表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/86

22 エへシーンの剣闘士

俺は小鳥の姿で空を飛び北東にあるエへシーンへと飛行する。


ダンジョン領域を抜けくねくねと流れる川を越えて山に差し掛かった。


下を見ると地球の感覚では風変わりに思える奇抜な葉を付けた植物達が見られた。


生存競争で敗れ去った木や草花が地面に倒れ勝利した植物の養分となっている。


そんな植物だらけの山でモンスターの姿もチラホラ見られた。


尖った耳に灰色の汚れた肌をした小柄な人型のモンスターが少数の集団で移動していたり、赤い肌と長くて太い腕が特徴的な5m程の巨大な人型モンスターが棘の付いたこん棒を持って徘徊していたりした。


俺は山の上空を飛行し続け小鳥の身体が疲れてスピードが落ちてくるとモンスターが登って来そうに無い背の高い木の上部にある枝に止まって羽休めした。


十分な休息をとった後に上空へと羽ばたき引き続き北東を目指して飛行を続けた。


もう一つ肩幅の広い山を越えると上空から巨大な円形の防壁に囲まれた建物の集合体が見えて来た。


防壁の外側には幅のある堀があり水が張ってある。


城塞都市みたいな感じだな。


都市から長い道が何方向かに伸びており遠く離れた所に関所のような施設がいくつかあった。


小鳥の俺は関所も防壁も関係無い。


俺は空から防壁を越え内部へと侵入した。


防壁内部は広かった。


石材で建設された建物が立ち並び広場や市場、小規模な農園と牧場なども見られた。


俺のダンジョンがあるホースクト王国の王都よりも遥かに広大だ。


この面積を城壁で囲っているのが信じられない。


魔法やスキルでどうにかなるのかもしれないけど見れば驚く。


俺は高度を下げて眼下の景色をよく観察した。


昼間だからか人が沢山見られる。


特に大通りには大勢の人が居て人間と同じ見た目のヒューマン以外にも様々な人種が見られた。


背が高く身体のゴツイ人種、小さな体に長い髭と筋肉質な身体の人種、褐色白髪に緑の眼をした人種などだ。


中央へ行くほどに人の往来が激しくなり最も人が密集しているのは円形闘技場のような施設だった。


近くまで飛行してみると武装した2人が中の舞台で戦闘していたから闘技場で間違いないだろう。


良いね。


この闘技場で一番強い人物を眷属にしてみよう。


観客は満員に近く、どこに止まるか探していると最前列の一角に紫の天幕があった。


天幕の前は開けているみたいだが俺は上空に居るので中の様子は分からない。


気にせず天幕の上の先端に止まった。


闘技場中に聞こえるほどの音量で実況の声が聞こえて来る。


「いよいよ皆様お待ちかね!今日のメインイベントです!」


割れんばかりの拍手と歓声がドッと沸き客のテンションが高まっているのがわかる。


歓声が続く間に闘技城内の入口付近から炭酸ガスのような白い煙が噴射され1人の大男が入場してきた。


「お隣シェイソウ国から挑戦して参りました!ウォーグの恵まれた身体能力に卓越したスキル性能!将軍の地位を捨て並み居るアリーナの猛者をねじ伏せて今日念願のチャンピオンに挑むその名も…鬼将軍レクター!!!」


観客からレクターコールが沸き拍手が増す。


それに応えるようにレクターが武器を持って居ない左手拳を上に挙げた。


デカい。


ウォーグという人種なのかエへシーンに来て目立つ人種の一つに背の高い人達が見られたがレクターは更にデカく4m近くある。


左肩と腰に金属のプレートを当てベルトで固定されただけのシンプルな防具で茶色い短パンとブーツとグローブ以外は履いていない。


装備は少ないがパンパンに膨れ上がった全身の筋肉が迫力を生み様になっている。


そして薄い肌色のスキンヘッドには髑髏や武器にモンスター等のタトゥーがビッシリ彫られ、右手には両刃の長剣が握られていた。


レクターがゆっくりと前進し中央付近の地面に引かれている青いラインの所で止まる。


「続きまして我が国エへシーンが誇るアリーナのチャンピオン!820全戦全勝無敗のパーフェクトレコードにして歴代最長の7年連続チャンピオン記録を保持する剣闘士!疾風(はやて)のぉ──クルク!」


