35 5体目の眷属
エミが玄関のドアを開けると男女2人が立って居た。
1人はエレガントにふんわり巻いた金髪の女だった。
白い毛皮のジャケットの下に獣柄のシャツを着て黒いタイトなミニスカートを履いている。
これでもかとアクセサリーをぶら下げ不自然なほど爆乳爆尻で唇が驚く程プリンプリンしていた。
もう一人は赤髪のエルフだった。
金のネックレスと両耳に沢山付けたピアスを見てピンときた。
ダンだ。
ダンが何故ここに。
「エミ!今日貴方がアップした動像のせいでポーションの返品騒動が起きてるじゃないの!どうしてくれるわけ!?」
まああれだけ酷評したらそうなるわな。
「チェイジー…、あー…違うのそんなつもりじゃなくて製品の効果を宣伝するつもりだったの」
「そんなわけないでしょ!あんなに悪口ばかり言っておいてっ!!」
「本当ごめんねチェイジー、結果的に悪い反応になってしまったけど私に悪気は無くて…反省してる」
「信じられないっ!これだけの事をしておいて謝って済むとでも思ってんの!?」
「それは…」
「オレもエミが動像でウチの商品使ってるとイメージダウンして困るんだ。大損した分の請求に来た」
「そんな…ダンまで…どうして」
「悲しいのはこっちでしょっ!!!」
チェイジーが叫びながらエミの頬を思い切りビンタした。
化粧越しでも分かるほどエミの頬が赤くなる。
「これが請求書だ、オレは金貨千枚に抑えといた」
「アタシは金貨5千枚分の請求!キッチリ支払ってもらうから!」
「そ、そんなに私払えない…」
ダンがシールバーの指輪を沢山着けた右拳で思い切りエミの顔面を殴り飛ばした。
「ウダウダ言ってんじゃねぇぞクソ女がぁ!」
エミの鼻が折れ大量の鼻血を噴き出した。
ダン結構やるなぁ。
「もっと反省して貰わなくちゃ」
チェイジーが手で後ろに合図を送ると奥から強面の武装したウォーグ種の男が出て来た。
強面の男達はエミの肩を担いで無理やり立たせる。
ダンがエミの頭頂部にある髪を鷲掴みにして強制的に顔を上に上げさせた。
チェイジーがホロタをエミの顔に向ける。
「ほらちゃんと私達に謝罪しなさいよ!」
「ご、ごべんなざい゛…」
「ちゃんとって言っただろこのブスがぁ!!」
チェイジーがエミの頬を殴った。
「ま゛っ、間違っだ情報を゛お゛伝えして申し訳ございませんでしだぁ…」
エミが顔を腫らし泣きながら謝罪する。
「アハハ!良いのが撮れた」
チェイジーがホロタをバッグに仕舞う。
丁度その時、都市全体に鐘が鳴り響いた。
「ヤバいぞチェイジー、ここ南部だろ」
「あー確か聖騎士団がアンデッドが攻めて来るとか言ってたわね」
「引き上げよう」
「そうね、じゃあ仕上げに足をやっちゃって」
チェイジ―が指示を出すと強面男2人がエミの足にローキックした。
「あ゛う゛っ」
エミは地面に倒れ伏し、チェイジーとダン達は笑いながら北へと去って行った。
「アンデッドが門を突破したぞぉ!」
別の通りから他の住民の声が聞こえて来る。
多くの人がエミの前を通り一瞬エミを見て心配そうな表情をしたが後ろを気にしてすぐに去って行った。
人々が走り去った後、俺はエミが倒れている地面の近くに飛んで行って声を掛けた。
「エミ、しっかりするピー」
「ピーちゃん…」
「ひどい目に遭った時はまずグチャグチャになっちゃった心を一つにするピー」
「…」
「エミの心の叫びを聞かせてピー、叫ぶとスッキリするピー」
「そんなことしたってもう…」
「エミの心の底からはどんな思いが湧いてくるピー?」
「私は…」
「エミはあの2人に滅茶苦茶されちゃったピー、こんな世の中おかしいと思わないピー?」
