24 3体目の眷属
ドアの前で泣き崩れるクルクが悔しさを口にする。
「畜生っ!私はもうダメだっ」
「どうしてだピー?まだあと1日あるピー」
「何しようとしてもパデモが邪魔をする、治療師を呼ぶことは出来ないしパデモの脇に居た男は治療するどころか壊してくる」
「パデモをなんとかしないといけないピー」
「奴の剣奴には無理だ」
「クルクならもしかしてハンデがあっても勝てるかもピー」
「…ノージンは生易しい相手じゃない。それに身体が重くて思うように動かない。スピードを最大の武器にしている私にとって致命的だ」
「きっとパデモがクルクに毒を盛ったピー」
「違うと思う、私が口にする食材は自分で育てているから毒を盛りようが無い」
「餌もピー?」
「っ!まさかっ!」
クルクは弱った身体でヨタヨタと豚部屋に行き餌の木の実とハーブを一掴みして水を張った桶に入れた。
暫くすると徐々に桶の水が紫色に変色した。
クルクの顔に驚きと絶望の表情が浮かび上がる。
「最初からパデモの奴に謀られていたんだっ…」
クルクはまたその場でへたり込み涙を流す。
肩を震わせるクルクに俺は揺さぶりをかける。
「このままで良いのピー?」
「…良いわけない、でもどうしようもないっ…」
「もしも今この状況から脱することが出来たらどうしたいピー?」
「そんなの出来るわけ無い」
「願望でも口にするとスッキリするピー」
「…私はパデモを…」
復讐を言いかけたところで俺が直に口を挟む。
「もっと闘技場全体を見て深い気持ちを聞かせて欲しいピー」
クルクの抱えている問題はパデモを殺して終わりじゃないだろ。
何でクルクは剣闘士なんだよ、どうやってそれが成立してるんだよ。
客が残酷さを望んでるからだろ。
観客やホロタのファンだって本当にクルクのファンなんかじゃなくただ強者に憧れてるだけなんじゃないのか。
どうせクルクが明日負けたらノージンに鞍替えするだろ。
「私の深い気持ち…」
「何が問題で本当は今どうしたい気分なのか、心の底から叫んでみるピー!」
「…私は…本当は…暴れ回りたいっ!邪魔する奴は全て殺して力の限り暴力を振り撒いてやりたいっ!!」
そう叫んだ瞬間、俺はブルっと振動し闇が溢れ出した。
闇はクルクだけじゃなく部屋全体に流れた。
俺は右の翼を前に出しチャンネル登録の舞を披露する。
羽の先から出た濃縮された闇がクルクへと流れ、そして何故か途中で逸れて別の方角に流れて行った。
スルスルと俺の闇を吸収していったのはなんと、一頭の豚だった。
お前が眷属になるんかい。
「ぶひぃいいっ!」
豚は鳴き声を上げながらみるみるうちに姿を変えていく。
3m程まで身体が大きくなり全身の筋量が増して後ろ足で立ち上がった。
肩の骨格が人間に近くなって腕が伸び人間みたいな5本指の掌になった。
闇が豚の下半身を覆うと黒いピッタリしたズボンになる。
そして凄まじい闇のオーラを全身から噴き出した。
「何がぶひぶひキュンだコラァっ!」
丸太みたいな太い腕で拳を繰り出しクルクの頭を押し殴るとそのまま地面に衝突しクルクの頭部が簡単に破裂した。
豚の興奮は収まらずタックルで壁をぶち破って出て行った。
おいおい豚が喋れるようになってしかも暴走するとはな。
俺は一瞬唖然としたが、すぐに羽ばたき豚の後を追った。
豚は鼻を鳴らしながらドスンドスンと喧しい足音を立てて猛進する。
立ち塞がる壁は全て強烈なタックルでぶち壊し豚は真っ直ぐ進んでいく。
衛兵が何人か止めに来たが豚が一発殴ると全員頭が弾け飛んだ。
凄い力だ。
ドニシャとマハルダよりも圧倒的にフィジカルが強い。
豚の爆進は続き広い廊下に出た。
