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2 ダンジョンマスターの誕生と初めての配下

途方も無い時が過ぎ、今突然景色が誕生した。


真っ暗だった世界は消え、俺には色ある世界が見えている。


石材で建設された床に壁、鉄で出来た檻なんかが視認出来た。


「っしぁあっ!やっと見えるようになったぞッ」


感動して思わず声が出た。妙な声だった。でもそう、声だ。


視覚が戻ったことに気を取られて気付くのが遅れたが五感全てが戻っている。


そして自分の身体に視線を移したところで、俺の高揚した気分は一気に凍り付いた。


「えッ?」


折角五感を取り戻したのに、俺の身体は人間を辞めていた。


全身が真っ黒で煙のように流動し、身体を構成している細かい粒子がザワザワと(うごめ)いている。


そして足が無い。宙に浮く球状の(もや)みたいなのから人型の上半身が飛び出していた。


なんだ化物じゃん…と思いかけたが、どこか既視感があった。


俺は記憶をまさぐり、少しの間をおいて辿り着いた。


…これ、迷宮(まよみや)イリだわ。


顔は確認してないけど、声で分かった。アプリを使って自作した迷宮(まよみや)イリ専用の特殊な声と同じだったから。


どうやら俺はVTuberのアバターになっていたみたいだった。


「ダンジョンマスター、マヨミヤイリの初期設定が完了しました、チュートリアルを開始します」


誰?何?


突然後ろから中性的で事務的な日本語が聞こえ、俺は慌てて振り向いた。


人は見当たらなく、声が聞こえた位置を見ると、石で出来た台座の上に優しい光を放つ水晶玉みたいなのが鎮座していた。


「マヨミヤイリ様、おめでとうございます、あなたはダンジョンマスターに選ばれました」


は?ダンジョンマスター?


いやそれよりも、迷宮(まよみや)イリは俺の本名じゃない。


この球が俺をそう呼ぶということは、やっぱり俺はVTuberのアバターだってことなのか。


「ダンジョンマスターとは、ダンジョンの支配者です。ダンジョンはダンジョンコアによって生み出され管理されています」


なんか頼んでも無いのに球が説明しだした。


やたらとダンジョンって言うけどファンタジー作品の用語だろ。


「待て待て、その前にここ何処?」


チュートリアルとか言ってたし録音再生的な事なのかもしれないけど聞いてみた。


「ホースクト王国の王都地下3階の牢獄部屋です」


ホースクト王国なんて地球に無い。


これって異世界だよな、俺の存在がもう既に異世界テイストだしな。


それにしてもこの球、対話式だったな。


珍しい、賢いタイプの球だ。


「ふーん、でお前は何者?」


「私はダンジョンコアです」


「ダンジョンコアって何?」


「ダンジョンマスターの(つい)となる存在でありもう一つの命です、ダンジョンを運営する為に必要なあらゆる機能を使用可能です」


流石異世界、命って増えることあるんだな。


「お前が死んだり壊れたら俺はどうなるんだ?」


「ダンジョンコアが破壊されるとダンジョンマスターは消滅します」


「はぁあッ!??お前みたいな球を一生守んなきゃいけねーのかよっ!」


残機が増えたんじゃなくて、急所が増えただけかい。


これはしんどいな。


掃除してうっかりこの球落としたら俺死ぬんだから。


今すぐにでもこの呪みたいな状態から解放されたい。


俺がショックを受けていると、球から放たれる光が黄色く変色した。


もしかして怒ったかな。


「警告、侵入者を検知しました、チュートリアルを中断して排除することを推奨します」


早いって。まだチュートリアル終わって無いだろ。


王都にダンジョンなんて作成したからだぞ!


