのかよ。


まあ本当に元女王だけどさ。


ドニシャは女王だった頃を彷彿とさせるように胸を張り堂々とした態度で指示した。


「指示があるまでお前達はここで待機なさい、待機中は何時でも出撃出来るように準備はしておくこと」


「承知致しました」


ダークナイツ(闇の騎士団)が一斉に立ち上がる。


この場から離れようとした際、先頭のダークナイトと眼が合った。


確かコイツはゾラという名前だったはずだ。


ドニシャが一番頼りにしてる側近。


ゾラがダークエルフだった頃は肌が黒かったが進化してダークナイトになった今は灰色だ。


なんだか進化する度にドニシャの見た目に近付いてる気がするな。


ゾラは俺に深々と頭を下げてからダークナイツと共に入口付近へと向かった。


「勇者イアには複数の眷属で同時に攻撃しろ、距離を取って魔法の粉が届く範囲に決して入らせるな」


「…畏まりました」


ドニシャの返答に一瞬間が空いた。


過小評価されてるとでも思ってるのかもしれない。


今はそんなこと言ってる場合じゃないというのに。


イマイチ危機感が足りてない。


闇の力を得て気が強くなりすぎてる。


「ホロタをハックされてる可能性があるから作戦までは他の眷属達に伝達出来ていない。帰還前に勇者イアが侵入して来たらドニシャが指揮を取れ」


「はいっ」


今度は良い返事だ。


指揮を任せたことで機嫌が直ったみたいだ。


俺はダンジョンコアから出力されるホログラムのダンジョンマップを見ながら眷属達の帰還を待った。


「来たっ」


暫くしてマップにマハルダとその手下達が映った。


良かった。ナミダと同じ状況にならずに済む。


安堵の溜息が出しコアルームへの到着を待つ。


「おお!我が偉大なる神よ!只今戻りましたぞ」


「早かったな」


「南東の竜脈で竜狩りをしていただけですからな、グルーゴめのダンジョンへ向かうようご指示を頂いた頃には既に狩り尽くしておりました」


南東の竜脈か、それは結構近いな。しかしナミダの方がグルーゴのダンジョン近くに居たんだよな。


まさに運命ってやつか。


「それは良かった。今は緊急事態だから帰還が速くて助かった」


「なんと嘆かわしい。我が神のお気持ちあ察し致します。このマハルダが必ずや我が神の脅威を撃ち滅ぼしてご覧に入れましょう」


「ああ、期待してる。今は何時でもベストを尽くせるように戦闘準備をしていてくれ」


俺はダンジョンマップに視線を戻し監視を続けた。


そして数時間後にその時はやってきた。


ダンジョンマップの北にカズヤが映った。


手下のキングダークレヴェナントのトルジスとクイーンダークレヴェナントのラサヤ達も一緒だ。


これで眷属は3人。あとはクルクだけだ。


一安心した矢先、ダンジョンマップ北東に赤色表示された1人の男が映し出された。


侵入者だ。


モンスターの分厚い革を使った軽装備を着た黒髪黒眼の平凡な男。


「勇者イアだっ!!!」


俺が叫ぶと同時にダンジョンコアが警報を告げる。


「警告、侵入者を検知しました」


「ドニシャ!!!!」


俺がそう言うよりも先にドニシャはコアルームの入口へと走り出していた。


「出撃する!」


ドニシャの圧ある掛け声と共にダークナイツとマハルダとその側近達が一斉に動きコアルームを出て行った。


眷属が欠けたこの状況ではダンジョン地下で待ち受けたりしない。


こちらから仕掛ける。そうドニシャと話していた。


カズヤとの合流もあるしな。


俺は大急ぎでホロタを操作し闇トーークのチャットでカズヤに勇者イアの位置とコアルームのある地下への入口目掛けて進んでいることを伝えておいた。


それとチャットを見たら勇者イアを殺すまでもうホロタを見るなとも伝えてある。


ホロタを気にして勇者イアの接近に気が付かなかったなんてことにはならないで欲しい。


俺自身もホロタからダンジョンマップに視線を移す。


眷属達の動きを眼で追った。


ドニシャとマハルダ達は既に地上へ出て北東へと向かっている。


北から帰還していたカズヤ一行は勇者イアの位置を把握したのか正確に距離を詰めていた。


先にカズヤが接触するかと思われたが全速力で駆け付けたドニシャ達の方が早かった。


手筈通りにドニシャとマハルダ、そして側近達は勇者イアを中心に散らばって位置取りし、遠くの距離から一斉攻撃を仕掛けた。


ドニシャの黒い波動が、マハルダの闇の炎が、そして側近達の斬撃や魔法が大股で歩いている勇者イアに殺到した。


それぞれの攻撃が衝突し、スパークが発生して爆発が起きた。


爆発を目撃したカズヤ一行が加速してドニシャ達と合流した。


硝煙が晴れるとマップに映っていた赤色表示の侵入者がドニシャ達の包囲を瞬時に抜け地下の入口を目指して疾走していた。


何故かドニシャ達はそのことに気が付いておらず同じ位置に遠距離攻撃を撃ち続けている。


「何を攻撃しているんだっ!?」


的を見ると盾で防御を固めた勇者イアが居た。


しかしダンジョンマップには赤色表示されていない。


フェイクだ。


幻影なのか分身なのか知らないが本体ではない。


「くそっ、やられた!」


こちらから出向くんじゃなかったか。いや、待ち受けても同じだ。


あのAI野郎は俺の思考より一歩先を行く。


最初から俺の眷属や手下達を相手にする気は無かったんだ。


アイツの狙いは俺だけ。


俺は急いでホロタを操作し本体がコアルームに迫っていることを伝えた。


慌ててホロタから目を離しダンジョンマップを見ると、既に勇者イアはこのコアルームがあるダンジョン地下へと侵入して来ていたのだった。


本作は41話までストックしてから投稿を開始しました。

想定よりも人気が無くショックを受けた為43話まで書いた後放置していました。

しかし今日から執筆活動を再開します。

今まで自作品を最後まで書き切ったことがありませんでしたので思い入れのある本作は必ず完結させるつもりです。

投稿頻度はゆっくりになってしまいますが最後までお付き合い頂ければ幸いです。

それと42話までは前置きみたいなもので本作を書き始める当初に削るか書くか迷ったのですが闇の魔王の厚みが欲しくて書きました。

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