赤い絨毯が敷かれ壁には風景画等の絵画が飾られてる上品な廊下だったが豚はお構いなく爆進した。
廊下の先には戦闘の模様が彫られた茶色い両開きの扉がある。
扉の両脇に居た豚より身長が高い屈強なウォーグの衛兵2人が突進して来る豚に気が付き剣を抜いて立ち向かった。
「どこから湧いて出たんだこの豚のモンスターは!?」
「アリーナ用のモンスターが脱走したんだろうさっ!」
2人のウォーグは豚が射程範囲に入ったタイミングで青いオーラを纏わせた剣を振り抜いた。
何らかのスキルを使ったのか豚に2人の斬撃が命中したが微動だにせず、走りながら1人ずつ豚が衛兵の頭部を殴ると金属のヘルムごと首から上が消し飛んだ。
豚がタックルで両開きの扉をブチ破り中に入って行く。
「な、何だっ、豚!?」
中に居たのはパデモとクルクの部屋に来ていた白いローブの男だった。
豚は目の前のテーブルやら椅子やらを殴り壊しパデモ目掛けて進む。
「解放して構わんっ、やれっ!」
パデモがそう命令すると白いローブの男がグニャグニャと変形していき、蝙蝠の羽を生やした醜悪な顔の人型モンスターに変身した。
肌は暗い灰色でオールバックの白髪はそのままだがでねじれた2本の角を額に生やし、下あごから鋭い牙が突き出ている。そして長い尻尾があった。
人間じゃなかったのかコイツ。通りでクルクが怪しむわけだ。
灰色のモンスターは両手を豚に向けると黄緑のエネルギーが上下に流れる空間を創りだした。
豚は真っ向から黄緑の空間に突入し何事も無く通り抜けた。
「何っ!?そんなバカなっ!」
パデモと灰色のモンスターが驚愕し一瞬固まる。
その間に豚が加速し距離を一気に詰めると灰色モンスターの顔面を殴り頭部を粉砕した。
首から青い血を噴き出し灰色のモンスターが倒れていく。
「くそっ、こうなったら仕方が無いっ」
パデモがグニャリと溶け変形していく。
太った身体が更に大きくなり肌がオレンジ色に変わった。背中に蝙蝠の羽が生え尻尾も生える。
こいつもモンスターだったんかい。
パデモは裂けた口から緑の煙を噴き出した。
豚はそのまま突進し叫ぶ。
「オレの餌に毒入れやがってこのクソがぁあ!!」
闇を纏った拳をパデモの顔面に打ち込むと首から上が消し飛んだ。
頭を失ったパデモの身体は後ろに倒れピクリとも動かなくなった。
「フゴォォォォオッ!!」
豚がパデモの死体をグシャリと踏みつぶし雄叫びを上げた。
「待て、一旦落ち着け」
俺はまだ興奮している豚に話しかける。
「フーッ、フーッ、…あぁ闇の王。そこに居たとは気が付かなかった」
良かった話が通じる。俺を闇の王と認識しているみたいだ。
このまま暴れ続けて止められないのかと心配したぞ。
「お前は俺の眷属なんだよな」
「そうだ、オデは闇の王から力を貰った」
「好きに呼んでくれて構わないが俺の名前はイリだ、お前の名は?」
「闇の王、オデは名前無い」
あ、そうかクルクが食用に育ててただけだから名付けなかったのか。
「自分で考えて名乗ってみてくれ」
豚は腕を組んで黙り考え込んだ。
そしてしばらくして口を開いた。
「…クルク。オデの名はクルクだ闇の王」
マジかこいつ。
お前を食おうとしてお前自身がぶっ殺した人間の名を名乗るのかよ。
どういう神経しているのか疑ってしまうな。
まあ別に良いけどさ。
「わかった。ではこういう闇に満ちた時にピッタリな言葉を贈ろう。ハッピーダークデイ!クルク!」
こうして3番目の眷属は豚になってしまったのだった。
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