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23 クルクの問題

食事が終わりクルクが魔法道具で食器の洗浄をしている。


ちょっと声を掛けにくいな。


俺を食べようとするかもしれないし。


そう思って傍観しているとクルクが部屋にある縦に設置された丸太に向かって戦闘の練習をし始めた。


レイピアの代わりに木の棒を使って丸太を突き、フォームを確認したりシャドー的なイメージトレーニングもしていた。


練習でも青いオーラを木の棒に纏わせ目にも止まらぬ速さで突きの反復練習を続ける。


俺は時を忘れ魅入ってしまっていた。


その真剣さと超人的な速度は他者を引きつける魅力がある。


クルクの息が上がり床にへたり込んだ。


練習お疲れさんと心の中で思ったが様子がおかしい。


クルクが胸を抑え苦しそうにしている。


何とか立ち上がってテーブルにある小さなポッドからコップに水を注ぎ一気に飲み干した。


「はぁ、はぁ…」


給水して尚も呼吸が荒く顔中に汗を浮かべている。


クルクはそのままベッドに倒れ込んで寝た。


持病でもあったのか食あたりでも引いたのだろうか。


オーバーワークの可能性もあるし普段からここまで自分を追い込むハードな練習だったのかもしれない。


窓の外を見るともう夜になっていた。


それほど練習をしていたということだ。


一旦俺も寝るか。


俺は羽ばたき闘技場の近所にあった高い塔の最上部に止まって寝た。


小鳥の身体が寝ている間に意識を俺の闇本体に切り替えダンジョンのコアルームに視界が変わった。


ドニシャとマハルダは居ないようだ。


ずっと本体の傍に居るダークウォーカー2体に指示を出し手の無い俺に代わってホロタを操作してもらった。


グループチャットに何も連絡が無いことを確認するとクルクについて検索した。


大量のサムネがヒットし戦闘映像や決闘後の感想が人気のアップロードとして上位に表示されている。


他にもクルクのフィギュア等のグッズを紹介する映像やクルクの食事を再現する料理映像なんかも5万回以上再生されている。


相当人気だな。


もはやアイドル並みだ。


俺は数ある投稿映像の中から次戦の勝敗予想について言及しているサムネを見つけダークウォーカーにタップさせた。


ホロタからホログラムが再生される。


部屋でテーブルの椅子に座ってる面長の青年がホログラムに映し出され話始める。


『今日はエへシーンのアリーナチャンピオンこと疾風(はやて)のクルクとチャレンジャーのドラゴンハンター、ノージンの勝敗と展開予想をします…』


青年はドラゴンハンターのノージンを中心に選手紹介をして簡単な勝敗予想を語った。


このアリーナオタクの青年によればノージンはこの世界の人類にとって相当な強者の位置付けでありクルクに対して明確な勝負論のある好敵手だった。


レジェンダリー級の元冒険者であり戦争で聖王国の聖騎士に勝利したこともある上にドラゴンの魔王を討伐したのだから実力は本物だと熱を込めて語っていた。


聖王国については分からないがレジェンダリー級の冒険者といえば上から2番目のランクだ。


うちのダークウォーカーが上から6番目のエリート級と7番目のノービス級の間ぐらいのランクなことを考慮するとヤバイ相手だとわかる。


アリーナの勝敗が賭けの対象になっているそうで、青年の予想は大穴狙いのドロー決着だった。


死ぬか生き残るかみたいな世界かと思ったらドローもあったようだ。


再生が終わり他の投稿映像を探す。


過去の対戦結果に関する感想映像では負けた相手をボロカスに酷評していた。


クルク相手にスキルのチョイスが間違ってるだとか、もっと防御を意識しないとダメだとかそれっぽいことを並べつつ敗者を(おとし)めている。


途中で感想映像を閉じて別の映像を探しているとピュマ王子が言っていた支配人の映像が見つかった。


白と紫のローブを着たスキンヘッドの太った中年が豪華な椅子と壁を背景に話し出す。


『皆さんこんにちは、エへシーンアリーナ支配人のパデモです。今日はとてもめでたいお知らせがございます、この度エへシーンアリーナのチャンピオンことクルクが次戦で勝利した暁には剣闘士の役に幕を下ろしピュマ王子の護衛団長に就任することが決定致しました…』


