36 俺の俺
俺達も逃げた方が良いかもしれない。
マモルって人類最強なんだろ。
それならもしものことを考えて攻勢要員の眷属達を集めて戦わせた方が良い。
ナミダがどれだけ強いのかも分からないしさ。
「ナミダ、後退して他の眷属達と合流するぞ」
「あああ残念です、今すぐにでも皆殺しにしてやりたかったのに…」
気が進まないナミダを説得し、俺達のダンジョンがある南西の方角へ進む。
夥しい数の腐敗した人の死体が徘徊していた。
ナミダが悲鳴の様な叫び声を上げて眼から黒い液体を噴射させ地面ごと動く死体を消滅させていく。
進むにつれて続々と来る動く死体の中にデカい個体が混ざるようになった。
デカい個体は多少の知能があるのか斧やハンマーなどの重い武器を持っている。
ナミダが噴射する黒い液体に触れるとデカい個体であっても消滅していく。
更に進むと動く人骨が出現した。
ローブを着て杖を持った人骨に鎧と剣と盾を装備した人骨、王冠とボロボロになった高級ローブを装備した人骨等だ。
どんな人骨であっても黒い液体に触れた箇所周辺が半球状に消滅してき絶え間なく降り注ぐ黒い液体によって完全に消え去っていく。
ナミダの射程が外から王冠を被った人骨が紫の波動を放って来るも黒い液体に触れた瞬間に消滅した。
俺達は地形をボコボコのクレーターだらけにしながら道中の全てを消滅させて進んでいく。
都市の防壁が見えた頃、奥から人がやって来た。
白髪に灰色の肌をしていて上に尖った耳と赤い眼が特徴的だ。
着ている黒いコートの裏地は赤くなっており合わせた黒いズボンを履いている男だった。
「液状のお前っ、まさかお前も闇の魔王の手下か!?」
白髪の男が遠くから涙に聞く。
「おおおっ消え去れぇぇえっ!!!」
ナミダは悲鳴の様な叫びを返しただけで黒い液体の散布は止まらなかった。
「今すぐシャイファン様にお知らせしろ!闇の魔王の軍勢が聖王国に攻め込んでいると!」
白髪の男が傍に控えていた同族の白髪の女に命令した。
白髪の女は頷くと影の中にスッと入り消えていった。
男は血の球体を掌の上に創り出した。
血の球体から血の触手が何本も生えナミダを襲う。
血の触手が黒い液体に振れた瞬間、何かに食べらたかのようにベコンと半球状に削られた。
放出し続ける黒い液体によって血の触手がどんどん削られていく。
ナミダが進むにつれて白髪の男との距離が縮まり黒い液体の射程範囲へと近づく。
「クソっ!これが闇の軍勢の力なのかっ」
白髪の男が撤退し始めた。
人骨や腐敗した死体等のアンデッドは相変わらずこちらに向かってきているが、白髪の男とその同族達は後ろに逃げて行った。
奥は防壁があったが巨大な穴が開けられている。
あの穴からアンデッド達が侵入してきていた。
すれ違いで白髪の男連中が穴を通り抜けようとした次の瞬間。
巨大な物体が衝突したような衝撃が発生し穴付近の防壁ごと吹き飛んだ。
ナミダの射程範囲まで飛ばされて来た白髪の男は黒い液体を被り消滅した。
吹き飛んだ壁の方を見ると、王冠を被った王様風のゴーストが居た。
ファー付きのマントと刺繍の入った質の高そうな服を着ていて宝石を嵌めた錫杖を持っている。
錫杖の先には巨大な闇の球体をくっつけていた。
このゴーストはカズヤの配下トルジスじゃないか。
奥からクイーンダークレヴェナントのラサヤとゴースト系の面々が現れて黒い翼を生やした赤ん坊のカズヤが飛んで来た。
「止まれナミダ、あのゴースト達は味方だ」
「おおおっ、確かに闇を感じる」
ナミダが黒い液体の散布を止めた。
俺はカズヤの前まで飛んで行く。
「丁度良い時に来たなカズヤ」
「イリがなぜここにいるんだ?」
「眷属の調達とちょっと人を探しててな」
「そいつが新しい眷属か?」
カズヤがナミダに視線を送る。
「初めまして同胞よ、私の名はナミダ。先程闇の一席を頂いたばかりの血涙です」
「僕はカズヤだ、覚えておけ新人。いずれイリを手に入れてこの世界を破壊する者だ」
