34 インフルエンサー
地面に堕ちた長いピンクの髪の女が身悶えながら起き上がろうとしていた。
上質な革のジャケットの下に肌触りの良さそうな白いシャツを着ていて白いタイトな革のロングスカートを履いている。
腰にはハートや小動物のバッジが飾られた黒いベルトを撒き腕輪やペンダントなどのアクセサリーを着飾っていた。
このオシャレに気を遣う人が多い都市でも相当値段がしそうな服装をしている。
俺は屋根の上の端から女を見下ろしこれからどうするか考えていた。
マオの捜索もあるしまだ聖王国を脱出するわけにはいかない。
ホロタのグループチャットで眷属達に聖王国を攻めさせるという手もあるけど間違って眷属がマオを殺してしまうかもしれないしな。
この辺で一旦身を隠しておいて暫くしたらマオと眷属候補を探せば良いか。
この小鳥の特徴は国中の聖騎士や衛兵に知れ渡ってるかもしれないから違う鳥に乗り移る必要がある。
周辺に鳥は居ないか見渡していると、下から声が聞こえて来た。
「痛ったーいっ、どうして私がっ!もう嫌ぁーっ!!」
ピンクの髪の女が叫んだみたいだ。
下を見るとピンクの髪の女が青いオーラを全身から噴き出しながら立ち上がり周囲に発生させた風が塵やゴミを巻き上げている。
何というか逸材の匂いがするな。
俺は何となく強そうな気配をピンクの髪の女に感じ下へ降りて話しかけてみた。
「どうしたのピー?」
急に声を掛けられたからかピンクの髪の女は憤怒したままの鬼の形相でキッと俺を睨んだ。
顔を見た感じ20代前半の若者という感じだな。
振り向いた相手が小鳥だと分かるとピンクの女の表情は緩くなり噴き出していた青いオーラが萎んでいった。
「誰?君が喋ったの?」
「そうだピー、ピーが声を掛けたのピー」
小鳥が喋ってることに驚き目を丸くした後、ピンクの髪の女が有り得ないほどデコレーションされたホロタをジャケットから取り出してとんでもないスピードで操作して底を俺に向けて来た。
撮ってんなコレ。
「ピーが君の名前?」
崩れた厚化粧の顔は興味津々という表情をしていた。
「そうピー、そっちは何て名前ピー?」
「私エミ。よろしくピーちゃん」
「エミはどうして落ちたピー?」
エミの顔が暗くなる。
「…それは…実験ホログラムを撮ってる最中に爆発しちゃったから…そうだ続きを撮らないとっ」
エミは衣服の砂や埃を手で払い落とし家に入って行った。
俺は後ろから付いて行きドアに滑り込んで家の中へと入った。
家の1階は半分綺麗で半分汚かった。キッチンとダイニングは掃除が行き届き上質な素材で作られた台やテーブルなのに対してリビングは物で溢れ掃除もされていない。
エミが急いで2階へと昇って行く。
俺も後を追って2階へ行くと1階同様に綺麗な部屋と散らかった部屋があった。
エミは手前の綺麗な部屋に入り吹き飛んだ縫い包みや人形、カーテンなどを整えて白い革のソファーに座り木の温かみを感じる色合いをした木製ローテーブルに様々な物を並べていく。
数種類の液体が入った小瓶と粉の入った小瓶、鋭い研磨された短剣と可愛らしい花柄のナプキンを何枚も積んだ。
エミが奥の白い棚から別の小動物や植物のデコレーションが施されたホロタを2台持って来て恐ろしいスピードで操作し指を振って1台を空中に固定させた。
ホロタ持ちすぎだろ。
もう一度指を振りホロタの角度を調整して底をエミ自身とローテーブルに向けるとソファーの左にあるサイドテーブルから手鏡を取って化粧を直し髪をセットし直した。
そしてローテーブルの前にあるスタンド式の間接照明石を点灯させると満面の笑みを作りホロタに向かって話始めた。
「ハーイ!みんな微エミ足りてる?スマイルチャンネルのエミだよぉー」
エミが両頬に人差し指を当てる仕草をしながら挨拶して両手をホロタに振った。
地球でやってたVTuber時代が懐かしいな。
元同業者が裏で見ると結構痛い光景だ。
「今日はぁ…ジャジャーン!」
掛け声と共に液体の入った小瓶を手に取り浮いているホロタに向ける。
「チェイジ―がプロデュースした限定ポーションの検証をしていきまーっす」
ソファーに置いてあったもう一つのホロタを操作しポーションのアップを撮る。
「見えるかなぁ、これが金貨1枚の通常ポーションでぇ、こっちが金貨5枚のハイポーション、最後のが金貨10枚のエクストラポーションなのね」
ポーションの紹介が終わると持ってたホロタをソファーに置いて右手で短剣を持ち左腕を浮いているホロタに向けた。
「それじゃいきますっ、えいっ」
短剣を深く左腕に突き刺し血が流れた。
「ひあ゛あ゛ーっ!!」
エミが耳をつんざくような悲鳴を上げ厚化粧の顔に珠の汗が浮かんだ。