ピュマ王子の言う通り、次勝ったら剣闘士から解放されるらしい。


俺はホロタを閉じるようダークウォーカーに指示し意識を憑依している小鳥に切り替え夜のエへシーンを眺めていたのだった。


翌朝になると俺は羽ばたきクルクの部屋の窓までやって来た。


クルクは部屋におらず隣の豚部屋を覗くとクルクが豚に餌を与えているを発見した。


俺は豚部屋の窓枠に止まりクルクの様子を観察する。


クルクは時々胸のあたりを手で押さえ、苦しそうな表情を見せた。


これは普段通りじゃないだろう、何らかのアクシデントが発生したと思って良さそうだ。


「クソっ、あと少しのところでっ、何故今身体がっ…」


拳を握りしめ悔しそうに悪態をつくクルクに俺は話しかける。


「こんにちはクルク」


「誰だ?…小鳥?」


「名前はピーだピー」


「そうかお前はピーというのか、喋る鳥とは珍しいな」


「身体大丈夫ピー?」


「…いや昨日から体調が良く無い」


「どうして体調が悪くなったピー?」


「分からない」


「どうやって治すつもりピー?」


「一応今朝の差し入れ時に治療を頼んでみたからもうすぐ治療師が来て治してくれるはずだ」


「じゃあ大丈夫ピー?」


「決闘の前に練習出来ないのは剣闘士にとって致命的だ、ベストな身体に回復させるのにも時間が掛かる」


コンディションにも相当意識しているみたいだな。


地球のアスリートみたいだ。


俺はクルクが欲しい。


負けて死なれては困るが、勝たれると闇に引きずり込むのに苦労しそうだ。


さてどうするか。


「先延ばしして貰えば良いピー」


「仮病とか延命行為の不正目的で申請する者が現れるからルール上それは出来ない」


「なら身体を強化する薬を使えば良いピー」


ホロタで知り合った闇市の売人ダンという者が確かドーピングも取り扱っていると言っていた。


今俺がダンから盗めば十分間に合う。


「剣闘士は持たざる者同士の戦いだから資金や援助によって差が出るドーピング行為は禁止だ」


クルクがしんどそうにしながらも俺に鋭い眼を向ける。


おいおい、クルクは他の剣闘士より良い生活してんだろ。


それは良いのかよ。


「ピーが見た他の剣闘士の部屋は汚くて狭くて不自由だったピー、クルクは良い食事が出来て練習も休息も快適だピー」


「そ、それは私だって新米剣闘士の頃は悪い環境だったし今はチャンピオンでファンが支援してくれてるから…」


「今回の対戦相手と比べてフェアなのかピー?」


「ノージンは少し前に剣闘士になったばかりでまだ環境は整っていない。でも私が当時のチャンピオンに挑んだ時も環境の差を覆して勝利したんだっ」


「じゃあクルクもチャンピオンとして堂々と身体を強化する薬を使って挑戦者は差を覆せば良いんだピー」


「っ…」


「今日までならピーが薬の用意をしてあげれるピー」


クルクは黙り込み悩んでいる様子だった。


クルクの返答を待って居るとドアをノックする音が聞こえて来た。


どういう仕組みかは分からないが隣の部屋のノック音が豚部屋までクリアに伝わってきている。


クルクは豚部屋を出た。


俺も羽ばたきクルクの後を付いて行く。


部屋のドアを開けると白と紫の高級そうなロープを着たスキンヘッドの太ったおじさんが居た。


ホロタで見た支配人のパデモだ。


パデモは感情の籠っていない笑顔を顔に貼り付けて舐めるようにクルクの身体を見ながらクルクに声を掛ける。


「調子はどうだクルク?」


「何の用だ?」


「ふふっ、体調が悪いと聞いて気遣っているだけじゃないか」


クルクの眉間にシワが寄る。


「それだけなら帰ってくれ」


「ん?治療師は要らんのか?」


パデモは脇に控えていた白いローブ姿の男を手で指し示す。


男は白髪のオールバックで褐色の肌をした中年だ。


クルクは舌打ちし男を睨み付けた。


「お前の信者みたいな奴を信用出来るわけがないだろ!私はナーシャを頼んだはずだっ!」


「口を慎めよクルク、まだオレの剣奴だろう」


パデモが自分の首を指してクルクが剣奴であることを意識させる。


クルクの首に彫られたタトゥーが剣奴の証なのだろう。


「お前がピュマ王子の提案を承諾した時点でそんな脅しに屈する必要は無くなったんだ」


「…まあ良い、なら治療師は無しだ」


「何だとっ!なら自分でナーシャに会いに行く」


「彼女は既に転勤してここには居ない」


「そんな…」


「ぐふふっ、明日を楽しみにしているぞ」


笑いながらパデモと白いローブの男は去って行った。


クルクはドアの栓を閉めるとその場でへたり込んだ。


顔を両手で覆い肩を震わせたのだった。

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