「おおお何と悲しいぃ、真なる闇を手中に収めるなど正気ではありません」
「何とでも言え、僕は必ずイリを手に入れる」
俺は諦めて欲しいと思ってるぞ。
「カズヤと合流したことだし攻めに転じるぞ」
俺は反転を指示した。聖王国を攻めて混乱している間にマオを探してみるつもりだ。
「いや僕達は聖騎士とアンデッドの魔王に挟まれて撤退して来たんだ。ホロタで応援呼ぶところだった」
「なにっ、じゃあ攻勢に出てる他の眷属を聖王国へ招集してくれ」
ヤバイじゃん。
カズヤが撤退するような相手となるとナミダを参戦させても勝てるか怪しい。
ここは全面戦争しか無い。
「僕達はそれまでどうすんの?」
「…防戦だな」
「あーあ、イリが手に入ればあんな奴等瞬殺だったのに」
カズヤは俺に文句を言いつつホロタを起動して闇トーークのグループチャットでメッセージを送信した。
どこで防戦するか考えていると壊れた防壁の外から右肩にだけ青い紋章入のマントを装着した聖騎士団が現れた。
「闇の軍勢を追い立てろ!!」
奥に居たマモルが先頭に躍り出て叫び、握る半透明の綺麗な剣が光りを放つと無駄の無い所作で青白い斬撃を繰り出した。
ゴーストとダークレヴェナント達は斬撃に切り裂かれ唸り声を上げて雲散していった。
アレは強そうだ。
カズヤの奴、マモルに追われてたんだな。
魔王とマモルに挟まれたらそら撤退するのも納得だ。
「中央にある大聖堂まで移動するぞ!」
俺が号令を出すとカズヤが指先に闇の球体を創り出し聖騎士団に向かって投げた。
「全隊伏せろっ!」
マモルが叫びながら闇の球体に斬撃をぶつける。
途端に球体が膨張し起爆した。
「おあああっ!?」
聖騎士達が吹き飛ばされる。
俺達はその隙に都市の中央に向けて移動した。
俺は上空から都市を眺めた。
夜でも闇の俺はハッキリ視認出来る。
防壁付近で後から来たアンデッドのモンスターとマモル達聖騎士が戦っている。
これなら一旦時間を作れるな。
俺はマオを探した。
アンデッドとナミダが暴れたおかげで夜でも通りに人が沢山居た。
人々は北の方へと避難しているようだった。
こんな大勢の中から1人の人間を目検で確認するのは難しい。
誰かに聞こう。
喋る小鳥なんて目立つから騒ぎにならないよう集団から離れた人を探す。
都市の中心から西に離れたそこそこ人が居る通り道へと飛んだ。
誰に話しかけようかと人々を観察していると黒髪細目の男が眼に留まった。
俺だ。
あの姿は光無真雄に間違いない。
地球時代に散々鏡やら写真で見て来た自分の顔だから絶対そうだ。
冒険者風の茶色い革装備を着て腰に剣を帯刀しているがあれはマオだ。
右横に首輪の付いた30代ぐらいのグラマーな金髪褐色美女がいて楽し気に会話をしているがあれは確実にマオだ。
褐色美女のミニスカワンピの上からやたらと右手でボディタッチをしているがマオで確定…。
いや何やってんだ俺。
見損なったぞマオ。なんて情けない奴なんだ。
これは喝を入れてやらねばならんな。
公道で平然といちゃつきながらゆっくり歩くマオへと接近した。
マオの斜め前にあった樽の上に止まり話しかける。
「おいマオ何やってんだよ!ちょっとお前こっち来い!」
「はぁ?」
マオはキレ気味で俺の方へと視線を向けるとポカンとした表情になった。
横に居る褐色美女も俺を見たがマオとは違い驚愕の表情に変わった。
「や、闇の魔王の手下っ!?」
褐色美女はそう口にすると姿を変えていき灰色の肌をした白髪赤目の女になった。
「うわっ、何すんだよナンシー!」
「黙れ人間!お前はシャイファン様に捧げる必要がある!」
ナンシーと呼ばれた女はマオを腕でガッチリホールドすると影の中にスルスルと吸い込まれて行き2人は消えていった。
思いっきりハニトラに引っ掛かっとるやんけ。
俺はショックで呆然としたのだった。
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