17 2体目の眷属
グスロがニタニタした笑みを浮かべドニシャの檻に近寄る。
「これはこれは女王陛下ではありませんか、今日も素敵なお姿ですねぇ」
言い方も声も実にいやらしい。
「何故貴方がここにいるの?」
ドニシャの声が震えている。
答えは既に理解しているはずだが正確な答え合わせをしておきたかったのだろうか。
「女王陛下のご想像通りですよ、御父君にお会いする前から既に炎の魔王ジュキラと契約していたのです」
絶望するドニシャを横目にグスロは他のヒューマンの男に手で合図を送ると奥から首輪の付けられた女のエルフが前に連れてこられた。
「ドニシャ助けて!」
自分を呼ぶ女のエルフを見てドニシャは檻の限界まで詰め寄る。
「嘘…アスフィ!」
アスフィって確か行方不明だったドニシャの妹だったよな。
あの首輪はマハルダが付けられていたのと一緒だ。彼女は奴隷なのだろう。
ドニシャが手錠をなんとかしようともがくがグスロが柵越しからドニシャの顔面を蹴り飛ばした。
ドニシャは鼻から血を流し檻の中で倒れ込む。
「おっとマナ阻害の手錠を外そうとするんじゃありません、貢物に何をしようとするのですか」
ドニシャは身体を起こすと涙を浮かべていた。
「騙された私はどうなっても良い…でもアスティは自由にして!エルフ達に手を出さないで!」
「何言ってんだぁ?妹君は貢物だから自由にするわけないしこの国のエルフは全員ヒューマンの奴隷になる。そしてお前は俺の玩具になるんだよっ」
「グスロぉぉ!!」
「ふっ、ふはははっ!」
叫びながら泣き崩れるドニシャをグスロが馬鹿笑いする。
グスロは満足するまで笑ったタイミングでファブウが現れた。
「ジュキラ様がお呼びだ、ついて来いグスロ」
ヒューマンの見張りを1人檻の前に残し、グスロ達はアスティを連れてファブウの後ろを付いて行きこの場から離れて行った。
今が頃合いだな。
俺は羽ばたき柵の隙間から檻の中に入った。
ドニシャを見ると涙で顔が濡れ鼻血を垂らしながら身体を震わせていた。
散々な結果だったよな。
ドニシャはエルフの問題を理解してたし国を良くしようと頑張ってたのにな。
騙されて終了じゃ可哀想だ。
まあ騙した奴が悪いか騙された奴が悪いかみたいな話もあるけどさ。
人生上手くいかないことばっかりだよな。
でここからどうするかだ。
「ドニシャ聞こえるピー?」
「…ピー…?」
ドニシャが俺に気が付き涙の止まらない眼でこちらを見る。
「今どんな気分ピー?」
「…」
嫌味じゃない。最悪なのは分かってる。
しかし俺は導き出さなくてはならない。
今ドニシャは大きな分岐点に立って居るのだから。
「思っていることを口に出すと少しは気が楽になるピー」
「…」
「もしも今ドニシャが何でも出来るようになったとしたら、どうしたいピー?」
深い沈黙が流れた。
こんな状況で小鳥如きが何を言わそうというのかとうんざりしているかもしれない。
それかグスロの事もあって俺の事が怪しく思えているのかもしれない。
ただこんな状況だからこそ妄想であれ願望であれ吐き出したい気分というのが少しはあるはずだ。
どうしても飲み込み切れない深く暗い衝動が。
「…炎の魔王を…グスロを…」
ドニシャが掠れた声を絞り出した。
やられたから復讐って言いたいのだろう。
しかしそれは俺が欲しい方向性じゃない。
目的を持つと闇にならないんだよ。
俺のスキルについて理解しているわけじゃないが闇には少し詳しい。
もっと堕ちた深い領域に闇がある。
だから悪い人間や魔王を懲らしめるだとか損した分の仕返しだとかどうでも良い。
エルフ達にも精神的な嫌がらせを受けてたんだ。
ドニシャのことを何も理解してくれていなかったろ。
心の底から今欲してることを俺が引き出してやる。
俺は羽ばたき檻を出ると燃える森から遠ざかろうと走る鼠を1匹足で捕まえドニシャの檻に戻って来た。
わざとドニシャの目の前で俺の足から逃げ出そうともがく灰色の鼠をクチバシで抉る。
鼠がたまらずギギッと甲高い悲鳴を上げるが俺は容赦なくクチバシで首の肉を抉り取ると鼠は動かなくなった。
「やめて…」
ドニシャの表情には嫌悪感が含まれていた。
クチバシを中心に血まみれな状態で俺はドニシャに語り掛ける。
「これは食事だピー。みんな自己都合で勝手な解釈をするんだピー」
「…」
「物事は単純で正しい理由なんか必要無いピー。心と身体の本音を声に出してみるピー」
「…私を騙したグスロが、国を襲った炎の魔王が、憎くて憎くて仕方が無いっ…」
まだだ。
誰がとかじゃないんだよ。
もっと衝動的で感覚的なことなんだ。
シンプルな話なんだよ。
「ドニシャは今日沢山嫌なことがあったピー、抱え込まないで頭を解放させるピー」
「解放…」
まだピンと来てないようだ。
こうなったら配信のノリでもやってみるか。
俺は両翼を頭にポンポン当ててながら声を出した。
「溜まったモヤモヤを抜くんだ!モヤ抜きしろ!モきモきぃモきモきぃ~!」
地球で配信してた頃の、視聴者を闇へいざなうおまじないみたいなノリだ。
モヤ抜きを更に略してモき。何気によく使ってたワードだった。
なんか配信通りにやったから語尾が緩んでしまったな。
「…」
ドニシャのツボには嵌らなかったらしい。
折角の空気がヤバくなりそうだ。
「ドニシャ!何も考えず今どうしたいかをありのままに吐き出すピー!」
俺は慌てて軌道を修正した。
「私は…」
ドニシャの眼からより一層涙が流れる。
綺麗な顔をぐしゃぐしゃにしてドニシャは腹の底から声を作った。
「全部何もかも壊してしまいたい!命も大地も全部!消えてしまえっ!!!」
ドニシャの声で俺の身体が振動した。
そして黒い靄のような闇が俺から溢れ出した。
ドニシャが突然叫んだことで武装したヒューマンの男が柵の中を覗き込んできたが今はどうでもいい。
次々に俺から闇が噴き出しドニシャに吸い込まれていく。
すかさず俺は右の翼を微細に回しながらチャンネル登録の舞を披露する。
中指に相当するからか右の翼の羽先から濃縮された闇が勢い良く噴き出しドニシャに入った。
ドニシャの肌や髪色が変わっていく中で俺は叫ぶ。
「ハッピーダークデイ!ドニシャ!」
こうしてエルフの女王は闇に堕ちたのだった。
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