闘技場全体が揺れるほどの歓声が炸裂し、大勢の観客がホロタを向けて撮影を開始する。


場内が最高潮に達する中でレクターの反対側からガスが噴射し筋肉質なヒューマンの女性が入場した。


ツーブロックの赤いショートヘアに、金属の胸当てと右の籠手のみの防具で茶色い短パンとブーツにグローブを着ているだけの恰好で、露出した小麦色の肌が印象的だ。


そして翼の装飾が施された金のアミュレットをタトゥーが彫られた首に掛けており、刀身が杖になっている変わったレイピアを両手に装備していた。


クルクは観客にリアクションを返さず静かに青いラインまで進む。


俺が止まっている天幕から幼い少年の声が聞こえて来た。


「クルクー!頑張れぇー!」


どうやら少年はクルクを応援しているらしい。


少年の声が聞こえたのかは不明だがクルクがチラリと俺が止まっている天幕の方を見て視線をレクターに戻した。


レクターとクルクは鋭い眼光をぶつけ合いお互いに武器を構えた。


「皆様瞬き厳禁ですよ!チャンピオン戦開始です!」


ゴォーンという銅鑼(ドラ)の音が響き渡り、クルクが消えた。


武器と武器が衝突しギィーンという金属音が響いた。


レクターは一歩も動いておらず一瞬で間合いを詰めたクルクの一突きを長剣で防いで見せた。


レクターがカウンターに出ようとした瞬間、クルクが青いオーラを纏わせたレイピアを目にも止まらぬ速さで突きまくり強靭な肉体に幾つもの風穴を空けて吹き飛ばした。


場内が沸き叫びに近い歓声が響く。


レクターは起き上がれず倒れ伏したままピクリとも動かない。


ゴォーンという銅鑼(ドラ)の音が連続で2回鳴った。


「クルクまたもや瞬殺ぅー!!強い!強過ぎる!!各国が恐れたあの鬼将軍レクターでも敵わない!この世にクルクに勝てる人類は存在するのかー!?」


実況に感化された観客がクルクコールをして更に興奮している。


確かに強かったな。


というか速すぎだろ。


今のドニシャよりも速い。


それであのウォーグとかいう人種のムキムキ大男を簡単に貫く火力があるから対人戦では驚異的だろうな。


当のクルクはレイピアに付いた血を地面に振るい落とすとレクターから背を向け入場口へと静かに帰った。


「いや~クルクの戦は毎回解説する間がありませんなぁ」


実況とは別の人間が話始め場内は祝勝ムードになる。


俺はクルクを探すべく羽ばたいて闘技場の外壁をぐるりと見て回った。


石で出来た壁がくり抜かれて窓になっている部分もあり中を順に確認していく。


狭い部屋で剣を素振りする青年や調理場、監禁されたモンスター等が見られた。


そして大きな部屋にクルクを発見した。


俺は窓の枠に止まり中をじっくり確認する。


部屋は庭のように芝生の床になっており窓から陽が差し込む位置には何種類もの作物を植えていた。


そして芝生の上で3頭程のピンクの豚にクルクが鞭を振い追いかけ回していた。


「美味しくなぁ~れっ、美味しくなぁ~れっ、ぶひぶひキュン!」


闘技場で絶対見せないであろう実に幸せそうな顔で謎の言葉を口にしている。


おっとっとっと。


まさかこんな人だったとはな。実に興味深い。


「運動お疲れさん、ご褒美の餌だぞー」


そう言ってクルクは追いかけるのを止めると棚から上の口が開けた長方形の木箱を取り出し豚達の目の前に置いた。


木箱の中には木の実やカットされたハーブらしき植物が入っており、豚たちは鼻を鳴らして恐る恐る食べ始めた。


「良い肉に育つんだぞ」


クルクはそう言うと扉を開けて隣の部屋に行った。


俺も移動しクルクの居る部屋の窓枠に止まる。


この部屋も広かった。


縦に設置された丸太があるスペースの隣には四角い木のテーブルがあり奥には鍋や包丁を備えたキッチンがあって、窓際のベッドの隣には様々な道具が収納された棚があった。


クルクが胸当てと籠手の防具を脱ぎレイピアと一緒に木の籠へ入れると豚部屋とは別の扉からノック音が聞こえて来た。


「クルクー!僕だよ!」


どこかで聞いた声だと思ったら闘技場の天幕で叫んでた少年の声と同じだ。


クルクが扉の栓を抜いてロックを解除し扉を開けた。


金髪の少年が入って来た。


「ピュマ王子、今日は何の御用ですか?」


クルクは両腕を組みながら質問した。


「支配人からやっと許可して貰えたよ、クルクが次勝ったら解放してくれるって約束した」


「本当ですか!?」


クルクは喜びを顔に出し一歩ピュマ王子に寄った。


もし剣闘士から解放されるとしたらこんなに喜ぶのも頷ける。


「うん、今日ホロタでもオーナーが発表するってさ」


「私なんかのためにそこまでして頂けるなんて…」


「クルクには僕の護衛団長になってほしいからね」


「その日が楽しみです」


「気を抜かないでクルク、次の相手はダイレクトマッチでいよいよあのドラゴンハンターだよ」


「いつも通り素早く倒して見せますよ」


クルクは口角を上げニヤリと笑う。


「信じてる。2日後の決戦でまた会おうね」


ピュマ王子が別れを告げて部屋から出た。


クルクは扉をロックすると嬉しそうに鼻歌を歌いながら食事の用意をし始めた。


吊るしてあった豚の丸焼きを片手で持ち上げ幾つかの部位をカットすると皿に盛りつける。


パンとサラダを添えてテーブルに並べると着席し美味しそうに食べ始めたのだった。

ブックマーク・評価・リアクションありがとうございます、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