「それは私がホロタで…」
「全ての元を辿ればエミは才能が無いから仕方無くやってると言ってたピー」
「…」
「こう考えても良いんじゃないかピー、エミに才能を与えなかった世界なんて壊してしまえば良いピー」
「そうだ…こんな世界なんて…」
背後からアンデッドの唸り声が聞こえて来た。
「思いの丈を言葉に乗せて叫ぶんだピー!!」
アンデッドの腐敗臭が漂ってきて背後の唸り声がより近くで聞こえて来る。
そんな危機的状況の中、足を折られて動けないエミは血の涙を浮かべ叫んだ。
「全部何もかも消えろぉぉ!人なんて皆殺しにして世界を終わらせてやるっ!!!」
エミの頬に血の涙が一滴流れる。
エミの叫びを聞き俺の身体が振動する。
ドクンっドクンと鼓動する様に俺から闇が溢れ出した。
「危ないっ!貴方ここで何をしてるの!?」
横から白い聖職者みたいな恰好の女がエミに走って来ているがもう俺は止まれない。
俺から溢れた闇がエミに吸い込まれていく。
俺は直にチェンネル登録の舞を披露した。
回した翼の先から闇が溢れ出しエミの顔に吸い込まれていく。
「や、闇が発生しているっ!?まさかっ!」
聖職者が驚きの声を上げ、ホロタを取り出す。
「マモル聞こえる!?今すぐに南部の居住区に来て!闇の魔王が来てる!!」
聖職者が連絡し終わると同時にエミの涙が膨らんでポトリと地面に落ちた。
落下した一滴の血の涙はグニョグニョと変形し顔を形作った。
そして血の涙は赤黒くなって膨張し、アメリカンフットボールサイズにまで大きくなると宙に浮き叫び出した。
「皆殺し…全部…何もかも皆殺しだぁあああ!!」
男とも女とも分からない中性的な声だった。
涙は膨大な闇のオーラを全身から立ち昇らせると瞳の無い眼から黒い液体を流出させて周囲にまき散らした。
黒い液体が触れるとまるで巨大な口に食べられたかのようにベコンッと周辺を消し去って行く。
黒い液体の流出速度が速くなり噴水の様に噴き出した。
「キャヒン様!お逃げ下さいっ!」
大聖堂で見たジャスリーという名の聖騎士がマモルに連絡を取っていたキャヒンとかいう聖職者に逃げるよう促した。
「いいえ!ジャスリーあれは闇の魔王です!女神ラチカ様のお告げが示す黒禍の化物なのです!」
キャヒンが錫杖を掲げ白い光を身体の前に集約させる。
ジャスリーは白い光を放つ剣で押し寄せるゾンビの様な腐敗した肉の人型モンスターを斬り伏せていく。
赤黒い液体の塊と化した涙は黒い液体を放出し続けどんどん周囲を塵に変えていった。
エミも黒い液体に消され元居た地面が半球状に削られている。
俺は上に跳び巻き添えを回避した。
「消えろぉぉぉおおっ!!!」
涙が悲鳴の様な叫び声を上げる。
そんな涙にキャヒンが白い光線を放つ。
白い光線は涙が放出する黒い液体に触れると消滅した。
「そんなっ」
「キャヒン様!撤退してマモル団長を待ちましょう!」
2人はアンデッドを倒しながら北へと去って行った。
黒い液体を散布し続けたことで周囲に巨大なクレーターが出来ていた。
涙が黒い液体を放出させるのを止め叫ぶこともしなくなった。
俺は宙に浮く涙に近寄ると声を掛ける。
「お前、名前は?」
「…強いて言うならナミダです」
そのままだな。別に良いけど。
「そうかナミダ、俺の名はイリだ」
「闇の魔王の名を記憶しました」
「新たに誕生した闇を祝ってこの言葉を贈ろう、ハッピーダークデイ!ナミダ!!」
5番目の眷属は血の涙だった。
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