短剣を抜いて通常タイプのポーションをホロタに向けた。
「い゛、いきまぁす…」
ポーションを一口飲んだ。
「わかるかなぁ、今このぐらいのラインまで飲んだのね」
血が滴る腕をホロタに向ける。
「全然治って無ーい。遅効性かもしれないからもうすこし待ちます。あー痛いよぉ」
少し放置した後に話を再開した。
「傷はこんな感じ。全然治って無いよね、一口じゃ効果薄いなぁ」
ポーションを二口飲んだ。
エミはこうして量に対する効能を検証していき、通常ポーションを全て飲み干してようやく傷口が塞がった。
「あーん傷跡が残ってるぅ~」
そう不満を漏らしながら次は青い液体の入ったハイポーションをホロタに向けた。
「次はハイポーションを検証しますねぇ」
エミはハイポーションをローテーブルの上に置いてシャツを捲り短剣を両手で持って腹に何度も突き刺した。
「う゛ぅっ!!」
涙を流しながら苦悶の表情を浮かべホロタに傷口を見せるとハイポーションを一口飲んだ。
一口では治らず説明した後に震える手でハイポーションを持って二口目を飲んだ。
ハイポーションも飲み干すまで傷は治らず飲み切った後のエミはやつれ顔色が悪くなっていた。
「…じゃ、じゃあ最後はエクストラポーションでぇす…」
手の震えは収まらずエミは粉が入った瓶をホロタに向けた。
「このままじゃ気が持たないのでダン特製の粉で一発キメてからエクストラポーションの検証します…」
エミは白い粉を服用してから検証を行った。
今度は左足を失いエクストラポーションを一気飲みした。
流石に一口ずつは無理そうだった。
生えて来た足の形が右に比べて変わっており長さも若干合って居なかった。
「最悪ぅぅぅうっ!全然ダメじゃん!はぁー今から3本のレビューするね…」
エミは値段や効能、味に入手のし易さ等の欠点をボロカスに捲し立てた。
「チャンネルのフォローと高評価よろしくぅ、じゃあまたね~」
いや笑えないよ。どこがスマイルチャンネルなんだ。
グロいだけだったじゃないか。
エミは指を振って宙に浮いているホロタを下ろし手に取るとソファーに置いていたホロタと2台をローテーブルに並べて恐ろしいスピードで操作した。
「ふぅ、終わったぁ」
ローテーブルの下から別のポーションを取り出して飲むと、瞬時に身体の傷跡やおかしくなった左足が治った。
しかし顔色までは治らずエミの頬を涙が伝う。
俺はエミに話しかけた。
「大丈夫ピー?」
ソファーの背に乗せた頭を少しずらしチラッと俺の姿を確認すると正面に顔を戻した。
「ピーちゃん居たんだ…」
「どうしてそんな辛いことしてるピー?」
「ピーちゃんは分からないかもだけど私ホロタのインフルエンサーだから」
それは分かってるさ。
「知ってるピー。でも他に再生数を稼ぐ方法は沢山あるのにどうして大変なことをしてるのピー?」
「最初は高級アイテムの紹介をしてたんだけど残してくれた親の財産が尽きちゃって方針を変えたの。フォロワーを失いたくなくて今までの再生数を維持するには過激な企画をやるしかなかった」
承認欲求ってやつかな。執着すると手段を選ばなくなる。
「別の企画で再生数を伸ばしていけば良いピー」
「私には才能が無かったの。剣や魔法は人の興味を引く程じゃないし珍しいスキルも持ってない」
「知恵を絞れば何か良いアイデアが出るピー」
「フォロワーが減っていくのが怖くてそんな実験的なことをする余裕が無かった。簡単に数字が稼げる方法を真似ることしか出来なかったの」
だからって危険な事する必要は無いと思うけどな。
「それで今満足してるピー?」
「全然。もう私耐えられない。ダンの粉はよく効くから今は結構まともだけど夜は眠れないしまともに頭が働かなくなる時が頻繁にある。それに最近アンチが増えてきて炎上気味なの」
限界だな。
エミは両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。
「一旦頭からホロタを引き離してみるピー」
「ダメ。友達とか親戚も全部ホロタで繋がってる。それを切り離したら私が私じゃなくなっちゃう」
依存し過ぎだ。尚更ホロタを控えた方が良い。
「じゃあ他のことをする時間を作ってみるピー、教会に行くとか散歩をするだとかピー」
「…教会かぁ…」
エミが顔を塞いでいた両手を解き開いた窓の外を見る。
外はもう暗くなっていた。
ぼうっと眺めていると下から女性の声が聞こえて来た。
「エミ!今すぐ開けなさい!どういうことか説明して!」
ガンガン家のドアを叩きエミに出てくるよう叫んでいる。
エミは疲労を押し殺して下へと降りていきドアを開けたのだった。
ブックマーク・評価・リアクションありがとうございます、励みになります。