誰がここに決めたんだよ。


「排除するより、お前を俺が持ち運んで遠くに脱出したら良いんじゃないの?」


「ダンジョンコアは台座に固定されている為、持ち運び出来ません」


クソッ、無理か。


でも球が固定されてるならうっかり落として割れる心配は無いんだな。


「侵入者がダンジョンコアを破壊するとは限らないよな?」


「人類はダンジョンマスターを魔王と呼び、恐れています、その配下のモンスターや核となるダンジョンコアを発見すると排除するのが一般的です」


人類の敵で魔王ね。


今の俺、迷宮(まよみや)イリにとっては元から人類の敵で魔王みたいな存在だった。


俺が今ここに居るのと何か関係があるのかもな。


そうなると、争いは避けられそうにない。


「なら俺が行くしかないよな、戦い方を教えてくれ」


「マスターに戦闘スキルはありません、配下に侵入者と戦わせることをお勧めします」


俺こんな姿してるのにニートだったわ。


「俺に配下なんて居るの?」


近くに配下らしい存在は確認出来ない。


「現在マスターの配下数は0です、マスター固有のスキルで闇堕ちさせ配下を増やしましょう」


「ガチャじゃねーのかよ」


てっきり召喚ガチャみたいなのでポンポン生み出すものだと思ってた。


何だよ闇堕ちって…俺のスタイルに合ってて良いじゃねーか。


「緊急事態発生、侵入者がコアルームに接近しています」


球の光が赤色に変わって点滅し、球の上に薄っすら透過されたホログラムの3Dマップが表示された。


ホログラムには壁と天井を透明にしたこの部屋が縮小表示されている。


案外広いぞこの部屋。サッカーコートの半分程はある。


部屋の中を見ると俺とダンジョンコアの他に赤く光っている人が何人か居た。


これが侵入者かな。


可動域が十分確保された鎧に両刃の真っ直ぐな剣を装備している兵士風の6人が階段を下りてこの部屋に入ろうとしており、部屋の奥にも壁に(はりつけ)にされている人が1人居る。


いきなり多過ぎだって!


半数以上の侵入者を配下にしないと排除出来ないかもしれない。


球にスキルの使い方を聞いてみるかと思ったが、そんな時間も無い。


兵士風の6人がもう部屋の入口に到達している!


ヤバイ!ダンジョンコアを壊されたら終わりだ!


でもどっちに行けば良いんだ!?


まずは確実にスキルを成功させなくては話にならない。


俺はどちらに行こうか一瞬迷い、急いで奥の壁へと向かう。


俺に足は無いが行きたい方向へ意識を向けると空中を進むことが出来た。


奥に辿り着くと、マップで見た通り人が(はりつけ)にされているのが見えた。


それは血まみれの老人だった。


閉じた眼には凝固した血がへばりつき、白かったであろうローブはズタボロで赤黒く汚れ、全身に痛々しい傷と血があった。


そして何より目を引いたのは赤黒いメタリックな蛇が老人の身体に巻き付き首を噛んでいることだった。


一定の間隔で何かを吸収しているかのごとく、黄緑色の光が蛇の口から尻尾に流れていく。


拷問されとるがな。


「もしもーし、息してる?」


爺さんはこちらに気が付いたのか、ほんの少し顔を俺の方に動かした。


「…」


虫レベルだけどまだ息してんね。


死にかけの爺さん配下にしても戦力ならないよなぁ。


でもやるしかねーのよこっちは!


やり方も分からないがスキルを使うべく、爺さんに近寄ると俺の身体から黒い(もや)が溢れ出した。


何か出てる!こんな時に俺は怪我とか病気でもやらかしたのか!?


俺が焦っていると、黒い(もや)は勝手に動き、地面に吸い込まれていく。


もしかしてこれが球の言ってたスキルかもしれない。


でも操作する方法が分からない!


パニック気味な俺をよそに、黒い(もや)は次第に地面から離れ、爺さんに吸い込まれていった。


途端に爺さんが潰れた喉で呻き声を上げ、(はりつけ)にされた体をよじる。


ここで死なれては俺が困る。


「爺さん落ち着け!動くと傷がッ…」


俺が言う途中で、ダンジョンコアの方から声が聞こえて来た。


「おい見ろ、何だこれは!」


「こ、これはダンジョンコアじゃないのか?」


声の方に振り向くと、既に兵士風の6人がダンジョンコアを囲ってる。


ヤバイヤバイヤバイッッ!!


こうなったら俺がなんとかするしかない!


思い立つやいなや俺は全速力で駆け出した。


「ダンジョンコア?そんなもの直に破壊しろっ!」


リーダーらしき人物の命令に従い、1人の兵士が腰に(たずさ)えていた剣を抜く。


「待てやコラァア!!!」


俺は怒声で注意を引き、兵士達の動きを一瞬止めた。


俺の姿を見て兵士達は驚いている。


この隙に拳で6人に襲い掛かろうとした。


その時だった。


6本の濃縮された黒いエネルギーが俺の脇を一瞬で通過し、兵士達全員を貫いた。


兵士達はバタバタとその場で倒れ、傷口から黒い塵になっていき、装備を残してすぐに消滅した。


俺が振り向くと、そこには闇に堕ちたような姿の爺さんが立って居た。


ボロボロだった服が黒紫の新しいローブに変わりフードを被っている。


少々血色の悪い肌だが傷は完全に消えており、黒いスパークした小さな衛星を周囲に浮かべている。


そして俺の姿を見ても動じず、虹の眼を真っ直ぐこちらに向けていた。


「お互い危ないところでしたな、間に合って良かった」


おいおい爺さん渋くて良い声してんな。


「ありがとう爺さん、助かったよ」


「礼には及びませんぞ、儂はイリ様の配下なのですから」


そう言って爺さんは長い白髭の隙間から笑みをこぼし、俺も口角を上げながら言葉を返す。


「爺さん、こういう闇に満ちた日はこう言うんだ、ハッピーダークデイ!」


異世界で一番最初に俺の配下になったのは謎の爺さんだった。

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